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[地球一周98日目]COVID‑19?


首元に赤い塊がある。ぬる温かいそれは中に入ってきて、さぶいぼを出現させる。唾を飲み込むたびに嫌な気持ち悪さが駆け抜ける。香りがしなくなった。味だけがする。ミラノのロータリーを雨跡の残るガラス窓から覗く。路面電車と車と人が交差する。喉の右側にへばりつくねばりっこいかわいい奴がベールで主張するたびに身体が疲れる。水が欲しい、湿りがほしい、海が恋しい。顎関節が軋みを上げる。フロリダで買った髪留めを嗅ぐ。懐かしい匂いがした。オレンジを剥く。完璧な美しさがある。かわいい奴が主張をそこまでしなくなるのが、少しだけ寂しくなる。鼻と頭に移動した塊。時折聞こえる車の怒号に都市にいることを思い出させられる。夢の中でも旅をする。英語と認識して喋っている感覚がなくなる。ありがとうThankyou gracias Hola! Cinco Dos Bonjour enchante Bonsoir Danke schönGuten Tag Buon giorno Grazie Prego Ciao!
鼻腔の繊維が引っ張られる。二輪の鼻息。        

強張る鎖骨と肩甲骨を這う酸っぱみ
襟足から抜ける
塊の水浴び 箱庭の滝

爪が伸びてるから切りたい
NETFLIX SI ALZA IL VENTO Le vent se lève, il faut tenter de vivre. KIKI CONSEGNE ADOMICILIO LAUGHTER IN THE DARK

白い波が記憶をさらっていく。
ホテルではレアな羽虫に懐かしい人たちの愛を見る。タタタタッと冷たい白い筺が鳴く。横隔膜が痙攣して思い出したかのようにむせる。解像度
肩甲骨を締める37.4℃
旅をしてるとたまにどこにいるか分からなくなる
名前のついた海や山や土地は名前のない空と同じく境目はなかったから

鼻を拭いた桜模様と藍色の手拭い、イタリアの水ACQUA nevea、ベネチアのど飴Ricola CON ERBE DELLE ALPI SVIZZERE L'ORIGINALEが旅仲間

充電しなきゃ
スマホが冷たい
白い波に鼻先までつかると息が楽
冷たい足の指先に塊がまとわり離れがたくしている
網膜が痛い
お腹すいた
アクアのドゥオーモの形を水滴がなぞる
山頂に来たかと思えば足を踏み外し
登頂したかと思えば中腹だと気づく

20年来の体温計が時を告げるまでボーっとする
iPhoneにエネルギー注入
身体が音を鳴らしはじめる

喉と頭と目と首に最後のヴェノムが粘りついているやや遠いコンセントはベッドぎりぎりのため右肩がいたい

目が覚めると私の膜は融けて彩を取り戻していた
コロナ1週間滞在の記録


ひとりの人間の真摯な仕事は  おもいもかけない遠いところで  小さな小さな渦巻きをつくる           「小さな渦巻き」茨城のりこ