小説×詩『藝術創造旋律の洪水』[chapter:≪ハルの章①≫【HERO】―勝利の女神君臨ー第6話]

「政府第七諮問機関一同起立!!!!」」

バッと天皇の間に君臨する者たちが「勝利/昇進/野心」を意味する赤のマントを閃かして立ち上がる。
中央先頭の透き通るようなサファイア色の瞳を輝かせる日本人の女性が続いて勢いよく号令をかける。
「我ら「君が世」のために!!!」

朝訓が終わると物者たちはそれぞれの仕事場所に散る。

サイバー攻撃なんてお手のもんさ 

後ろから ### の意気揚々とした笑い声が聞こえる。
カッカッカッと早歩きの女性は黒髪、真っ白のタンクトップにまっさらな短パン、専属の勲章入りの赤マント、無線の仕事用の通信機器とケーブルコードラインのピンクのイヤホンを耳に煌かせる。

政府第七諮問機関は日本の神の象徴、天皇の間に、来る第X次世界大戦のために作られた謎めいた精鋭集団である。

ハル…

ハル…

きこえるかい…

ぼくは

キミと

ざざざざざざざざ--------------

何年前からだろうか、ハルと呼ばれるこの25歳の女性は毎朝支離滅裂【incongrous】な夢から目覚める。

今朝もだったわ…

ハルは政府の特殊な人間しか入れない幾重もからくり錠のかかった扉をなんなく通り抜け、7次元の世界を交通する空間をすっと抜ける。
目の前にはドイツのアウシュビッツ収容所の廃墟が広がる。

きぃきぃきぃ…

いつもは戦争の悲惨さを学習しにくる観光客や修学旅行生等でにぎわってたりするが、いつも「この日」だけは誰もいない。
悲しい音をたてて看板が風に吹かれてハルにこんにちはと挨拶の寂しいオトを空間に交わせる。
この下には何千ものの生きたまま化学兵器と人体実験でぼろぼろにされた生身の人間の魂が眠る。
「アーメン」
ハルは小声で祈りの言葉を囁き空中に十字を切る。

ハルの前に1945年の映像がざざざざざと浮かび上がる。
ナチス兵士にシャワーを浴びさせてやると裸になりclosedな空間に押し込まれたユダヤ人の血統の女性たちが毒ガスのシャワ―を浴びる。
きゃあああああああああああ!!!!!!!!!痛い痛い!こわいこわい!!!!助けて出して出して!!!!
と凄まじいつんざくような悲痛な叫び声の連続。断続。やがて無音。
次に米国に逃亡したユダヤ人天才科学者アウシュビッツが開発した「ピカドン」が米国兵によって日本の広島と長崎に原爆という形で落とされる映像が流れる。全身溶岩のように赤黒くどろどろに溶けてもはや人の形ではないひとたちが、うわわわわわあづいよーいたいよーと川の方向へ流れ命を失ってゆく。

はぁはぁはぁ

涙をながし過呼吸で全身がくがく震えるハルは短パンのポケット部位に装着した自分用のオーディオ機器をオンにする。

「…ぼくの音の清流【otonoikidukai】
 キミの音の風向き【otonokokyuu】…」

ピアノの旋律とともに柔らかい1/fのゆらぎ波長の男性の声が側頭葉に響き、コントロールを失いかけた扁桃体、室傍核の自律の奏で【カナデ】を調律する。

きっと空【ソラ】を見上げる。

いま私はドイツにいるけど、この歌声の人は…
そう、大空で繋がっているの…

ハルは厳格な家庭に産まれ試験や優劣、比較というおわりのないゲームをひたすら走り続けていると、気が付いたら飛び級にして政府直轄のドクターとなっていた。

専門は精神科・心療内科・児童相談所社会福祉施設嘱託医である。
物心ついた時から常に「1」であり続けないといけないという拘束、強迫観念に類似したものに取りつかれていた。
ハルの容姿が異性同性問わず魅力的であったせいなのか、18歳の時、身の毛もよだつようなおぞましい被害に巻き込まれ心と体に大きな傷跡を残し、何の運命の悪戯なのだろうかトラウマとなる。
おぞましい過去。
そのときから、ハルは自分の身体を使って一般的に向精神薬と呼ばれる脳細胞に働きかける薬剤をもって人体実験をする。
ルボックスは・・気持ち悪くて胃からすぐ戻す
ソラナックスは…GABA系【抑制系下行経路】を賦活化させる
短期間系・・
などなど、自分の網膜電図からアナライズしたアウトカムを論文にしてゆきエビデンスを確立させてきている。

「はぁ~るるん♪」
空中にふぅわふぅわ浮いた何者かがハルの後ろから抱き着く。
「う、、、ミケ―――、、、家でおとなしくしてないとだめじゃない」

ミケと呼ばれる【魔女】は金色と栗色のまざった髪色でくるんくるんとゆるいウェーブがかかたツインテールに赤ワインドレスからスラリとのびた生足を艶めかしく魅せる。赤ワインドレスのプリーツスカートからは9つの青いしっぽのようなthinをゆらゆらクラゲのように空中の超微粒子を泳いでいる。

「はぁるるーんん!だって・・・おなかぺこぺこだもん~~~はるる~~~ん」
とすりすり鼻をすりつけて今にもハルを食べてしまいそうな勢いだ。
「ひいいいいい!!!ミケ!!んも!!魔界にはいったの?!」
「ま か い  魔界いったにゃーーーーん。そんなことよりはるるん、お つ か れ さ ま のリップはどうにゃ~ん」
ハルはうげっといつも通り青ざめ空中にふうわふうわミニスカ、下手すりゃ下着まるみえのふしだらな恰好でまだ朝っぱらというのにべたべたべったりなミケの口にポケットからだした特製のマタタビの一塊をどりゃぁ!突っ込む。

ミケはマタタビにめろめろになったので、ハルはふぅと肩をなでおろすと、ミケをずりずり自宅へと連れていく。

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