坊主とエロ本

 先日、東京から札幌へ帰省するため、成田空港に向かった。予定されている出発時刻の、四時間も前に僕は成田空港へ到着した。成田空港には、本屋さんが入っていた。時間が余るほどあったので、僕は本屋に行き、本を物色することにした。そこで、数年ぶりにエロ本が売られているのを見た。

 当時は、コンビニや近所の本屋さん、どこでもそれは売られていたが、令和になった最近では、コンビニからは撤退し、街中の本屋さんから姿を消した。「こんなところで、息をしていたのか」と少しだけ感動した。昔、成田空港のコンビニでコンドームが売られてるのを見つけ「誰が買うんだこんなところで」と思っていたが、エロ本を見つけたことにより、僕の「誰が買うんだこんなところでランキング」の第一位がはれて更新された。同時に、エロ本との思い出が走馬灯のように浮かんだ。

 小学生の頃に通っていた駄菓子屋には、週刊誌も売られており、エロ本が数冊置いてあった。ませている友達は、よくその本の前を通り過ぎるふりをして、何度も何度も表紙を見ていた。僕も何度か通り過ぎるふりをして、表紙に目を凝らした。そんなある日、小学校で学年集会が開かれた。それも、男子だけの学年集会だ。女子は教室で待機していた。少し日焼けをし、背は低く、いつも実直で優しい村本先生が皆の前に立ち「信じられないことが起きました」と真剣な口ぶりで言った。「男子トイレにこれが落ちてありました。」と村本先生は片手に持っていたエロ本を、皆に見えるよう天高くあげた。そして、村本先生は「うちの生徒にこんなものを持ち込む人がいるなんて信じられません」と泣いていた。僕からすると、こんなことで泣いている村本先生の方が信じられなかった。この人はどれだけ綺麗なところで育ってきたんだ一体と。「こんなものは悪です!」とエロ本が憎いのか、生徒が憎いのか、いよいよわからなくなってきたところで「これの持ち主を知ってる人がいたら先生に教えてください」と言い、なんとも絶妙なきまづい空気の中、集会は終わった。村本先生は頑なに「エロ本」とは呼ばず「これ」と呼んでいた。

 中学生になった僕は、お寺で遊ぶことにハマっていた。通っている中学校のそばにお寺があり、そこは僕たち小学生に寛容的で、お寺で隠れん坊や、お寺の庭でキャッチボールなどをすることが許されていた。ある時、僕は友達とお寺を使った隠れん坊をした。お寺には隠れる場所が山ほどあり、どこに隠れようかとしばらく悩んだ。お寺の中を歩き回っていると、おそらくお坊さんが寝泊まりしているであろう場所を見つけた。六畳一間、布団は畳まれ、枕と小さな机があった。まだ幼い僕は、その部屋の押し入れに隠れようと思い、押し入れを開けた。押入れの中には、エロ本が置いてあった。見つけた瞬間、僕はなぜだか悪いことをしているような気持ちになり、その場から逃げた。もしも、お寺でお坊さんが読んでいたであろうエロ本を見つけたのが、僕ではなくて村本先生だったら気でも失ってたんじゃないかと思う。

 今思い出すと、押し入れを開けて、エロ本を見つけて、押し入れを開けっぱなしにしたまま、あの部屋を出てきてしまった気がする。エロ本を隠してたお坊さんは「エロ本、誰かに見つかったかも」と思って気が気じゃなかったと思う。ごめんなさい。

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