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第67話≪カイの章⑭≫【scapegoate】 ―0war【零戦】‘師'と産み拓き【海開き(うみびらき)】ー
「‘道’というものは己(おのれ)で切り拓(ひら)き開拓し、そして伸ばすものです」
黒アゲハチョウはゆらゆら羽を空に旋回させると、夏の灼熱の太陽の照り付ける光に向かってすっと力強く天空のまだその先を向いて大地から伸びるヒマワリに静かに身を置く。
「ぼくの‘道'…来たばかりの‘レール'を引き返すことができたならば、時間を巻き戻せたら僕はぼくのままだったのでしょうか」
微睡(まどろ)むぼくの眼に陽炎(かげろう)がゆらゆら水晶体に投射する映像をくゆらせる。
「人生という‘道'は引き返すことはできぬ。しかしこれからのまだ見ぬ未来の座標における‘点'と現在という‘点’をどのようなベクトルで軌跡を描くかは其方次第である。すなわち負のベクトルになればまた其方は振り出しより向こう岸に飛ばされる宿命(さだめ)だ。」
夏だというのに雪のように真っ白な戌(いぬ)がぼくに語りかける。その戌は紫色の縦に長い帽子をちょこんとつけて首にはこれまた葵色のカキツバタのような染物のスカーフを巻いている。
「きみは誰?」
ぼくは真っ白い戌に問いかける。
「倭の国を統一した聖徳太子様の愛犬、雪丸と申す」
非常に賢くまた堂々たる奈良の東大寺の盧舎那仏かのような瞳をした戌(いぬ)は荘厳な声で尻尾を時々モップのようにふりふりする。
「あなたは来るゼロ戦(零戦)に備え、再びわたくしの後身であるものとその打開に協力してもらうことにしたわ」
黒アゲハチョウは光の三原色である黄色の大きな花という宝石の上でぼくにまたおっかないことを言うもんだ。
—ゼロ戦(零戦)
「きみは良き‘師(し)'はいるかね」
雪丸が問う。
「…‘師(し)'。ぼくにとったら日々出逢う全ての事象が‘先生'だと思うんです。出逢ってきた事象、そして人もその時点におけるぼくの‘道'の上の‘点'での縁(えん)であり、そしてその‘点'から何を学び何を咀嚼し何を吸収するか…それがぼくの‘道'を描いてきた筆であり、色であるんです」
「よろしい。では其方の新たな‘師'との巡り合いに幸あれ」
すると雪丸もアゲハチョウもヒマワリ畑も映像のnoiseのようにざざざざ…・と電波の遮断如く消え去り
「カイ君」
はっ
「…夢に魘(うな)されていたよ。頭痛はどう?」
柔らかい温もりのある声。
「あ…ハル」
膝元に『原音ソナタの楽譜』を置いたままぼくは束の間(つかのま)またとある《預言の主》の声に誘(いざな)われていたようだ。
—なんだ。また『夢』か…いや次のこれは《リアル》だ。だって目の前にいるハルの夢をずっとぼくは何かの知らせのようにずっと…ずっと毎日不思議なほど習慣になっていたのが今こうして目の前にいるのだから…
「予知夢(よちむ)/【幻夢(げんむ)】」
ぼくはポツリと言の葉を梅雨で雨上がりの紫陽花から流れ落ちる一滴の雫のように呟く。
ハルはじっと物事を考えるぼくを眺めながらそっと傍の椅子に腰かける。
「…わたしもカイ君に出逢うまでは毎日のように不思議な残像が脳内に流れ込んできたわ」
ハルはサイエンティストなのでBrain学ならば立証できる事象をどう説明するべきか否かと考えを頭の中で巡らせている。
「そういえばミケは?」
いつも必ずぼくがハルに何かしないように(といってもぼく(not 僕)はそんな好きな人に手をだすような野蛮な類の人種ではないと根拠はないが絶対の自信のようなもので自負している)いつもハルの側でギラギラぼくを威嚇し、何もしてないのに容赦なく引っ掻き咬みつき…とほほ
ミケという単語を耳にするとハルはヒクッと苦笑いをする。
「ミケは…魔界猫のツァラというなかなかちょっと…手ごわい男の白猫さんと張り合ってて魔界の方で今戦々恐々状態よ」
あのミケとぼくの知らない魔界猫さんが互いにシャー―――ーっ!!!と大蛇の爛々(らんらん)とした眼光で生きとし生けるものを抹殺する勢いの火花を飛ばしていると思うと、想像するだけでぼくの背中に冷や汗が流れる。
「…へ…へぇ…た、大変そうだね」
思わず身震い。いつも温和なハルでさえ表情が硬いのでいやはや南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。
「それは置いといてね。今カイ君が寝ている間にカイ君の頭上にある脳波解析プログラムのイメージングでその『原音ソナタ』の意味するものがゼロ戦(冷戦)という大災厄(アルマゲドン)であることを抽出したの」
「ぼくの眠っている間の夢はハルは全部お見通しってこと?」
かぁっと顔が熱くなるのを感じながらぼくはもごもごいう。だって困るよ、夢の中くらいぼくは…
「ううん。それはされたら個の侵害にあたるしカイ君の私的な境界を乱す権利はわたしには勿論ないし、わたしもされたらそれこそ人体実験に当たるからカイ君の尊厳はリスボン宣言に則(のっとっ)てそんなこと絶対しないわ。」
ハルは真面目な顔で真面目な声でぼくにいう。
そのハルをみてるとなんだかぼくの素全部曝(さら)け出しても平気、安心だという気持ちになってしまった。ぼくっていう生き物は単純だなぁ。
「ゼロ戦(零戦/冷戦)…」
原音ソナタの楽譜に目を落とす。映像が音とともに否応なく僕の脳内に土砂崩れの濁流の如くぼくの必死の堰き止めも虚しく多くの叫び声に爆音、つんざきわたる幼子の鳴き声、銃声の連続、血の海、そして
全てアルゴリズム化した人間どもの“エデンの園”終末
…ああ…神様これは…ぼくはホロコースト(大量殺戮)を目の当たりにした恐怖心で…
「カイ君」
ハルがぼくの右肩と背中に優しく手を置いて過呼吸発作が飛び出そうなぼくを下から真剣な眼差しで覗き込んでいてぼくは我を攫われるところを救われた。
「…みえちゃうんだよね…カイ君には…その生まれ持った才能で…」
ハルは徐(おもむろ)にそういうとぼくの膝元からパッと楽譜を取り上げするすると丸めて真っ白の短パンに差す。
「…今のは何…?」
ハルは無言で首を横に振る。
「カイ君は…知らなくていいの…まだ怪我も治ってないもの」
ハルはそれから後ろを振り向くとまたパッと振り返って笑顔でぼくにこういった。
「準備しよう」
無理に笑うハルの目尻には幾たびのWarの悲惨さを乗り越えてきた涙がたまっていてそこに窓から指す木漏れ日が七色のプリズムを映し出しているのをぼくは見逃さなかった…
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