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BTS「Butter」の考察。BTSはポップアート/アーティストとして現代社会を生きていくのではないか

5/21にリリースされたBTSの新曲「Butter」について、新規ガチARMYなりに感想と考察をまとめてみました。

「バターのように日常に溶け込む、バターのようないろんな魅力を詰め込んだ可愛らしい告白ソング」とアナウンスされた通り、かっこよくて可愛らしくて楽しい「Butter」という作品。ただ、個人的にコンセプトは「ポップアーティストとしてのポップアート」、つまりBTS自身をポップアート化し、世の中にその存在感を提示するための曲だと解釈しました。

アートワーク、楽曲、MV、記者会見での彼らの発言から、今作のコンセプトとこれからBTSの在り方について考察してみました。
書いていたらオタク気質のせいでものすごい長文になったので、時間がある人以外は③だけ読んでください…。

①「Butter」を聴いた感想

英語曲だろうなと思っていたら案の定!世界的注目が高まってる今のうちにDynamiteを超える存在感と実績を出してほしいから、個人的には嬉しい展開。

・ベースがごりごりに重たくて、序盤のシンプルなかっこよさが期待感を煽ってくる…!
・サビになるとシンセサイザーが広がって楽しくなる!音に溶け込みながら高音から低音を行き来するメロディーがなめらかでButterっぽい
・ところどころシャカシャカした楽器とか可愛らしい効果音も入ってきて楽しい、サマーソングらしさはこのあたりに感じられる
・Dynamiteはメリハリが効いた縦のリズムに乗ったキャッチーなメロディーが主役。一方Butterはビートに乗りつつ楽曲とボーカルのメロディーが一体化している感じ(ボーカルのない余白をシンセとかコーラスで埋めてくるのでずっとメロディーが流れてる感じ)。
・曲を聴いて一発で覚えるのはDynamiteの方だけど、Butterは飽きずにリピートできるような中毒性がある(賞レースにはDynamiteっぽい方が向いてる気はするけどどうなんだろう…!?)

②MVの感想と考察(長め)


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シンプルなビートにモノクロの画面。真っ白な画面にグクがゆるく入ってくる。おしゃれ…!要素が少なくて洗練されてるし、心理的に注目してしまう。

・グクのソロの歌い出し 0:10~

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Dynamiteと同じように一人で登場するグク。覚えているよな?私達の黄金マンネだぞと公式が言っているかのよう。「smooth like butter like a criminal undercover」という歌詞は、マイケル・ジャクソンの『スムーズ・クリミナル』から取っているらしい。

・テテに引き継ぐ 0:19~

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ビジュアル担当の登場。コメントはいらないよね、表情でぐっと惹き付けて世界観に導入する役目を果たしていると思う…

・サビ前のジンニム 0:28~

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音が増えて画面にも7人が登場。「正体を隠した悪党のように君の心に侵入した罪」だと思われます。
メンバーの前に立つのが最年長のジン。こういうサビ前パートを引き受けることが多いジンだけど、7人を背負ってる感じがしていい。

※メンバーが持つ6ケタの数字の意味(本人談)
JIN→655323(ランダム)
SUGA→384627(ランダム)
RM→201904(昔住んでいたアパートの番号)
J-HOPE→660660(韓国のポケベルで「キス」を表す)
JIMIN→141018(初めてコンサートを行った日 ※厳密には2日目)
V→000001(1位を獲るという意思)
JONGKOOK→110604(ソウルに上京した日付)

・サビ 0:36~

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髪をかきあげる動作でシーンが切り替わり、ダンスパフォーマンスへ!ここからカラーになって笑顔も解禁。「こっちの世界へようこそ」と言っているような感じがして、これがARMYを溶かしにかかってくる「Butter」の世界なんですね!!!

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この髪をかき上げる動作。Dynamiteの象徴的な振付を意図して踏襲しているのかなと思った。キャッチーな”ちょっと見覚えある感”をあえて出してDynamiteの実績を再提示しつつ上書きしにかかってる感じ。
サビのダンスは、歌詞の「Side step right left」の通り、振付のステップはすべて右から左になってるね!「to by beat」の部分ではビートを刻むように縦に跳ねるような振付で、下から上に手の位置をあげていくことで温度感の高まりを表現してるのかな?「High like the moon」のボディウェーブもなめらかでButter感ある。
手の甲へのキスは「敬愛」を表すようで、「君の心を虜にするよ」的な歌詞なのに投げキッスとかではなく手の甲へのキスを振付に選んだところが謙虚な防弾少年団らしいし、ARMYへの恩返しの愛と受け取った!

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「Let me show you cause talk is cheap(口で言うより見せてあげる)」の通り、唇の前に人差し指でしーっのポーズ。ここをジミンに担当させるのが分かってる…!そしてまた髪をかき上げてテテのセンター。
サビ全体を通して足のステップの取り方がトリッキーなのが気になりませんでしたか?リズムに合わせるのではなくメロディーに合わせていて、左右になめらかに動かしたりターンを入れたり、爽やかというよりねっとりしてる(言い方)。これがButterらしいなめらかさを表現した振付なのかなぁと思った。音に合わせて気持ちよくステップ踏むDynamiteと真逆だ!

・2番Aメロ 0:54~

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カラーで拝めるテヒョンさん。イエベ秋の渋さが良いし、この前髪ちょろりんが一番似合うと思う。(ナムさんも超似合う)
「Don't need no Usher to remind me you got it bad」という歌詞は、「アッシャーは必要ない、君が僕に夢中になってることは知ってるから」みたいな意味だけど、歌手Usherの『U Got It Bad』から取ったジョークだと公式weverseでも書かれていた(アッシャーの曲は”一時的な遊び相手とのやりとりがだるい”という内容)。
エレベーターのボタンを見ると地下B7まであって、地上がA。A=ARMYとして、7人のメンバーをわざわざ地下の設定にしてARMYの立場を上として置いているのがまた謙虚というか…「ここまで引っ張ってくれたのはARMY、これからもARMYに会いにステージに上がるんだ」というメッセージと受け止められるよね…涙

・ジンニムに引き継ぐ 1:02~

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はい!こういう役はジンさんにお任せあ~れ~!ちょっと笑ってしまってもいいシーンですよね…?後ろでなんかやってる弟たちがまた通常運転で良いです。ここまでかっこよさしかなかったので、ここにきていつもの少年団が垣間見えてきた気がします。

・Break it down! 1:09~

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このテヒョンさんを見てDynamiteのエンドシーンが思い浮かんだのは私だけでしょうか。

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大きな意図はなく単なる遊び心で入れたのかもしれないけど、印象的で良いと思う◎ここでカメラのフラッシュが光って舞台は記者会見場へ。

・ジミンのキリングパート 1:11~

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………ジミンペンとして一言言わせてください。スゥ………
大優勝~~~~~~~!!!!!!!!!
Not Todayの333boyに続く111boyの爆誕。正直この髪色が公開されたときどうなるのかと少し戸惑ったんですけど、こんなにも物にするとは…頭が上がりません…小指でも見て落ち着こう…ジミンペン先輩たちの安否が心配。

・2番サビ 1:20~

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からの、体育館が開いてジャージ少年団!これは沸きましたよね!さっきまでパクジミンだった方がジミンちゃんになってる…。Boy with luv彷彿とするアイドルの表情。さっきのシーンとのコントラストが抜群!
ビルボード、グラミーと世界的に華々しい功績を作り続ける中で、ハイブランドのスーツに身を包んだ姿も多いけど、ここで「すべての原点である防弾少年団」を演出しているような。バンタンのよさってそこじゃないですか。
「成長して変わっていく姿」と「初心を忘れず変わらない姿」、それを嘘なく両立させながらファンダムを拡大させているグループは中々いない。世界的スターになってもここまで引き上げてくれたARMYを置いて行かず、変わらない姿を見せてくれたシーンだと思います。”高い空を飛んでも目線はいつもARMYと合わせていたい”というようなことを歌詞やライブで話してくれる彼らのそのままの姿だと感じた。
事務所の方々もこれまでのストーリーを共にしてるから意図してこの演出を入れたはずだし、ファンを離さない戦略としてもうまいと思うの…。

・間奏ダンスブレイク 1:37~

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フリースタイルのダンスブレイク!一人ずつ見てみましょう。

ジミン→ジミンからしか出ないような独特なフォーム、ハムストリングに効くねっとりダンス
RM→大きい体で何かを壊しそうな勢いのダンス(エレベーター無事?)
テテ→たまにやる香水つけるような仕草、色気と感性で仕上げてくるタイプなの知ってる
グク→Dynemiteの「King Kong kick the drum」の動き+「let it Roll」の歌詞にあわせて回転した?安定スキルと結んだ髪に拍手
ホビ→4拍子でわかる恐ろしいほどのダンスの上手さ…その体のダイナミックさどうなっとんの…
ユンギ→控えめなノリ系、ビハインドシーンのムース付ける仕草よかったのに!
ジン→「Oh when I look in the mirror」部分の振付ですね、サングラスあって手持無沙汰にならなくてよかったね!

ここ、MVではなく実際のパフォーマンスのダンスブレイクは振付がえぐい…。このフォーメーションや魅せ方はBTSの中でも新しい。もう画面が強すぎ。ここでも振付に対して思ったのは、「力強いけどねっとりしている」。ためがすごいし動きもなめらかで、Butterだなぁ~!
https://www.youtube.com/watch?v=ujf3iJoWgrM


・SUGAのラップパート 1:55~

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「No ice on my wrist I'm that Nice guy」の歌詞がイイ!「No ice(ice=ダイヤモンドや金などの光輝くもの)」と「Nice」をかけていて、「腕に高価な飾りなんてしてなくたって俺はいい男」というぶちかましワード。AgustDとしてソロ活動ではよくこういうこと歌詞にしてたけど、BTSとして今この曲にぶちこんでくるとは!「Hate us」の言い方も余裕感たっぷりでいい。
ここでユンギとホビのジャージのスタイリングについても拍手しておきたい。ユンギさん、原色×オーバーサイズ最高に似合ってます!髪型もいいです!そしてホビ、全体を通して優勝してるけどやっぱりブライトカラー×カジュアルが優勝です!ヘアカラーとパンツの紐の色まで合ってて最高!

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掛け声で乗るみなさん。乗り方にも個性出てて良いです。何回も見た。
この後ろにある飛行機は、Dynamiteを始めいろんなMVに出てくる飛行機なのかな。世界を飛び回って高い場所にいるBTS自身、いろんな景色を見せに連れて行ってあげたい気持ち、次のステージに向かうんだという意思、いろいろ考えられるな…。

・RMラップパート 2:04~

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このナムさんかっこよすぎー!ひー!ピンク髪めちゃくちゃ似合ってますよね!?ミント系水色も似合ってたしブルベ夏だと思ってるんだけど、ごりごり系のブルベ夏って良くないですか?ブルベ夏代表のジミンみたいな透明感も美しいけど、また対極の雰囲気なのが最高!
そして(マイクないけど)マイクパフォーマンスも歌い方も最高。ユンギがゆるめのラップなのに対してナムさんはごりごり系。バンタンはラッパー3人の役割や得意分野が被らないから素晴らしい組み合わせだと思うんだ。

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そしてARMYが泣いた「Got ARMY right behind us when we say so」の歌詞と「ARMY」の人文字。これが公式の振付になってるとは…。正直ステージパフォーマンスの完成度をものすごく大事にしてるBTSにとって、この振付はかっこよくはないじゃん?だからこそ本当に「ARMYと一緒にグラミー受賞を目指したい」意思が表れてると思う(純粋なARMYへの感謝や愛情表現でもあるだろうし、ARMYを離さないための戦略でもあるだろうけど)。
でも何よりすごいなと思ったのは、「BTSならやり兼ねないもんな」って思ったところ。嬉しいサプライズだけど「え!?そんなことしてくれるの!?」って驚かないというか、突然感や違和感がなくて、普段からのARMYとの信頼関係が蓄積されてるからだなーと感じた瞬間でもあった。

そしてこちらの衣装のスタイリングに関しては全員が大優勝していると思う…。シンプルな白と黒を基調にしつつもいろんな素材感で男性的でもあり女性的でもある魅力が引き出されている。オーガンジー、フリル、パール、パフスリーブ…そこにレザーやごつめのアクセサリーを合わせる。丈感も絶妙で、大人っぽすぎないし、堅すぎない。口紅の色は自然でメイクはすっきりまとめている。素晴らしい。スタイリストさん、ヘアメイクさん、スタッフのみなさんに大拍手。

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・Let's Go! 2:11~

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ウリリーダー、ナムさんの1秒だけだけどパワフルな「Let's go!(さぁ行こう)」。これはどこにLet's goするかって、世界を獲りに行くためのARMYへの号令です。Dynamiteの「Let's go!」は自分たちへの掛け声のように聞こえたけど、今回はARMYに向けて。他の部分の掛け声は「Break it down」「Do the boogie like」「Get it, let it roll!」で個人の映像もなかったけど、唯一ここだけリーダーどアップで「Let's go!」を使っている。

・ラスサビ 2:12~

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まばゆいライトの中で踊るBTS。スター感がものすごい。締めはButterカラーとシックな黒のセットアップ(衣装5種類もあるの視界が豪華…)。
この黄色い四角いステージセットはButterを表しているのかな…。床にはたくさんの円があって、これはポップアートのステージでパフォーマンスをしていることを表しているのだと思う(ポップアートについては後述)。

・ラスト盛り上がり 2:29~

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J-HOPEご一行様のお出まし!ホビの歌い方、表情、動き、ラストスパートの盛り上げに適任すぎる…。ホビの掛け声に合わせて後ろについてくるみなさん、どえらいオーラのご一行だな。ところどころ差し込まれる個別カットもいい。ここライブでめちゃくちゃ楽しいんだろうな…飛び跳ねたい…。
「Hotter?」「Sweeter?」「Cooler?」「Butter?」という歌詞、形状を変えていろんな側面を持つバターそのものだし、映像は夏っぽくないけど歌詞としてサマーソングなんだなと思った。そしてすべて「Summer」に繋がる韻。夏にバターが溶けるように、BTSでARMYの心も溶けるよと。最後の掛け声とステージのセンターはリーダーナムさん!

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メインボーカル黄金マンネで表情抜群の「Get it, let it roll!」!
序盤はシックでクールに始まるけど、最後は楽しく盛り上がる。いつもよりも起承転結がはっきりしているMVだなと思いました!

・おまけ:エンディング

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全視聴者が思ったこと「バター…ほんとに食べたの?」


コンセプトの考察

ここからは少し真面目に。
いつも社会問題や自分たちの心の内を楽曲に込めてくれるBTSだけど、今回の「Butter」はさらに視野を俯瞰的に広げた曲であり、これからの時代におけるBTSの価値を模索しつつ定義した結果の曲だと感じました。

私が今作の意図として読み取ったことは以下の4つ。

①K-POPという枠に捉われずBTSという音楽をポップアートのように確立したい
②BTSの音楽は大衆的に開かれ、あらゆる解釈で消費されることに価値がある
③社会問題も多くコロナ渦の今、社会や日常を見つめ直すきっかけにしたい
④そしてその日常の中に美的体験を作り溶け込ませたい

今作のアートワークは、すべてポップアートの技法を活かして表現されています。そして曲名の意味や彼らの記者会見での発言…そこから読み取れるのは、BTS自身の価値も「ポップアート」と同じものだと捉えているのではないだろうか、ということ。

ポップアートは、簡単にいうと広告とか漫画とか身近なものを題材にした現代美術で、商業的デザインの側面があったり、大量生産大量消費社会をテーマとしている。アカデミックな芸術というより大衆文化。

カムバ前のWeverse Magezineに、アンディウォーホル展を紹介する記事が出ていて、これが公式からの大きなヒントだったと思います。
アンディーウォーホルは言わずと知れたポップアートを作り上げた人。記事の中から「Butter」に関わる部分を抜粋して太字にしてみました。

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①アンディウォーホルは「芸術はあなたが日常を抜け出すことができるすべてのものだ」という言葉を残し、日常における経験と芸術に対する大衆の関心を喚起した。
②展示会場は日常的にパーティを開催していたアンディ・ウォーホルの「ファクトリー」(彼のアトリエ兼サロン)が連想される
③作品の強烈な色彩と照明の強いコントラスト
④シルクスクリーンの平面作品だけでなく、オブジェ、ドローイングなどの数々の作品で構成
⑤生活用品の缶や包装紙、コーラの瓶、紙幣など日常的な素材はウォーホルの手にかかり、社会を見つめる芸術に変化した。作品の中に見られる対象は、単純に現実の製品や人、それ自体を記録し提示するのではなく、誰もが知っている大衆的な対象を選択し見せることによって、その時代と社会の総体的な風景を語ろうとしていた。
⑥観覧客が、写真の中の主人公となった瞬間を日常として残す。私たちも自然と、日常から抜け出していた美的体験を、日常として見るようになっているだろう。

※②③④については最後にアートワークを例にご紹介します。

つまり、アンディウォーホルは日常から芸術を見出すことを啓発し、日常的な素材を使ってその時代や社会のそのままの姿を映し出した。そして、そのアートを楽しむ観客は美的体験の主人公になり、自分の日常に持ち帰っていく。

BTSが目指した音楽はここなのではないか。これまでも光州事件を歌ったと解釈できる「Ma City」、セウォル号沈没事故を悼む表現を含む「Spring day」、競争社会に対する慰めとなる「Paradise」、YOLOの考え方を反映した「GoGo」、自己愛を啓蒙して人々を救済する「Answer : Love Myself」などなど…直接的な表現はしないものの、社会を風刺したり啓蒙するようなメッセージを音楽で発信してきた。
ただ、世界を舞台にしている今、ひとつのテーマでひとつのメッセージを唱えるのは難しいこと。世の中の(弾圧される弱者の「防弾」として)代弁者であり共感者として支持されてきたBTSにとって、なにかを尊重する代わりになにか軽視されてしまうものが出てきてしまう、というのはリスクである。

だからこそ変化する時代の中で「ポップアート」として、ただ日常の様々な側面を(魅力を引き出すように)映し出し、観る人の解釈で良い気づきや体験をしてもらい、また日常に持ち帰ってもらう。メッセージの内容は定義しない。ただ、彼ら自身は彼らが向かいたい価値観を体現する。K-POPの枠に捉われず、ただ今の時代を生きる「BTS」を確立したいと思っている。そしてそれは変化するものだと分かっている。現代の大衆文化を象徴する消費物の箱舟であり、いろいろな思想の種を表現するアートでもある、そんな大きな「ポップ」な存在。

「Buter」リリースの記者会見でリーダーRMがこう語っていた。まさにこの意識の片鱗が見えてくる。

RM「ニューノーマルを迎えて、同時代に僕たちがどういう価値を求めるべきなのか、それについて僕らは責任が重いと思っています。今は『Butter』として僕たちなりの答えを出しました。次に出てくる答えは、きっと今考えている悩みから辿り着く結論になる。毎回、そのときの僕たちなりのベストの最善を尽くした結果、答えだとお考えくださったらなと思います。」
RM「僕が考えるには、音楽だけじゃなくいろんな芸術の創作はすべて、プロセスの中にいると分からないけど、過ぎてからこれはそうだったのかと評価されたり討論されたりするものだと思います。僕らは8年目の今も進行中のプロジェクトなので、K-POPの概念もどんどん拡張されていますし、僕らの曲がK-POPとしてカテゴライズされるかどうかは、僕らが最善を尽くした後に、後日評価されるのではないかと思います
RM「“同世代の代弁者としての機能”を果たすこととも繋がりますが、僕たちは音楽を作るときは、まず会社と僕らで話をします。今どういう気分でいるのか、どういう情緒を持っているのか、何を話したいのか、興味、イシューなどをインタビューみたいに。そこで生まれた僕たちがやりたいもの、表現したいものは何なのかと、その反対で人々が僕たちから聞きたいものは何なのか、そのバランスについての悩みがいつもあります。最初の『学校』三部作から最新の『BE』まで、毎回アルバムの企画とタイトル曲、それらは僕たちがその瞬間に下した最善の決断だったと思います」

(そういえばアイドルって「偶像」って意味だしね…人々が何を「偶像」とし、その「偶像」から何を持ち帰るか。その答えはアイドル自身にもフィードバックされるから「偶像」が「本物」化してアイドルの存在意義が生まれる。その生産的な循環をこれまでもBTSとARMYは連帯してやってきたし、さらに大きな輪で、「ポップ」という存在になりたいのではないか)

今回の作品については、特に強いメッセージを乗せているわけでは「可愛らしい告白ソング」として捉えることもできる。
ただ、彼らの価値観は体現されているし、その文脈に共鳴する人は共鳴するし、気づく人は気づくし、議論する人は議論する。「Butter」によって何かが生産される。そうやって時代とともに変化し合っていく。その起点にBTSがあるというのが彼らの存在意義。

なにに気づくかは、解釈するかは自由ですが、実際に今回考察としてあがっていたトピックをピックアップしてみます。

・ジェンダーニュートラル
今回の衣装は、先に語ったように元来女性的なイメージの素材やモチーフを取り入れている。そして男性も化粧をする。性別の壁を感じさせない表現。
※こちらもカムバ前の5/17にweverse magazineにこのテーマの記事がありました。

・人種差別への抵抗
カムバ後のV LIVEでの発言で、今回のテーマカラー「黄色」と「黄色人種」をかけた発言をしていました。

-僕たちはなんでこんなに黄色いんだ?
-なんで黄色いかだって?僕たちは今回「Butter」だから黄色いんだよ。僕たちは黄色人種じゃないですか。「Butter」レッツゴー。

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(それとない会話の中でウィットに富んだ発言。ナムさんが発するということは軽はずみな発言ではなさそう…。実際に3/30にアジアンヘイトに対する表明を公式で出していたのも記憶に新しい)

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・LGBT
ジミンの髪色がレインボーカラーなのはLGBTのアイコンではないか

・多様性
MVが最初は白黒→カラーに転換しているのは多様性の描写ではないか

などなど。

正しい、正しくないという答えはないと思います。答えを決めること自体BTSは避けたがっているように思います。ただ、何かを感じ取って受け止めて、それをどうプラスの方向性に活かしていくか。時代に宿しながら変わっていけるか。そのきっかけを大衆エンタメから提示してくれる存在がBTSなのかなと思います。

最後に、曲名である「Butter」の意味を調べてみると、下の2つの意味を発見しました。

「バター」Wikipedia
西洋では、生活の象徴として「バター」という言葉が用いられることがある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%BF%E3%83%BC
「Butter」
食べ物のバターと同じスペルですが、若者にスラングで使われると「とってもよい事・素晴らしいもの」という意味になっちゃうんです。Saturday Night LiveというTV番組で、司会の人が褒め言葉として「Like butter」と言ってるのが広まったとのこと。「This song is butter(=この歌凄く良いよ)」なんて使い方をされます。
http://blog.livedoor.jp/cyuzaieigo/archives/1770137.html

まさにポップアートのテーマとなる「生活の象徴」を、「素晴らしいもの」に転換してエンタメとして表現するためにダブルミーニングで「Butter」というタイトルを付けたのだろうなと思います。
マイケルジャクソンやアッシャーなどのポップスターのオマージュを歌詞に入れているところもまた、BTSが次なる音楽界のポップアート/アーティストになるんだ、という意識を感じる。
「ポップ」、大衆的でもあり高尚な難しいテーマだ…。この先BTSはどんなテーマで曲を出していくんだろう…。いや、もう「BTS」自体が「ポップス」になっていくんだろうな…。


最後にポップアートの様々な技法で表現された今回のアートワークを紹介して終わります。
※先ほどのweverseの記事内にあったこちらの要素。

②展示会場は日常的にパーティを開催していたアンディ・ウォーホルの「ファクトリー」(彼のアトリエ兼サロン)が連想される
③作品の強烈な色彩と照明の強いコントラスト
④シルクスクリーンの平面作品だけでなく、オブジェ、ドローイングなどの数々の作品で構成

②アンディウォーホルの「ファクトリー」
アンディーウォーホルが拠点にしていたアトリエの写真はこちら。

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「Butter」初パフォーマンスとなったビルボードのステージセットと似てませんか?

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お金はかけられるのになんでこんな雑然とした倉庫っぽいところでやるんだろう…?と思ったのですが、ファクトリーをオマージュしているのかと思ってしっくり来ました。(他にこの考察してる人いなかったけどそうじゃない…!?)
ちなみに2014年に開催されていた森美術館のアンディウォーホル展に私も行っていて、このファクトリーの再現スタジオも見てきました。

作品の強烈な色彩と照明の強いコントラスト
こちらも今回のコンセプトフォトを見ると、彩度の高い背景に強いフラッシュでコントラストを立たせて撮影をしているのが分かります。

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④シルクスクリーンの平面作品だけでなく数々の作品で構成
「Butter」の今回のクリエイティブ・アートワークには、ポップアートの技法がたくさん使われています。

・シルクスクリーン(穴を開けたところだけインクを垂らす印刷技法)
ジャケットの溶けたバターの影がドット状になっているのでわかりやすいですね。ぱきっとした色使いもポップアートならではです。

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・コラージュ
おなじみのコラージュもポップアートの技法です。コンセプトクリップのティザーポスターは、日常の様々なアイテムをコラージュに落とし込んでいます。リチャード・ハミルトンというコラージュアーティストがいて、彼はアンディーウォーホルにも影響を与えたというポップアートの先駆者でした。

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・インスタレーション(空間芸術)
コンセプトクリップの映像では全員が様々な色彩で映し出されたライティングの中で踊っています。このように二次元ではなく空間を使った作品、そして被写体を何重にも重ねるような表現も現代ポップアートの特徴です。

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おわりに

さて、こんなに書くつもりなかったのに、気づけばものすごい長文になってしまいました。今回綴ったことも個人的な感想と考察であって、正解はないと思います。

ひとつだけ言えるのは、こうやって深堀りできるアイドル/アーティストであること自体がすごいよ…。だからバンタンを追いかけていけるし、沼っている。
パフォーマンスもすごく良くて言いたいことが多いから、体力があればジミンちゃんのダンス編も書きたいけど…どうだろう…

ここまで読んでくださった方、長文へのお付き合いありがとうございました。

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