岡本太郎の沖縄


この南の素っ裸の島から遠くふりかえってみると、

私は 「日本」を深い歴史の層の下から、

あらためて再発見する思いだった。

目がさめたとき、あたりが不意に新しい世界のようにうつる、あの清々しさである。

Looking back from this naked,

southern island I found myself rediscovering Japan

anew from beneath the deep layers of history

I awaken refreshed, as if my surroundings have suddenly taken on the appearance of a new world. The whole of Japan is really stark naked, like this.

日本全体も、本当はこのように素っ裸なのだ。

日本人は日本を本土の内側に、一定の限界としてしか捉えていない。われわれのまわりには、幅ひろくひろがる碧色に輝いた海があり

The Japanese people tend to think of Japan as being limited to the main islands. We are surrounded by a vast, blue ocean, containing countless self-contained islands. We do not try to grasp these as being corporeal. We should free ourselves from abstract concepts from our fixed awareness of Japan, to recapture the sunlight that our ancestors 
once experienced through their entire bodies, the scent of the winds that blow from south and north and bring these fulfilling presences back into our blood.

そこには充実した島々が無数につらなって、とり囲んでいる。それを肉体として掴みとっていない。

日本という抽象的な概念、固まった意識からぬけ出し、

かつて祖先が全身に受けとめていた太陽の輝きと

南から北からの風の匂い、

その充実した気配を血の中にとりもどさなければならない。
私は沖縄の人に言いたい。

I have something to say to the people of Okinawa. That is, now you have achieved reunification with Japan, Okinawa must remain Okinawa. Okinawa must retain its uniqueness. It must never try and become 'the same as the mainland'.

復帰が実現した今こそ、沖縄はあくまでも沖縄であるべきだ。

沖縄の独自性を貫く覚悟をすべきだ。 決して、いわゆる「本土なみ」 などになってはならない。

ということを。

TARO Okamoto

岡本太郎

岡本太郎「岡本太郎の沖縄」(2016,小学館)p.2-3より





沖縄の、つやつやと光っている時間。岡本太郎は裸で、まるごとその中にと び込んでいる、という感じだった。

この旅は名著「忘れられた日本―沖縄文化論」 (一九六一年中央公論社刊)を 残した。その透徹した直観。今まで誰も言わなかったこの天地の生の本質を ほとんど詩と言いたい、リリカルで、硬質な文章で的確に書ききった。

しかし、岡本太郎の掴みとっていたのは、言葉として表現できるものだけで はない。彼はいつも、全身、全存在で対象にぶつかり、肉体のうちにとり込ん でしまう。迫り方は論理的だが、頭ではなく、生きている岡本太郎という〝い のち”そのものが、ひたと抱き合い、一体となった「沖縄」なのである。

幸いなことに、カメラがあった。

私たちは彼の見たもの、その視線、対象そのものを、いま、追いかけて見る ことができる。

彼は感動すると、「いいねえ。いいねえ。 見ろよ。凄いじゃないか。」を連発 しながら、夢中でシャッターを切った。激情に震えあがりながら、眼は冷静 に、的確無比に対象を捉えている。

岡本太郎の見たものがここにある。

「写真」ではない。彼は「写真」を撮ろうなんて、みじんも思っていなかっ た。ただ見た。見たものをとどめた。

読者は今、無垢な岡本太郎といっしょに、はじめて見る清らかな天地、透明な

神秘に参入してほしい。

岡本敏子

岡本太郎 岡本敏子「岡本太郎の沖縄」(2000,日本放送出版教会)p.1より

ひとりの人間の真摯な仕事は  おもいもかけない遠いところで  小さな小さな渦巻きをつくる           「小さな渦巻き」茨城のりこ