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歌舞伎町のお客様~逮捕された悪い人とご飯を食べた話


歌舞伎町のキャバクラで働いていると、何の仕事をしているか分からないお客様が多数来店する。
フタをあけてみると「組」に属する人や関わりがある人が少なくない。


そういった人は派手に飲んでいったり
お金を使う人が多い。


その中の一人、Kさんは歌舞伎町のキャバクラで飲んでいた40代。
とある詐欺事件で捕まり、2年間判決を待つ間に拘置所に入っていた。

いわゆる「塀の中」である。

判決が出るまでの間だけ外に出てきている。


歌舞伎町の区役所前で待ち合わせて2年ぶりに会うKさんは、少し老けていて肌ツヤは悪くなり2年前には黒々とした髪の毛は白髪に変わっていた。


Kさんは、和彫りが入った輩のくせに私の飲み物が少なくなったら「次は何を飲む?」って聞いてきたりサラダも取り分ける気が利くタイプの人間だ。


2~3年前、Kさんたちとその飲み仲間や仕事仲間のグループはキャバクラに毎晩のように飲みに来ていた。
上下関係もしっかりとあって、ボスになっている男が主に支払いをする。


ボスはHさん。
Hさんは目つきがするどく、短髪のいかつい外見で輩にしか見えなかったけれども

たまたま成功した仕事で大きなお金を手にしたばかりの人だったらしい。


シャンパンは入れなかったけれども、ほぼ毎晩団体で長時間飲んでボトルがあく数も多かったので1か月トータルすると数百万円単位の結構な金額になっていたと思う。
私が働いていたお店はシャンパンを入れなくても決して安くはない。


Hさんたちが、いつもキャバクラで飲んでない人を連れてきた時はそのお客様は引きながら「毎晩こんなところで飲んでたら頭がおかしくなる・・・」と言っていた。


きれいな女の子たちが高級品とキラキラしたドレスを身にまとい、おじさんたちにチヤホヤしている。そんな世界が異常に見えたのだろう。


Hさんは大きな高級車に乗っていて、毎晩5人以上の団体で飲みに来てお店の黒服たちもかなり気を使って特別扱いをしていたのでHさんはそれなりにお金を持っているんだなと私は思っていた。


でもそれは違った。


実は見栄をはっているだけで内情は借金だらけだったらしい。

次第に足が遠のき「最近あんまりHさんたち見ないね」といっているうちにそのグループの人たち自体見なくなっていった。


HさんはKさんにお金を貸してくれと言ったけれどもKさんは絶対に返ってこないお金だと思ったし「この人はもうだめだな」と思って貸さなかったそうだ。



Kさんは遠い目をして言った。
「Hさんは自分じゃなくてお金が女の子にチヤホヤされたこと、気が付いているかなぁ・・・
おれはもうキャバクラに行きたいとは思わないね」


それでも、3,4年も前に店に通って指名していたキャバ嬢の写真を「これ、〇〇ちゃん!」と懐かしそうに見せてくる。


私とのラインのやり取りを「あの返信はありえねーだろうwそういう所もよかったんだけど」と楽しそうに話してくるし、やり取りや会話をよく覚えている。

私にとっては遠い過去の話だ。


でもKさんがキャバクラで過ごした時間は「偽物」であっても彼にとって本当に楽しかった「夢」だったのだろう。


Hさんはお金がなくなって消息不明。
Kさんのグループのほとんどは、逮捕されたりして全員消えたらしい。

中には亡くなった方もいた。


歌舞伎町では羽振り良くお金を使っていても、数年で消えてしまうことが多い。


他の私のお客様も、ベンツのSクラスに乗り、お財布の中にはいつも数百万入っている方がいたが数年で消えた。
一緒に飲んでいた飲み仲間たちに「周りの人間に生活費8万円の借金を申し込んでいたが貸さなかった。そのうちどこかにいなくなってしまった」と聞いた。


ほぼ毎日のように歌舞伎町じゅうのキャバクラで飲み歩いていたのだが、一緒にあれだけ飲んでいた飲み仲間でさえ、誰も行方も連絡先も知らないし特に興味もない薄っぺらい繋がり。


「人の夢」と書いて「儚い(はかない)」と読む。
歌舞伎町で飲むということは一瞬の儚い夢なのかもしれない。



キャバ嬢さくら

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