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台湾コンビニエンスストア勢力図2020

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ヘッダー画像は2019年のもの(赤・統一超商)2019年版はこちら(当方サイト「ちや14歳」内)。

当初日本のコンビニに興味を持っていた私が、世界のコンビニエンスストアについて気になり、台湾コンビニエンスストア勢力図を私が作ったのが昨年(2019年)の2月。そこから、独立コーナー「世界コンビニエンスストア名鑑」として、東南アジア・インド・北欧へと記事を広げ、いまだに南北アメリカやヨーロッパは充実させていないものの、徐々に拡充させつつある。直近では今年(2020年)5月に「韓国コンビニエンスストア勢力図」を作成。

というわけなので、前回から1年後、久しぶりに台湾コンビニエンスストア勢力図の更新を行ってみる。

条件

前回同様、調査を行うのは統一超商(7-Eleven)、全家便利商店(FamilyMart)、來來超商(OK超商、以下便宜上「来来超商」と表記)、莱爾富国(Hi-Life)、
台湾於酒(於は草かんむりが付く「菸」、以下便宜上「於」とする)の5社。

企業のホームページ(統一超商/全家便利商店/來來超商/莱爾富国/台湾於酒)で、店舗数を確認しました。

結果

()は前年比(2月時点と比較、台湾於酒のみ9月時点)

統一超商 5864店舗(+380店舗,+6.9%)
全家便利商店 3650店舗(+308店舗,+9.2%)
莱爾富国 1418店舗(+97店舗,+7.3%)
来来超商 759店舗(-121店舗,-13.8%)
台湾於酒 71店舗(-15店舗,-17.4%)

詳しいデータは、サイト内でファイルで上げています。

全般分析

大手3社と下位2社の間で格差が広がっている。1位の統一超商のほうが2位の全家便利商店よりも店舗数を増やしているが、比率で見ると全家のほうが店舗数を増やしている。地域別については後述するが、台中・彰化・屏東・花蓮・金門では全家のほうが店舗数を増やしている。

台湾では、統一・全家を指して「超商双雄(超商雙雄)」と呼ばれているが、3位の莱爾富国だって出店率では負けてはいない。

しかし、4位の来来超商、5位の台湾於酒は店舗数を大幅に落としている。来来超商はお膝元の基隆市を中心とした台北圏(基隆・台北・新北・桃園)で99店舗を閉店させている。また1店舗のみあった台東県から撤退。大量閉店の要因については、中国語のWebサイトを見ても今一つわからなかったが、おそらく競争の激化が主因であろう。5位の台湾於酒はもともと店舗数が少なかったが、減少率では来来超商以上だ。

「四大超商」と呼ばれているが、莱爾富と来来超商の差が広がっており、「三大超商」になるのも時間の問題であろう。

市区郷鎮別首位

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(来来超商は1市3郷、台湾於酒が1郷)

市区郷鎮(正確に「市区町村」のように言うなら「市区鎮郷」なのだが、「郷鎮企業」などの言い方もあるので「郷鎮」のほうが慣れやすいと思う。以下、「行政区」と表記。)別首位の比率(同率の場合は店舗数の少ない順)。前回調査と比較して、統一超商が+2行政区、全家便利が+1行政区、来来超商が-2行政区となっている。また、無便利商店自治体だった苗栗県西湖郷に2019年11月26日(正式開業は12月7日)、統一超商が進出したことにより(出典)、便利商店が存在する自治体は350市区郷鎮、存在しない自治体は19市区郷鎮となった。

地域別分析

(表の見方:上が2019年店舗数、真ん中が2020年店舗数、その下が前年との比較。)

台湾本島

基隆市

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来来超商の本社が信義区にあることから、2019年では来来超商の店舗数が72店舗と全家便利(59店舗)より多く、統一超商(74店舗)に2店舗差まで肉薄していた基隆市。しかし、大手の猛攻に閉店せざるを得なくなった店舗も多く、統一超商(79店舗)、全家便利(63店舗)に対し来来超商は58店舗まで減らした。これに伴い、基隆市の総店舗数は6店舗減と、台湾の県市で唯一の減少となった。同市の七堵区は区市郷鎮で最大の減少幅(29店舗→25店舗、-13.79%)となった。

安楽区で全家が1位、暖暖区で統一と全家が同数、中山区で全家と来来が同数。

台北市

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全行政区で統一が上回っているのは変わらず。全家の店舗数の伸びは統一にはわずかに4店舗及ばないものの、比率では10%の伸びを見せている。台北市中正区は、全行政区で最大の店舗数増加幅(121店舗→132店舗、9.09%)である。

来来が一番店舗数を減らしているのはここ。

新北市(旧台北県)

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台湾の行政区で一番人口が多いのがここ。まあ県がまるまる市になった…というのは台湾ではよくあることなんですが。

前回調査で全家が上回っていた中和区は統一に明け渡したものの、台湾最大の行政区、板橋区で同数(124店舗)に並ぶ。全家はこのほかに、平渓区で単独首位、坪林区、烏来区、石門区で統一と同数、石碇区で莱爾富と同数となっている。

市区郷鎮別で来来超商の店舗が最も減少したのは新北市汐止区(22店舗→15店舗、-7店舗)。

板橋区については当方サイトでもこんな企画を行っています→板橋区便利商店勢力図

桃園市

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復興区に統一超商が新たに進出。

市区郷鎮別の店舗数増加トップタイに、桃園市中壢(土へんに歴の木を禾にしたもの)区が入る(他は新北市の板橋区と新荘区)。中壢区は板橋区についで店舗数が多い(人口は同市の桃園区のほうが3万5000人ほど多いが、店舗数は中壢区が38店舗上回る)。

新竹県

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高鉄新竹駅の開業後、台北のベットタウンとして栄える竹北市は、店舗数の増加数・増加率でも有数だ。前年に比べ11店舗(121店舗→132店舗)増加し、新北市の3区を抜いて19位に浮上。増加率は台北市中正区(9.22%)に次いで2位(9.09%)だ。県級市とは思えないほどの店舗数を見せるが、ゆくゆくは新竹市との合併も予想されるので、県級市のままでどれだけの店舗数になるのかは不明である。

峨眉郷に統一が、宝山郷に全家・来来が新たに進出。

新竹市

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県部分の成長が著しい新竹。一方の市はというと、全行政区9位の東区を抱えてはいるが、店舗数増加は7店舗(+2.2%)しかなく、増加率は台東県と同率でワースト2位。

苗栗県

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高鉄の開業後、苗栗あたりまでは十分台北の通勤圏となった(一部には高雄から通勤する人もいるようだが、ごく少数だろう)。そんな東京圏でいえば三島あたりのポジションに位置する苗栗。店舗数増加率は11.80%と、離島以外では最大の増加率を誇る。

店舗増加率は都市部よりも地方部で見られ、無コンビニ行政区であった西湖郷に統一超商が進出したのを皮切りに、銅鑼郷に全家と来来が2店舗ずつ開業(来来は進出)、三義郷に全家が、泰安郷に莱爾富が進出を仕掛けるなど、急激に激戦区と化している。

台中市

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2017年に高雄市を抜き、新北市に次ぐ第二の都市となった台中市(出典)。長らく中部以南は統一以外が弱かったが、全家が統一よりも6店舗多い48店舗を進出して仕掛けてきた。とはいえ、都市部で開いた圧倒的な穴を埋めるには至らないが、今後に期待したいところ。

台中市西屯区は全行政区で10位に位置し、これは中部の行政区では最大となっている。

彰化県

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南投県

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他地域と比較しても莱爾富の進出率が高い。3郷鎮に新規進出し、上位店舗の付け入るスキを狙っているか。

嘉義市

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嘉義県

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雲林県

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中南部エリアであるが、人口が希薄なこともあってそこまで大規模な進出は起きていない。元々の店舗数が少ないので、比率では平均並みにはなるが、劇的な変化は起こっていない。

台南市

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統一超商の親会社、統一企業のお膝元である台南市はやはり圧倒的だ。唯一全家の店舗数が上回っていた西港区で逆転し、龍崎区で莱爾富のみ展開、後壁区で同数であることを除けば統一の天下である。

高雄市

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台湾第三の都市高雄であるが、全家ほかの店舗が少なく、総店舗数は桃園市よりも少ない。行政区別店舗数が高雄市で一番多い三民区は人口約34万人に対して137店舗であり、新竹県竹北市(約19万6000人)より5店舗多く、台北市松山区(約20万4000人)より1店舗少ない。人口が高雄市で一番多い鳳山区は人口約36万人に対し116店舗であり、台北市北投区(約25万3000人)と同数、桃園市蘆竹区(約16万7000人)より2店舗少ない。但し、店舗密度は三民区で約2478人であり、日本の中堅都道府県並みの密度ではある。

屏東県

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統一の店舗数が圧倒的に多いが、これは屏東・恒春ら大都市に集中してドミナント展開しているためであり、全家もかなりの地域で統一と同数、もしくは上回る地域も多い。この年だけで満州郷に進出するなど8店舗を展開、東港鎮・満州郷で同数に持ち込んだ。

台東県

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来来超商が1店舗のみあった台東市の店舗を閉店、撤退した。

花蓮県

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東部に位置し台北らからは隔絶された場所に位置。統一超商が圧倒的に強い地域であったが、全家が3郷鎮に進出し勢力を拡大。ようやく半分にまで近づこうとしている。

宜蘭県

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一周回って宜蘭。高速道路のトンネルが開通し台北との距離が短くなった宜蘭だが、面積も小さいので店舗数はまだまだ少ない。今後に期待。

島嶼部

澎湖県

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このうち統一は21店舗、全家は11店舗を馬公市に展開している。人口は6万人ほどであるから、都市部ほどではないにせよかなりの激戦区である。

金門県

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これまで金寧郷に1店舗しかなかった全家が一気に8店舗を開業。統一もそれに負けじと7店舗を開業。店舗増加率はもちろん最大。また世帯比店舗数が特異的に高かった(2019年時点で約6300人/店)地域だったが、この大進出で約4000人/店にまで変動した。

連江県

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前回同様、統一超商のみが進出する地域のまま。金門馬祖の馬祖がある地域であり、人口も15000人と希薄なことから、進出を狙う企業もそう少ないものだと思われる。

無コンビニ行政区(便利商店没有市区郷鎮)

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現在台湾には台北市の都市部から金門・連江(馬祖)、さらには台東県の離島である蘭嶼(人口約5000人の島に統一超商が進出、ちなみにこのことについては外部から「文化を破壊する」と批判が出たものの、島民は「うちの自治はうちでやる。台北の生活を先住民が享受してはいけないのか」と話し、退けた。参考)にまで展開しているが、一方でコンビニがない地区も未だそれなりにある。それが上の画像にある区・郷だ(市・鎮は全て進出済み)。その多くが山地郷であり、台湾原住民族の許可なしに開発できないような地域であり(但し先述の蘭嶼郷を始め、そのような郷・区にも進出しているところはある)、それに該当しない区は島嶼部を除けばわずか2区のみである。どちらも人口はそれなりに多いが、何らかの理由があるのだろう。

総論

日本や韓国の場合コンビニの展開比率にも地域差が見られるが、台湾では統一超商が全県市で1位となっている。これは台湾の面積が韓国や日本に比べて小さいことが挙げられる。また、統一企業の本拠地は台南にあるものの、統一超商は開業当初から台北らに分散で進出している。これは当時は失敗とみられていたが、この施策で早く全島を席巻できたことから、南北差が広がらなかったことも大きいだろう。

参考文献

・鍾淑玲「製販統合型企業の誕生 台湾・統一企業グループの経営史」(2005年、白桃書房、ISBN:4-561-66153-0、pp.135-214)
・鍾淑玲「日本型コンビニの現地化プロセス―ファミリーマートの台湾進出を例に―」(2015年、イノベーション・マネジメント12巻、pp.133-135)

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