靴って何だろう

 この仕事を始めて、ふと気づいたら25年も経っていました。今では、まるで専門家のように、靴について語っておりますが、始める前は、靴にはなるべくお金をかけない、レベルの低い「一ユーザー」でしかありませんでした。当時勤めていたフィットネスクラブでは、当たり前のように、先の尖がったパンプスを履いて仕事をしていましたが、実寸がほぼ25㎝の足に対して、履いていた靴といえば、24.5㎝。足にトラブルが起きて当然だったと、今なら納得することができます。

 当時、靴を購入するときには、河原町通りや新京極の大きな靴屋さんに立ち寄って、物色をしていました。棚に並んでいる靴の中から、気に入ったモデルを選び出し、「これの24.5㎝で」と店員さんに伝えると、バックヤードから靴を持ってこられ、店内で試し履きをしました。自分の履く靴のサイズは「24.5㎝しかない」とも思っていました。しかし、大きな靴屋さんでも、百貨店の靴売り場でも、どれだけ有名な靴屋さんでも、自己申告のその靴のサイズが本当にこの人に合っているのか?と確認してもらった記憶は一度もありません。靴を履いてその場で立ってみて、履いた感じを見てもらうだけ。購入する側も、よほど痛みが無い限り、あるいは思っていたイメージと違わない限り、「じゃあこれください」と、いとも簡単に靴を購入していたのです。実際履いてみると「痛い」「歩きづらい」こともままありましたが、「靴とはこんなものだ」と意にも介していませんでした。

 この仕事を始め、「靴」って一体何だろうと常に考えています。

 今も、靴は多くの方にとっては、「ファッション」。毎年毎年、流行の洋服とともに、奇抜なデザインの靴が紹介されています。ファストファッションと並んで、海外で生産された靴たちが、大量に輸入され、大量に消費され、使い捨てられています。私も以前はそのことに一切疑問を持たず、靴を購入していました。この仕事を始めた頃も、靴業界はそんなものだと思っていました。

 しかし、四半世紀この仕事に携わり、今はっきり言えること、それは、靴は「生きるための道具」であるということです。道具は、人の生活を便利に、豊かに、快適にしてくれるものであって、流行も、見た目も関係ありません。毎日踏み出す一歩を支え、日々の生活を豊かにするのが、靴の本来の役割です。

 今改めて、道具としての靴の在り方を一緒に考えてみたいと思っています。

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