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本日の一曲 vol.329 クライスラー プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ (Fritz Kreisler: Präludium und Allegro im Stile von Pugnani, 1905)

1875年2月2日にウィーンで生まれたフリッツ・クライスラーさんは、まずヴァイオリニストとして有名ですが、数々のヴァイオリン曲の名曲を作曲し、作曲家としても有名です。

クライスラーさんは、7歳から10歳までウィーン音楽院でブルックナー(Anton Bruckner)さん、ドント(Jakob Dont)さん、ヘルメスベルガー(Joseph Hellmesberger Jr.)さんたちに、10歳から12歳までパリ音楽院でドリーブ(Léo Delibes)さん、マサール(Lambert Massart)さん、マスネ(Jules Massenet)さんたちに教えを受けました。

13歳の1888年にアメリカデビューを果たし、翌年までアメリカを巡り、ウィーンに帰国後、ウィーン・フィルに応募したのですが、目が悪いということで入団できませんでした。ここでクライスラーさんはヴァイオリンを弾くのをやめてしまい、医学を勉強し、絵を描いたり、軍隊に入ったりしました。しかし、21歳の1896年、再びヴァイオリンを手にし、演奏活動に戻り、ヨーロッパとアメリカを行き来する生活になりました。

その演奏活動ともに、「愛の喜び」「愛の悲しみ」「美しきロスマリン」「中国の太鼓」など数々のヴァイオリンの名曲を作曲しました。その中で、クライスラーさんが過去のバロック時代の作曲家の作品を発掘したとして、いくつかのヴァイオリン曲を発表しました。本日ご紹介する「プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ」もその中の曲の一つです。

プニャーニさんというのは、1731年11月27日にイタリアのトリノで生まれたヴァイオリニスト・作曲家であるガエターノ・プニャーニ(Gaetano Pugnani)さんのことです。同時代人としては、1728年生まれのヨゼフ・ハイドン(Joseph Haydn)さんがいます。

プニャーニさんは、1754年の23歳のときにヴァイオリン協奏曲を、1767年の36歳のときにオペラ「ナネッタとルビーノ」をそれぞれ作曲し、1770年39歳の時にトリノ宮廷楽団の首席コンサート・マスターに就任しました。以後、オペラは数曲作曲したようです。お弟子さんの中には、ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティ(Giovanni Battista Viotti)さんがおり、1780年から3年間ヴィオッティさんとロシアへ演奏旅行へ行ったりしていました。

クライスラーさんがそのプニャーニさんの研究をしていたところ、発表されていないプニャーニさんの曲を発見し、これを発表したというわけです。

オーケストラ編曲版ですが、アイザック・スターン(Isaac Stern)さんのヴァイオリンで、フランツ・リスト室内管弦楽団(Franz Liszt Chamber Orchestra)の演奏です。

この曲は、ヴァイオリンとピアノのデュオで演奏されるのが普通ですが、感動的な前奏曲からアレグロになり、ヴィルトゥオーゾ的なヴァイオリン・ソロ部分を経て、ドラマティックに終わるという小品であり、ヴァイオリンの初学者からプロまで頻繁に取り上げられる曲です。特にその前奏曲の最初の感動的な始まりが「ミ」と「シ」の繰り返しになっているので、「ミシミシ」という愛称がついています。

五嶋みどり(Midori)さんのヴァイオリンとロバート・マクドナルド(Robert McDonald)さんのピアノによる演奏です。

ところが、この曲かどうかは分かりませんが、ある批評家が「曲はよいが演奏がだめだ」とクライスラーさんのことを批判したことがありました。これにクライスラーさんが反論して、それは「自作自演だ」ということを暴露してしまったのです。なぜクライスラーさんがそんなことをしたのかというと、クライスラーさん本人の説明によれば「演奏家自身の曲だといえば聴いてくれないだろうし、他の演奏家も演奏してくれなくなるから」だそうです。

そのようないきさつもあり、この曲については「プニャーニの様式による」前奏曲とアレグロというように、「誰それの様式による(im stile von / in style of)」という断わり書きが題名についているクライスラーさんの曲がいくつかあるのです。

どれだけあるかというと、Wikipedia日本語版によると…

ヴィヴァルディの様式によるヴァイオリン協奏曲 ハ長調
ディッタースドルフの様式によるスケルツォ
ボッケリーニの様式によるアレグレット
マルティーニの様式によるアンダンティーノ
マルティーニの様式による祈り
カルティエの様式によるシャセ
ポルポラの様式によるメヌエット
プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ
プニャーニの様式によるテンポ・ディ・メヌエット
フランクールの様式によるシチリアーノとリゴードン
ルクレールの様式によるタンブラン
W.F. バッハの様式によるグラーヴェ
クープランの様式によるルイ13世の歌とパヴァーヌ
クープランの様式によるプロヴァンスの朝の歌
クープランの様式による貴婦人

と結構ありますね😂

(by R)

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