精神科の閉鎖病棟で知り合った、誰のことも恨まずに一人で死のうとした男の子の話

久し振りに精神科に入院してました。
悲しいことに若い人がまぁ多い。
他の人達の話を聞いていると、12歳の子もいるとのことです。
しかも、閉鎖病棟ってことは鍵付きの病棟なわけで、解放病棟(皆さんが想像しているような見たことのあるよくある病室のある病棟)より重症度が高いわけです。
そんな閉鎖病棟のロビーにいると、目の前には19歳くらいの落ち着いた雰囲気の男の子がいました。
他人を自分の弟と重ねるのは身勝手な行為ですが、どことなーくその男の子が自殺した弟と重なりました。
大人しそうな黒髪、眼鏡をかけて知的な感じ、大人しそうで人見知りをしそうな。
唯一弟と違うのは、痛々しいくらいの数の傷が手首にあったことです。
男性のリストカッターに初めて会いました。
いるにはいるものの、女性と比べると少ないですよね。
その男の子と話してみたら、人見知りとは真逆でとてもお話が好きで人見知りもしないとのことでした。
私はそれに安心と嬉しさを覚えました。
口下手で人見知りな方は、どうにも良いところが周りに伝わりづらいです。
就活で躓きまくって面接に落ちまくる方の中には、多分こういう方々が何人もいると思います。
就活で、「面接に落ちる度に自分のことを否定されたと思わないで下さい。その企業と相性が合わなかっただけです」と大学で講師から説明されたことがありますが、いやいや何回も落とされたら、そら自分のことを否定された気になりますって。無理言うなや、って感じです。
で。驚いたのが、この男の子、なんと16歳でした。
大人びた風貌なんですよね。
「16歳って大人ではないけど子供でもない時期で、難しいよね。今は自覚が無いかもだけど、私くらいの歳になるとやっぱり若さは武器だと認識するよ。でも、同時に若いからこそ辛いんだよね。だって、あと何十年この地獄を生きろって話だもんね」と言うと、男の子はぶんぶんと首を縦に振るとても素直な子でした。
私の弟は20代半ばで自殺しているのですが、一度も死にたいと思ったことのない毒父は、「これが40歳とかなら分かるのに、何でこの若さで死んだのかが分からない」と寝惚けたことを言ってましたが、馬鹿だな、若いから自殺したんだよと当時思ってました。今でも思ってます。
世のじーさんばーさんで自殺した話なんてなかなか聞かないじゃないですか。
それは、黙っててももうすぐ勝手にお迎えが来るからで、自分で自分のことを殺す必要が無いからなんですよ。
他人を殺すのすら疲れる行為なのに、それがましてや対自分となればその労力は果たして何倍、何十倍になるのか。

男の子は、入院するキッカケや諸々の話をしてくれました。
学校では上下関係が激しいこと(上級生から何時間も拘束される等)、親とは微妙な感じであること、学校に行けてないこと。
ここで驚くのが、この男の子、自分の境遇に対する辛さは話してくれたけど、上級生や親に対しての恨みや罵詈雑言が一切出てこないのです。
不当な理由で上級生から何時間も拘束されたら、「あいつ、死ねや」くらい毒づきたくなるじゃないですか。
しかし、この男の子にはそれがない。
その結果が手首の傷なんだと思いました。
この子は、ストレスを全部自分にぶつけてしまう。
そして最近、生存確認を取るのが怖くて取ってなかったネットのお友達に連絡したところ、そのお友達のご両親から自殺したと説明されたこと、それにより自分を必要としてくれる人はもう誰もいないから自分も死のうとしたと教えてくれました。
この男の子は、いつもノートを手にしてて、そのノートを見せてもらうと、心理学について勉強したことを纏めていたり、新聞を読んで感想を纏めたり、部活に関しても名前を失念したのですが難しそうな部活(理系ちっくなもの)に入っており、地頭が良いだけでなく多分勉強も出来るタイプです。
この子の場合、攻撃的な側面が見えず、環境が悪いことも分かっており、面接(入試のときにあったみたいです)等では自分の思いをしっかり話せることも分かっており、事実きちんとコミュニケーションも取れております。
この子は今病院にいるけど、環境さえ良ければその辺の健常者より結果を出せるのではないか?と思えるくらい、自分のことを客観視出来ています。
私がこの子と同い年のとき、自分のことをここまで正確に見ることも判断することも出来ていなかったでしょう。
何が嫌って、こういう子が理不尽な理由で死を選ぶしかないと思った環境です。
この子と同じ環境に陥ったとき、俗に言う無敵の人になるパターンもあるのです。
こういう頭が良くて無害な子が理不尽さに殺されるのが、私はとても嫌です。
勉強熱心で、研修医の診察の練習台になってほしい的な話が来たときも(勿論、こんな言い方はしてこないけどつまるところ研修医の練習台だと私は感じました)、「研修医!いいですね!」と病気や治療に対して勉強する姿勢もある。
そして、その男の子は診察室へ行きました。

精神科に入院すると、救いようの無い馬鹿もいるんですよ。
何度看護師から注意されても色んな女性患者にラブレターを渡しまくる、性欲をコントロール出来ない馬鹿なおっさんとか。
自分は不倫しておきながら、説教という名の持論の押し付けをしてくる奴とか(不倫は私の知らないところで好きにやれば?と、思うけど、不倫してる奴が私に説教するのは心底やめてほしいと思います。お前、偉そうに説教出来るタマかよ)。
救いようの無い馬鹿はどうでもいいのですが、この男の子のように「割を食ってる患者」がいて、こういう人達を消費しないでくれ、と思うのです。
治療が必要なのは少し先に産まれてきただけで偉そうな態度を取って理不尽なことをしてくる上級生なわけで、この男の子に必要なのは、言葉遊びになりますが「治療」ではなく「理解」や「癒し」だと思うんですよ。
いつも思うのですが、自覚無き加害者を治療しないのは何故なのでしょう?
この上級生って将来パワハラ先輩、パワハラ上司になるんじゃないの?と感じるんです。
被害にあった側が治療を受けることはよくあるけど、毒親、DVをした配偶者、パワハラ系先輩・上司、いじめ加害者、こいつらが治療を受けないのは何故なのでしょう?
私が読んだ、精神科医の岡田尊司さんの「愛着障害の克服」という本では、虐待された子ばかりが治療を受けて、虐待に関わった人達を治療しない現実について書かれています。
恐らく、医者の中でも「第三者を病むまで攻撃した奴を治療する」ことに対して必要性を感じている人は少ないのでは?
だけど、この手合いを治療しないと病人なんて増える一方だと思うんですよ。
感情論を抜きにしても、被害者だけを治療するというのは、「非常に効率が悪い」。
だって、1という存在が10の被害を出すんですよ(10の部分は50にも100にもなることもある)。
だったら、まずその1の治療をした方が余程効率的で、未来の被害者も被害者にならないかもしれない。
私は、この男の子とお話しして、精神科の治療の仕方について改めて疑問を覚えました。



最後に。あのときお話しした男の子へ。
貴方はとても素敵な男の子です。
この先、きっと素敵な青年になり、大人の男性となるでしょう。
生きていたら嫌なことをしてくる奴ばかりだけど、貴方の周りには病棟だけでも何人も人が居ました。
つまり、貴方は人から好かれる方です。
「何で生きているのか分からない」と貴方は言ってました。
頭の良い貴方はその答えを求め続けるでしょう。
私は貴方に、「クラスの陽キャって馬鹿っぽくて頭の中御花畑に見えるけど、今の貴方に必要なのは御花畑になることだ。要は馬鹿になれ、ってことだ。DQNになれ、ってことじゃない。陽キャは前科がつかない範囲で馬鹿なことをやってる。でも、きっと貴方はそういう生き方を好まない。合わないと思う。それでも、貴方の場合少しだけ馬鹿になった方がいい」と伝えました。
予想通り、貴方は馬鹿になる生き方に抵抗感があることも教えてくれました。
人間の性格や価値観は一朝一夕では変わりません。
それでも私は何人もの人間もどきが何度貴方のことを否定しても、私は貴方が素敵で素晴らしい人間であると言いたい。
理不尽な目にあったときに、他人を恨むのは簡単だけど、貴方のように周りに怨嗟をぶつけないというのは誰もが出来ることではないし簡単なことではない。
貴方が当たり前にやってるそれは、とても凄いことです。
どうか貴方を筆頭に貴方のような方々が、もう少しだけ生きやすい世界になりますように。

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