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見て良かった2020年の公共放送ドラマ

#テレビドラマ #entertainment

 2020年に放送された公共放送テレビドラマで、「見て良かったな」と思えたものを挙げてみます。こういう文章は、年末なり、1月の頭なりに書いて読んでもらうものでしょう。サボった、と言ってしまえばそれまでなんですが、「2020年の娯楽」は難しかったという理由も挙げておきます。
 本稿で「見て良かった」「見応えがあった」とする基準は、昨年と同じで、以下のことが当てはまるかどうかです。
 ・「再放送があったら見てほしい」「録画し損ねていたら、録画してほしい」、それでもって、できることなら一晩語り合いたいですね、と思えたかどうか。
 ・2020年に「総合」「Eテレ」「BS1」「BSプレミアム」で初回放送されたもの。
 ・国内ドラマだけです。
 ・ドキュメンタリーのドラマパートを含みます。
 ・「連続テレビ小説」と「大河ドラマ」は、いろいろな面で規模が違い過ぎるので含みません。
 ・「公共」放送と思えるかどうか。
 です。では、放送日順に見ていきましょう。

○『金魚姫』
 BSプレミアム 全1回 初回放送2020年3月29日(BS4K・同月30日)
 https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/20000/417036.html (ドラマトピックス)
 私が公共放送ドラマをしっかりと見るかどうか迷ったとき、いくつかある決め手に「この方が出演するなら、見よう」というのがあります。「この方」のお一人が國村隼さんです。渋い、厚い、重い。予告を眺めていて、國村さんの「君、このドラマは、見ておいた方が……、いいよ」という幻聴がしたら、見ます。
 作品中では、水の表現が良かったです。さらさらとした澄んだ水ではなくて、ぬめった情念が混じった雰囲気。愛情、憎悪、鬱屈、貪欲、そういった想いが、水の像から伝わってきました。
 あと、瀧本美織さんと、お召しになっていた衣装が綺麗だったので、4Kで見たかったなー、と思いました。

◎『よるドラ いいね!光源氏くん』
 総合 全8回 初回放送2020年4月4日
 https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/hikarugenji/html_hgk_midokoro.html
 千葉雄大さん、伊藤沙莉さんのコンビで面白くないわけがない。『源氏物語』の主人公光源氏が時空を超越して、地味な女性会社員の部屋にやってくる。頭中将もやってくる。光の君はヒモになり、頭中将はホストになる。緊張感も何も無く、ただただ、ゆるだらコメディに身を任せていればいいところがとても良かった。
 そんな思いを強くしたのは、放送時期に大きく依っています。2020年4月。この時の公共放送の画面は、次々と速報が流れ、文字列が枠線のように連なり、白と黒の小さな四角で構成された2次元コードが、ひとつふたつ常に表示されている状態でした。危機感が高まるものの、どのようにしてそれを避ければよいのか分からない緊張した状態が続いていました。安心を得るために、最新の情報を仕入れておこうと考え、公共放送にチャンネルを合わせていた方も多かったでしょう。しかし、それがかえって、緊張感を高めてしまっているようにも思いました。
 そのような中、土曜の深夜の枠でこのドラマが放送されました。ほっとしました。一息つくことができました。
 このドラマの放送中は、2次元コードが消されました。物語には、人を癒す力があります。物語=作り話に身を任せる時間があってもいい。あの時期に、ドラマ放送中だけは2次元コードを表示しないという決断が為されたことに、とても感謝しています。

○『スーパープレミアム 柳生一族の陰謀』
 BSプレミアム 全1回 初回放送2020年4月11日(BS4K・同月25日)
 https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/20000/416434.html (ドラマトピックス)
 名作映画のテレビドラマ版。外連味しかない、これぞエンターテインメントの時代劇でした。
 次から次に出てくる濃いキャラクターの中でも、波岡一喜さん演じる烏丸少将文麿が良かった。直衣姿で刀を振り回し、問答無用にざくざく人を斬り、追い詰めた相手が自爆攻撃を繰り出すと、とっさに近くに居る人を引き寄せ、盾代わりにして避け、爆発の煙が晴れたところで「剣呑、剣呑」と薄く笑う。外道っぷりがはまっていて実に良かったです。
 過去の映像作品(特に「名作」と言われているもの)を、現在の俳優、技術でリメイクするのには、高いハードルがいくつもあるでしょうが、定期的に制作してほしいです(それが「リバイバルドラマ」枠なのかもしれないけれど……)。

 ここで、一区切り。4月末。医療、人の生死を主題にした公共放送ドラマがいくつか延期になりました。すぐに放送できる新しいドラマのストックもこの頃に尽きたようです。世の中にある娯楽が変わりました。ここから、テレビドラマ制作の方々の試行錯誤が始まったようです。

○『今だから、新作ドラマ作ってみました』
 総合 全3回
 https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/20000/427883.html (ドラマトピックス)
 第1夜「心はホノルル、彼にはピーナツバター」2020年5月4日
 第2夜「さよならMyWay!!!」2020年5月5日
 第3夜「転・コウ・生」2020年5月8日
 「テレワーク制作」「リモート制作」の最初期のドラマです。ドラマ制作班の方々の苦心惨憺ぶりは、スタッフブログ( https://www.nhk.or.jp/drama-blog/7000/ )で垣間見ることができます。2020年5月8日付け、第3夜「転・コウ・生」の演出をなさった小野見知さんの文章の一部を引用します。

 ◇ 駆け抜けろスケジュール
 はじめてスタッフがリモート打合せをしたのが4月半ば。その10日後には撮影という、かつてないスピードで制作している今回のドラマ。(いつもは短くても数か月かけて準備します。)
 はじめましてー 本番いきます よーい スタート!
 ……ほんとこのくらいの体感です。

「テレワークドラマ 第3夜「転・コウ・生」 演出より」 https://www.nhk.or.jp/drama-blog/7000/428705.html

 普段は数か月かけるものを、10日で制作。それも、勝手分からぬリモートで。
 それでも、しっかりエンターテインメントとして楽しかった。公共放送ドラマ制作班の底力を見せられた気がしました。
 柴咲コウさんの愛猫「のえる」さんの演技(?)も良かった。

○『特集ドラマ 56年目の失恋』
 BSプレミアム 全1回 初回放送2020年7月11日
 https://www.nhk.jp/p/ts/MP5N2Y168W/
 本来は、東京オリンピックの直前に放送されるドラマだったのでしょう。しかし、撮影は困難になる前(3月上旬)に完了し、放送予定日もほぼ定まっていたようです(ドラマトピックス: https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/20000/422419.html )。
 「さて、どうなっているのだろう?」と見始めました。
 「なるほど、こうしてクリアするのか」と見終わりました。
 本来の筋を大きく乱さずに、現状と整合させる技を見ることができました。

○『夢の本屋をめぐる冒険』
 総合 全2回 初回放送2020年8月18日
 https://www.nhk.jp/p/ts/21X31K99PY/
 『リアルプリンセス』
 総合 全2回 初回放送2020年8月21日
 https://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/20000/433914.html
 『夢の本屋をめぐる冒険』と『リアルプリンセス』は全く別のドラマですが、作り方に共通点を見ましたので、二つまとめて挙げることにします。
 『夢の本屋をめぐる冒険』は、ドラマパート、トークパート、ドキュメンタリーパートの組み合わせ、『リアルプリンセス』は、朗読パート、アニメパート、ドラマパートの組み合わせで構成されています。それぞれの要素で30分の番組を新しく作ることは、難しかったのであろうと推測します。それならば、それぞれを短くして、つなげてみたらどうなるか……。コンパクト・アンド・ハイブリッド。自動車のキャッチフレーズのようですが、それが上手くまとまっていました。コンパクトにしたからこそ、各パートの質が高められていたように思います。
 どちらのドラマも2回で済ませるのが惜しい! 続編を希望しています。

◎『岸辺露伴は動かない』
 総合 全3回 初回放送2020年12月28日(BS4K同時放送)
 https://www.nhk.jp/p/ts/YM69Q8456J/
 とても面白かった!
 ……だけで済ませたいところですが、蛇足を。出演者の人数は可能な限り絞り、屋外の撮影を多めに、CGは使うけれども負担を少なくしているようでした。しかしながら、安っぽい作りにならず、娯楽性は高く、映像は洒落て、魅せる物語。
 高橋一生さんの素敵さは言うに及ばず。
 字幕データまで凝っている。
 原作漫画を読んでいない人でも楽しめるようにと工夫された導入部。私は『ジョジョの奇妙な冒険』を第4部のはじめで読み止し。途中までしか読んでいなかったのですが、楽しめました!

 「……ヘブンズ・ドアー」

 あれ、なんか、顔が、変……な、かん……、じ……。

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 『いいね!光源氏くん』と『岸辺露伴は動かない』がとくに楽しめたので、◎をつけました。並べてみると、作り方が両極端のようです。けれども、どちらも優れたエンターテインメントだと思います。改めて書きますが、人は娯楽として物語を欲しています。作り話に共感を持つことは癒しに繋がります。
 公共放送がそれを提示することはとても大切だと思っています。そのような考え方を持つ公共放送ドラマの作り手が、相当の人数いらっしゃるようです。ここ数か月、作り手の方々が考えを廻らし、工夫を凝らしているであろうことを、感じ取りました。それらの動きもまた、一つの物語になりつつあり、私は励まされ、癒されています。

 参考:2020年のドラマ一覧(国内ドラマ)
 https://www6.nhk.or.jp/drama/dramalist/list_year.html?y=2020

 本稿は、ブログサービス「g.o.a.t」でも公開しています。
 https://septieme-ciel-air.goat.me/yxIk5pDu3m

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