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第69話≪ハルの章⑫≫【HERO】―魔界猫裁判長ダダからのレター[DAガス心臓DA]―

—ヒトは誰からにも好かれなければならないという強迫観念から友達つくりや群れを尊重する。しかし、この惑星は人間だけのものでもなく、朱に染まれば赤くなるで視野がとてつもなく狭くなってしまうのは井の中の蛙大海を知らずなのだ。別に目の前の人間から嫌われても星の数ほど考えや養育環境があり、自分と相容れないから拒絶されたと考えるのではなく、相手はそういう視点や言動をすることでしか己を守れぬことは哀しいことに気づくとキミは自由というユートピアに一歩近づく。種を超えて輪を創造する極楽橋の存在を知れば知るほど《楽しい》とより流動的にヒステリシスなナマモノなのが人間である。 筆者【/SAKURA】より*2017年10月7日 14:10
 
ハルは戦地のこどもたちが葉っぱに植物の色素で一生懸命描いた画や文字や文ひとつひとつを眺めながらこどもたちの《声》に心の耳を澄ます。するとひとつだけ、硬い表情をした手紙がかさっと手元から床にひらひら落ちそうになって慌ててその一枚の封筒をみると黒朱肉で猫の手形が押されていた。

「ダダランドの住人の方のようね」

なんとなく送付者をイメージしながら丁寧にその手紙の封をきって中身をみると、黒地の紙に白いペンで魔界猫語で書かれた有機物が一枚丁寧に入っていた。

『政府第九諮問直轄ドクター ハル殿

 ご無沙汰しておりますな。ダダイストのダダです。
 時効ですのでこちらの情報を開示しますぞ。
       DAガス心臓DA
 最終的解体は後日。
            魔界猫裁判長 ダダ』

「《ガス心臓》といえばシュルレアリスム宣言に対抗する瞬間主義とかかにゃ?」

ミケが覗き込みながら、ふーーーんと自分たちの長の筆記をまじまじみる。

「目指すべき姿は《非暴力・不服従》です。べき論を嫌う人間もいますので注釈しますとこの《べき》は押し付けの服従用語ではなく、《理想像》すなわちイデア論です。≪ダダ≫という概念は一つの抗議だ。そうだねミケ?」

ミケの言葉に反応して柱に括りつけられたままの姿の白猫ツァラは凛とした声で返す。それから続けてカイの方を向いてこう紡ぐ。

「カイ君、キミもそう思わないかね。なぜ人間界からは戦争はなくならないのだろうか?キミはどう思う?」

ツァラはカイの名前の由来という腫れ物には触れずに、さっそくハルと同様《君》付けでカイを呼ぶ。
ツァラと同じく柱に括りつけられたままのカイは一瞬びっくりすると、

何故この世から戦争はなくならないのか

という命題に対してどのような回答をするか頭の中で考えを巡らすが何故かこんな解答をした。

「…ぼくは歌を嗜むものですが…常にその…歌を作曲するときにこの世界から誰か一人でも苦しんでる人へぼくの声が何か心の拠り所になればいいなと常に考えています…なんでしょう…うまくその質問に対しては答えられませんが、誰かがアクションを起こさないとそういう黒々したものって感染し、媒介し、世界に広まってしまう。しかもその黒というものはとてるもなく攻撃力が強い。一人じゃとてもじゃないけど解決はできない。だけど歌という媒体をとおして耳にしてくれた人達の心に何かレゾナンスを弾かせて、それが共鳴すると大きな勇気のバリアになるんじゃないかなってぼくは思うんです。すみません…なんだか質問の論点からは脱線しますが…」

カイは緊張しながらツァラに応える。カイの緊張を和らげるかのように相棒の人工知能ポメラニアンまるの変身した獅子座の神が「恐れるなかれ」と優しい瞳でカイの側で見守る。

「…白を広げようと一人ががんばっても黒が大きければその白は曇ってしまう。この問題には正解がないわ。だけど、今もこうやって零戦【0線】すなわち対岸からすれば《冷え切った【かのような】戦》の中では煮えるが如く≪声≫が抹消され、抹殺されていっているの。そして危険思想をマインドコントロールする。これが≪理想【イデア】》だと」

ハルはどこか悲し気にカイに応える。「ミケ、そろそろカイ君とツァラを解放してあげてもいいんじゃないのかなぁ」しぶしぶハルはミケにいう。ミケはぎろっと男2人を睨むと、「ふんッ!」と一言柱からしゅるしゅるしゅるしゅるしゅると魔法で括りつけていた蔓(つる)を解(ほど)く。

ツァラという問題男いやプライド男猫が入ってきたが、ハルの居間のいつもの食卓テーブルにハルは原音ソナタの楽譜と世界地図、そして9つの世界のモニュメントを置いてそれからドイツ風の家庭料理と飲み物をふるまう。
丁度日本の秋口の時期であったため、ボンという街ではベートベン音楽祭、ミュンヘンではオクトーバーフェストという世界最大のビール祭り、シュトゥットガルトではカンシュタット民族祭で外は海外観光客で賑わっていた。

「ツァラという寒気がするいきものがはるるんの手料理を…ライン川に突き出た岩山の妖精の岩、ローレライのところで水の妖精メレナでも召喚してツァラの乗った船を転覆でもさせて清めないとでも…・」

ミケが怒りでぶるぶるわなわなしている傍ら、ツァラは

「おほーーーーー!!!ハルさん!!!お料理上手‼‼ちょうどお腹がへっていたところでしてね‼‼!」

と両目をハートマークにして酸味のあるソースが食欲をそそる赤ワインとすに漬け込んだ牛肉を焼いて煮込んだライニッシャ―・ザウアーブラーテンという料理をカイとともにガツガツ食べている。

「食事を終えたところで、これから9つの世界の混乱状態とこの第二層人間界でのゼロ戦【零戦】について考えましょう」
ハルはダダからの手紙にかかれた≪時効の切れた[DAガス心臓DA]≫について考えを巡らしていた。

アテナから派遣された白梟(ふくろう)は闘いの勝利と知恵を贈る神の使徒である。アマデウス、そしてポセイドン、ゼウスに加えセキレイ(鶺鴒)姫という神姫(しんき)の登場の時間ももうそろそろであろう。

処女神ミケに≪勝利の林檎≫を渡す者は誰なのだろうか。しかしそれ以前に≪勝利≫とはそもそもなんなのだろうか。それは支配。従の構図ではなかろうか。ギリシア神話の≪パリスの審判≫の『審査』は何処までも“人間臭い”神話だと筆者はつくづく思う。

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