くらげ episode.0

『運命なら、また会えるから』

可哀想だと思った。私は私をもっと大切にして生きていきたいのに、君は君でさえ少しも大切にしないんだね。



しんとした暗闇の真ん中に、私の銀色の馬車は身を潜めていた。冷たく乾いた空気を吸う時、いくらかの言いたいことが一緒に肺の奥へ消えていった。それは、ため息と共に何かどうでもいいようなことになって口をついた。静かに馬車は動き出した。

君がどれくらい真剣で、どれくらい不真面目なのか、私には分からなかった。それは私の若さのせいもあるだろうし、君が本当に何も考えていなかったせいもあるのだろう。このまま、ずっとこのままだったら良かったのだ。知りすぎることは、不幸なのだ。

馬車が止まる。君は感情を言葉にしたがらなかったし、私も行動でしか求めなかったので、それはそれは好都合に何も明らかにならなかった。

蜘蛛の巣が張った玄関のドア。チラシで一杯の郵便受け。積み上げられたビールの空き缶。乾いたままの洗濯物。

カーテンから覗く街灯の灯り。遠くから聞こえるエンジンの音。アスファルトを湿らせた雨露の匂い。


君の部屋には何も無かった。

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