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第32話≪カイ χの章⑥≫【scapegoate】~幻夢Ⅲ~ ―60兆個の時細胞とメビウスの大車輪―

「ひとは生きているのではなく、生かされているの」

ぼく/僕のみえない傷

わたしのみえない傷

ねぇあなたならこんなときどうする?

こんなとき?

そう。こんなとき。

僕は透き通ったガラスの椅子に座って後ろの両手と両足には鎖…ではなく、全身真っ白で眼だけが獲物を射止めるような鋭いルビー色のアルビノの蛇がシュルシュルと巻きついて微動だにできない。

キミはゆっくり八分音符がハープを奏でるように椅子に『拘束された』僕の方にちかづいてくる。

キミは『拘束された』ぼくの心臓に耳を澄ます。

とくん とくん とくん

「感情も波、あなたの『これ』も波…」

そういうとキミはふわっと『拘束』されている僕の膝の上に腰掛ける。


キミはいつも僕に触れてくるのに、どうして僕はキミに触れちゃいけないんだろう。
後ろ手首に巻き付く蛇がより一層僕の波打つ動脈を静脈を締め付けてくる。


手首が自由になれば、いつも『蝶』のようにすりぬけるキミを後ろから抱き締めてキミの体温を僕は全身で知ることができるのに…

僕の膝に腰掛けたキミはスラリとした美しい脚をゆらゆら純白のワンピースを繭の糸のようにてぐすは僕にくれず、ふらんふらんと透けるのうな裸足をちらつかせる。

ごくっ

もうだめだ。でも駄目だ。
そうキミには決して触れてはいけないこの世の理【ことわり】。
僕の理性の崩壊線と腕に絡まる蛇の強さはROC曲線を描きだす。

「五感で見えるものだけを信じちゃいけないわ。」

キミは少しだけ可愛らしい左顔を僕に向けて微笑む。

ヒトが右顔を向ける時はそれは策略家。右顔は険しくものを考えながら優しい嘘をつく顔。
左顔を向ける時は感情的に、そしてあなたに好意をもっている傾向あり。左顔は造形の顔。

そっかキミは僕に好意をもってくれているのか…などと僕はキミのいう『真理』など明後日の方向で、この状況を理性という帳【とばり】で括ることができやしない。

苦しくなってくる。

一人で歩いてきた筈の道。
いつからかキミの存在を意識するように、そして迷ったらキミならどうすると考えるようになっていた。
ずっと身寄りなく一人で独りで一人で独りで転んでは叫び声を上げて痛みを知り、キミの痛みをなぞるように、キミの痛みと傷を自分にも杭うち、傷つけ壊し、バラバラになった断片を必死にかき集めかき集め、僕を再生し、同時にキミを再生し続け僕は生き続けてきた。
キミの歌声がいつも聴こえてくる。
僕はキミの歌声にのせて何億、何兆の人間の魂に夢という感動の感情の大波を届ける。
僕だけの人生はキミとともに歩んでいた。
僕の中の60兆個の細胞の時を穿つ機能が僕に教えてくれる。
キミの声が僕の60兆個という蝶になってひらひら綺麗な讃美歌を舞う。


「あなたはひとりじゃないわ」

キミはそういうと優しく笑う。

「うん…」

僕はキミが大好きです。

ううん、僕はキミを愛しています。

僕はキミと一つになりた…



「「わたしはあなたのお母さんよ」」


そういうと僕の唇にキミの小さな柔らかい花弁を被せ、僕を何処までも快楽のメビウスの輪という名の大車輪に乗せてゆく…

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