九大・キュレーションサイトの現在

ふと久々に思い出したので。

九州大学の起業部が「設立」した会社によって作られたキュレーションサイト(九レーションサイト、⑨レーションサイトって言いたい気持ちはあるが、以下普通にキュレーションサイトとしておく)が、現在どのような末路、もとい現状になっているかを見てみた。

参考URL

九大起業部がスタートアップ11社創業したので見に行ったら、ポート株式会社監修の低品質キュレーションサイトが11個並んでいた(ushigyu.net(株式会社エコーズ)、2019年10月4日作成、2021年9月6日更新)
九州大の起業部、スタートアップ11社創業(日本経済新聞、2019年9月22日)
学生起業の実態を探る~これでいいのか九大起業部(前)(Net IB News、2019年11月18日)
九大生、起業に挑む 沖縄は伴走型支援で成果データで読む地域再生 九州・沖縄編(日本経済新聞、2021年11月12日)

はじめに

九州大学は、もちろん言わずと知れた七帝大の一つである名門大学のことである。学校の内容については説明を割愛させていただく。

その中のサークルの一つである「九州大学起業部」は、2017年6月に発足したサークルであり、2019年9月の時点で約120人の学生が所属し、これまでにメドメインなど4社が起業したという。公式サイトによると、『サッカー部がサッカーをするがごとく起業部は学生起業します。』と書いており、その名の通り起業するためのサークルであることは確かであろう。なお、起業部の公式サイトは2020年5月を最後に更新されておらず、またFacebookのアカウントも同月の更新を最後に途絶えている(Twitterの公式アカウントは2020年7月を最後に更新が途絶えているが、2021年新歓のTwitterアカウントも2021年4月の1か月のみ稼働していた。また講師による起業部での講義を行う旨のツイートも確認できることから、少なくとも現存はする模様)。

(2022/3/25追記:その講義のツイートは2021年9月を最後に確認できなかったが、同年11月の日経の記事を発見(こちら、要無料登録)。新型コロナ禍もあったが、抗体検査キットのKAICO、小型人工衛星開発のQPS研究所などの企業が九大から生まれているらしい。どこまでが起業部の実績かは不明だが、少なくとも九大が先進的な企業を生み出しているのは事実のようだ)

そんなサークルで、2019年には11社のスタートアップが「創業」したという。内容としては、すべて「インターネットメディア事業」であり、内容がすべて一時期流行ったキュレーションサイト(いわゆるトレンドブログの類)であった。さらに、テンプレートも全く同じものを使用しており、この「起業」を支援したポート株式会社(主な運営サイト、キャリアパーク)も、画像剽窃で話題になったこともあったそうな。

「創業」した会社は以下の通りである。(順番はNet IB Newsのものを使用した。詳細は左記リンクを参照)

・re.PORT 株式会社
・メルシオン 株式会社
・株式会社 Ongame
・株式会社 おおすな
・C.U.E. 株式会社
・株式会社 nearprog
・dear 株式会社
・株式会社 zer0
・株式会社Snow Drop
・株式会社 QUpress
・株式会社 poirier

今の時代、アルファベットの社名自体は珍しくないのだが、それにしても社名だけでいろいろ察してしまう。なお、ドメインも.jpだったり.comだったり。起業するのならせっかくだし、.co.jpあたり取ってもよかったのではと自分なら思うが。あとだが、全部「株式会社」ではある。合同会社にしなかったのは、株式会社の複雑な手続きを学ばせるというよりは、ポート側でもいくらか出資した(日経新聞によれば1社あたり50万円で、事業が順調に進めば1社数千万円で買収するとのことだった)のが一因だろう。資本金は1円か2円である。1円でも作れるとはよく言うが。あと、一応httpsには対応している。

次ページ以降では、そのサイトの詳細について説明していく。

1. re.PORT 株式会社

Net IB Newsによると2019年8月13日に「設立」され、例の11社では最も早く「起業」した株式会社。
ウェブサイト名は『債務バイバイ | 債務整理の「分からない」にお答えします』であり、その名の通り債務整理に関する内容を投稿していた。ドメイン名は「saimusayonara.jp」。

2020年1月1日時点のアーカイブが最新だが、2019年10月6日を最後に更新が途絶えている。2019年10月4日の時点ではコーヒーの画像だったが、2020年1月のものではフリーの見出しとなっていた。

なお、フッターは「© 2020 債務バイバイ All rights reserved.」としか書いておらず、発信者情報とかも特に掲載されていない。昨今のトレンドブログでさえ、「お問い合わせ」や「プロフィール」などの記載はあるものが多い(内容があるか住所があるかはまた別問題でこそあるが)。これでよかったのかキュレーションサイト。

その後、2020年6月には「データベース接続確立エラー」の表記になっており、アクセス不能に。その後、「起業」から1年をもってドメインも失効したものだと思われる。

さて、日本で登記されている法人(会社に限らず、学校法人や宗教法人、自治体などにも含む)には法人番号というものが1社に1つつけられることにもなっており、国税庁の法人番号検索サイトより2015年以降の本店・社名・新設閉鎖等の変更登記がわかるようになっている。(そして、公開情報である)。re.PORT株式会社も例外ではなく、法人番号が与えられている。当該サイトによると、法人番号は3290001086247、本店はスタートアップ支援施設のFukuoka Growth Nextの一室に置かれている模様だ。また、法人番号指定年月日は令和元年8月16日だが、残念なことに(?)令和3年8月2日に清算の結了等で登記が閉鎖されている。

2.メルシオン 株式会社

ウェブサイト名は「そうはか」。ドメイン名は「sohaka.jp」。ウェブサイト名の由来はおそらく「葬儀」と「墓」を合わせた造語だと思われる(企業名の由来も何らかの単語であると思われる)。

多くのサイトが2019年頃には飽きていく(?)中、このサイトは翌2020年の8月までは更新していたようだ。記事量も相続や供養を中心にかなりの量があり、推定アクセス数はこれら九レーションサイトの中ではかなり高かったのではなかろうか。にもかかわらず2021年9月までには閉鎖されている(最後のアーカイブが2021年2月)。

…と若干ながら感心していたが、ドメイン名を検索するとランサーズの仕事依頼を発見。こういうことだったのか、と。

ただし、先ほどのサイトとは異なり運営者情報のページも確認できる。

国税庁法人番号検索サイトによれば、法人番号は9290001086332。住所は先ほどと同じ。登記閉鎖は2021年5月11日と、先ほどのサイトよりも早い。


3.株式会社 Ongame

ウェブサイト名は「占いRoom」、URLは「onga-me.com」。占いに関するサイトで、記事数は20~30ほど。こちらは2019年11月を最後に更新が途絶えた。

国税庁法人番号検索サイトによれば、法人番号は6290001086327。2021年7月7日に清算結了した。

4.株式会社 おおすな

ウェブサイト名は「保険ほっとけん!」、URLは「oosunahoken.com」。医療保険の比較サイトだが、こういうのって競合が激しそうだし、YMYL(お金および健康に関すること)の上位アクセスは新参者には難しいはずでは。記事数は60~70ほど。「開業」から2020年6月のアーカイブの期間(と推測される)までに、人気記事は3000ビューを稼いでいたというのだから、下手なサイトよりはマシであるといえる(月間の場合はもっとすごい)。

国税庁法人番号検索によれば、法人番号は7290001086326、登記閉鎖は令和3年4月19日とのこと。


5. C.U.E. 株式会社

ウェブサイト名は「C.U.E.」、URLは「cue-media.jp」。英語学習に関するサイトであり、この11社の中では現在でも残っている数少ないサイトとなっている。更新も最直近が2021年8月のものであり、2023年卒の就活生に向けた内容となっている。

国税庁法人番号検索によると、法人番号は3290001086338。現在でも閉鎖されておらず、法人としても現存している。


6.株式会社 nearprog

ウェブサイト名は「プログラミング大学」、ドメイン名は「nearprog.com」。プログラミング業界は割と競合も多そうであるが。記事数は10~20ほど。また、人工知能エンジニアに関する広告も貼られていた。最終更新は2020年2月。

国税庁法人番号検索によると、法人番号は8290001086341、登記閉鎖は2021年4月22日。

7.dear 株式会社

サイト名は「こみゅにかんず」、ドメイン名は「comuunicanssafe.com」。C.U.E.と同じく、サイトは現存している。なぜかウェブアーカイブが取れない仕様となっていた。記事数は10だが、2020年以降に更新された記事はタイトルや記事が変な感じとなっている。

国税庁法人番号検索によると、法人番号は5290001086344。閉鎖登記もされておらず、現存する。

8.株式会社 zer0

サイト名は「探偵のメソッド」、URLは「hits-search.com」。記事数は3つのみであり、ここまでで一番少ない。

ドメイン名が一般名詞であり、過去に同名のドメインが使われた形跡がある。2004年から2008年までMP3のダウンロードサイトとして使われ、その後2012年までアクセス不能状態が続いた後、ドメインが失効。2019年設立の探偵サイトが消滅した後、農業サイトの建設予定地(トップページが404となっており、それ以外のページが存在しない)となった後、それも消滅して現在はアクセス不能となっている。

国税庁法人番号検索によると、法人番号は7290001086342。閉鎖登記はされておらず現在でも法人格は存在している。

9.株式会社Snow Drop

サイト名は「こい婚」、URLは「snowdrop-marriage.com」。婚活に関するサイトだが、記事数は5、2019年10月が最後の更新となっている。

国税庁法人番号検索によると、法人番号は3290001086437。2021年4月28日に閉鎖登記がされている。

10.株式会社 QUpress

タイトル名は「資格のパスポート」、URLは「qushikakupress.com」。ウェブアーカイブが取れない仕様となっており、サイトも現在は閉鎖されているため内容がどうだったかは現在となっては不明であるが、おそらく資格に関するサイトだったのだろう。

国税庁法人番号検索によると、法人番号は1290001086439、閉鎖登記は2021年4月22日となっている。

11.株式会社 poirier

タイトルは「マジプロ」、URLは「majipro.jp」。プログラミングに関するという点では6と同じだが、こちらは「ニート・引きこもりでもできる仕事」という観点からプログラミングを語ろうとしていた。ただし記事数は3しかなく、最後の更新も2019年9月であった。その後2020年6月までにメンテナンスモードとなった。

国税庁法人番号検索によると、法人番号は5290001086484。法人自体は現存している。なお、読みは「ポワリエ」であり、意味は「洋梨の木」、あるいはそれに由来する洋梨の洋菓子だとか。

結果

こうして「設立」された11社のうち、現在でもウェブサイトを運営しているのはわずか2社。登記は閉鎖されていないがウェブサイトがすでに閉鎖されているものを含めても4社にとどまる。まだ2年も経過していないのにもかかわらず、である。法人設立の実践練習と思えばよいのだろうか?

おわりに

そもそもこれだけのサイトを作るだけであれば個人でよかったというのは先に挙げたウェブサイト等でも語られていたが、もしかしたら、その本質は「株式会社の立ち上げ方」を学ぶものであったとするのであれば、十分貴重な経験ができたといって差し支えないものだと思われる。…そうであると良い(?)のだが。

あと、「九大のキュレーションサイト、出来も今一つ」と批判するのは簡単である。しかし、彼らのように挑戦したかというと、自信をもっていえない部分がある。私も彼らを(反面)教師として、日々精進したい。

更新履歴

・(2021/9/25) 文章を一部校正。

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