月刊「少女ファイト」

 最近、無料になっていたことをきっかけに「少女ファイト」(日本橋ヨヲコ・作)を読んだ。とても面白かった。「お前がそう思うんならそうなんだろう お前ん中ではな」の画像で有名で以前から知っていたが、読む機会が無かった。ちゃんとバレーやりつつお家問題でドロドロしていて、ゾクゾクするようなイカレサイコ女も出て来た。最高だ。運動センスゼロ民なので、ひたすらスポーツだけやられると漫画を読むうえでの興味のフックがゼロになって挫折してしまう者としては、いい塩梅だった。

 それにしても、こんな面白い女子バレー漫画が青年誌である「イブニング」に連載されていたという事実に、少女漫画雑誌の零落(マニア特化?)を感じて複雑な気分にもなる。女子バレーといえば「アタックNo.1」を思い出されるが、読者側の価値観が当時のままなら「少女ファイト」は絶対青年誌には載らなかったはずだ。

 正直、少女誌に載っても良かったんじゃないかと思わないこともない。「ミス・バレーボール」(塀内夏子・作)も少年マガジンだったが、これは平成初期に有名選手が日本代表として活躍していて注目度が高かったから、というのもあるだろう。この頃には既に「面白ければ作者の性別も主人公の性別も題材も問わない」という読者が育っていた。

 要は「スカートとズボンの話」で、女性は昔から少年誌も普通に読む。「魔少年ビーティー」(荒木飛呂彦・作)の巻末にファンレターが紹介されていたが、差出人は女子学生だった。一方で、男性は少女誌は読まない。漫画マニアはチェックしているかもしれないが、雑誌は買わずに単行本で追いかけても十分だ。それなら青年誌に載せた方が男女両方の読者を取り込める。

 同じ講談社の青年誌「モーニング」に連載されてた「チェーザレ」(惣領冬実・作)も女性作者による男性主人公の歴史モノで、これも「日出処の天子」(山岸涼子・作)のように本来、少女・女性誌向けの作品。良い意味で性別で漫画を判定しない成熟した読者が育った結果、少女・女性向けだったはずの作品がすべて青年誌に吸収されてしまった。女性誌で歴史でヒットといえば、最近では「大奥」(よしながふみ・作)くらいだろうか。

 個人的に「ちょっとした知識や教養が必要、もしくは知識欲を刺激する作品」こそ少女漫画だと思っている。上記で例に挙げた「日出処の天子」のように、主人公の性別は問わない。同じ男性主人公の歴史ものでは「あさきゆめみし」(大和和紀・作)という「源氏物語」の漫画化もある。「漫画化」で言えば、アメリカ南北戦争を起点に主人公スカーレット・オハラの人生を描いた、同名の名作の漫画化である「風と共に去りぬ」(津雲むつみ・作)も歴史ものの大作だ。さらに「ちょっとした知識や教養」として「ときめきトゥナイト」(池野恋・作)も例に挙げられる。作品の初期は吸血鬼の父親と狼女の母親の血を継いだ主人公の少女が人間の男の子に恋をする、というベタベタな少女ラブコメだ。だが「ジョルジュ」と「サンド」という名のキャラクターが登場しており、これは当然フランスの女性作家であるジョルジュ・サンドから引用されている。

 上記の作品も、男女の区別をつける必要のない知識欲旺盛な漫画読者からすれば、興味深いラインナップだ。そんな中で唯一、男性が興味を持ちにくい、漫画を読むうえでのフックが何もないのが「イケメンとの恋愛を題材にした現代設定の作品」だ。主にイケメン俳優見たさにファンの若い女性が劇場に足を運ぶ素材となるような恋愛漫画。ヒットした「君に届け」や「ハニーレモンソーダ」は誤解されやすくクラスでちょっと浮いている少女やいじめられていた過去を持つ少女を主人公にしていて、不安定な少女の心の成長が見事に描き出されている。漫画作品として十分に見どころはあるが、男性向けでは決してない。「不安定な少女の心の成長」なら、それこそ今回のnoteを書くきっかけとなった「少女ファイト」で存分に楽しめる。

 もう各所でとっくに議論され尽くしていることだし、あれこれ書いたところで結局は「少女漫画雑誌はイケメンとの恋愛ものしか載ってないから」という一言で終わる。実際、そんな一言で片づけられる作品ばかりではないが、ざっくり言うとどうしても「イケメンとの恋愛」に集約されてしまう。ここに女子バレーを題材にしたスポーツものや大学教授の監修を受けた歴史もの、さらに「王家の紋章」(細川智栄子あんど芙〜みん・作)や「天は赤い河のほとり」(篠原千絵・作)のような歴史の世界へタイムスリップするような作品を昨今の流行である「異世界転生」と組み合わせれば、少女誌は「イケメンとの恋愛ものしか載ってない」状態から脱却できるのではないか。というか、私がそれを個人的に望んでいる。

 紙の漫画雑誌が売れなくなっている。その中でも「イケメンとの恋愛」を楽しむ層と漫画マニア層は多分ほぼ重ならないだろう。紙媒体で所有したい、というコレクター・マニア感覚がなく「アプリで読めれば十分」という層が少女誌のメインターゲット層になっているのだから、そりゃあ部数下落・マイナス成長もやむなしといったところだ。多分、この流れは止まらない。性別を問わず漫画読者たちに注目される作品が一つ二つあったところで、出版社が運営する漫画サイトやアプリでの単話課金をすれば済んでしまう。

 私は漫画家でもなければ編集者、出版関係者でもないので、業界のことは業界に委ねるしかない。雑誌を買わなくなって久しく「これ以上モノが増えたら管理できない」と漫画をバッサリ電子に切り替えた者に言えることは何もない。ただ遠い将来、少女たちに、自らの成長の傍らに「少女漫画」を置いておいて欲しい。願うのはそれだけだ。

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