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第34話≪カナデの章⑨≫【piero/mascot/crown】―遥かなる時を超えて巡り合うツキとカナデー

清勾玉の一筋の光は酒舟石の『中』を指しているようだ。カナデは酒舟石を隅から隅まで手で触り、コンコンと音をきいてみたり、方角をもう一度確認したりしているうちに、カナデの掌から清勾玉が滑り落ち、正三角形の60°の分岐点になる溝の部分にカランカランと清流【青龍】の音を奏でながら、波をたてる。
ココが先ほどから落ち着かず、酒舟石をぴょこんぴょこん激しくすばしこくグルグル回ったり、カナデの服を引っ張ってちぃちぃ!!と何かの前触れを示すかのごとく騒いでいる。

真剣に酒舟石を観察してたカナデがココどうしたの?と言いながら、光輝く清勾玉を拾うその瞬間、目の前が光という連続する真っ白なまぶしい光の波が押し寄せカナデはキャッと小さく悲鳴をあげ両目を右腕で隠す。

「こんにちは。というより…はじめまして…でしょうか」

先ほどまではカナデとココだけの場所だった酒舟石にびっくりするような美しい女性がゆったり腰掛けている。
美しいピンク色の長髪に全身真っ白のガウンに真っ白の帽子、真っ白の手袋に靴、胸元には『蝶』の紋章が刺繍されている。

「あなたは誰!?」
見知らぬ女性と畏怖の念のような凄まじい霊気のようなものを感じとり、カナデは警戒心を強め一歩下がると
「‼‼フィシオログス‼‼」
とSSS内での呪文を唱える。フィシオログスとは2世紀頃にエジプトで成立されたとされる主にキリスト教的解釈の寓意を記した書で、そこから派生した様々なベスティアリは中世を通じて美術、文学に大きな影響を与えたものでもある。

カナデの左腕にトライアングルの光輝く輪が2つ瞬時に現れ、
その光るトライアングルは回転し、魔法陣を描く正六角形の中の星になると、天地にむかってごぉっと光のトンネルができる。
シマリスのココはそのトンネルに飛び込むと、姿形は変わりゆき【trasfomation】、雄大な炎尾をもち、美しい朱色の翼に鶏冠、透き通るような眼をもつ飛鳥【明日香】のキトラ古墳の四神のうちの朱雀(すざく)に変身する。
朱雀はキィ―っとカナデの頭上を煌びやかに、そして雄大に飛翔すると、カナデの眼の前に大翼を広げ、
カナデを守るようにして空中で見知らぬこの美しき女性を威嚇する。
が、どうしてだろうか、朱雀はハッとした表情でその品格のある女性の下に敬礼するかのように、片方の大翼で空中に十字を切るような仕草をする。


「朱雀!?」
カナデは訳が分からず、戸惑いを隠せない。

ピンクに長髪の女性は朱雀をみて優しく微笑みながら唇を丁寧にゆっくり動かす。

「お久しぶり。朱雀よ。私が持統天皇だった頃以来の再開ね」

ぞくっ

持統天皇…⁉

何かの聞き間違いに決まっている。だって持統天皇稜にさっき私、手をあわせてきたじゃない…!?

「わたしはあなたが先ほど手を合わせてきてくれた『持統天皇』の化身です。」

カナデは目をめいいっぱい見開き驚愕する。

「……え」

まず目の前の事態が飲み込めない。しかし、私以外の誰に対しても結界を張る朱雀がこのような敬服するような相手など初めてだ。この何処(いづこ)からきて何処(いづこ)へ行く女性は一体何者なのだろうか?

「人間の欲望とは何処(どこ)迄も奥深いもので、何故『7つの大罪と四終』をもってでも生者と死者の相互扶助の重さは天秤座に任せても計測できない。わたしが回す『車輪』という軌道に乗り、美徳と悪徳の審判を下す境界線が曖昧になってきているの。死後の世界の中には現世との往来が可能な場所があり、わたしはそこの『坂』を司っている者です。」

いきなり難解な暗号【エニグマ】のようなことをすらすらこの女性はカナデに向かっていう。

『坂』。

その単語を耳にするとカナデの扁桃体は恐怖のサイン信号のインパルスを発火する。

もしかして…わたしは三途の河?賽(さい)の河原?そんな彼の世と此の世の境界にでも飛ばされてしまったのか。

「あなたは…誰…」

震える膝を必死に足元をすくわれないように地面にくい付ける。

「西洋では、かの有名なキリストを産んだとされる聖母マリア、日本ではイタコ、巫女、そして…天照大御神(アマテラスオオミカミ)とも呼ばれたりするわね。でも、沢山ありすぎるから『ツキ』とあなたには呼んでもらうことにしましょう。」

ツキ。
月。

するとズキンと下腹部が痛みはじめた。
月のものがきた印だ…
カナデの血の海【子宮】はシクシク痛み出す。
いつもなんともないのに、つんざくような痛みに顔面真っ青でうずくまるカナデ。朱雀はカナデの身体を大きな朱色の翼の暖で包むようにして抱擁する。
カナデの背中を優しくさすりながらツキはカナデの耳元で囁く。

「月経。なぜ、あなたの‘それ’には『月』という言葉がつくか知ってるかしら?あなたたち人は進化の記憶を遡れば海からやってきたの。だからあなたの身体の中には太古のそして原始の海水という血液や組織液が全身の60兆個の細胞に巡っている。だから、私【月【ツキ】】の満ち欠けで潮の満ち引きが巡るように、あなたたち母【マリア】、つまり『生』を授かり、産むものの身体、女性に流れる血液は私【月【ツキ】】と引力でお互いひきあっているの。」

それからツキは月経痛で苦悶の表情のカナデの左胸に優しく手のひらを置く。
カナデの脈拍は痛み刺激で頻脈、BPMはいつもの60~80の倍の135に走り出し、心臓という「海」のポンプは全身に「波」を送る。

「なぜ、心臓の鼓動は『波形』というもので表されるか考えたことがあるかしら?それはあなたたち人間は海からやってきたものであり、あなたたちは海から産まれ、あなたたちの身体には原始の頃の海の記憶が流れているの。この世界のもののあらゆるものには『波』が宿る。音。光。鼓動。」

カナデはツキのその言葉を聞くと脳内に数覚の神々が宿り始めるのを感じる。

「あなたのもつ『波』は地震をおこすことも可能」

ツキはカナデの額に軽く唇を添えると、カナデの月経痛はピタリと止まる。

地震…?
地震を起こす…?

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