第66話≪ハルの章⑪≫【HERO】―すべては海【産み】からはじまった―

何も知らずに消えていく…
全てを知り尽くして渡り歩いていく…
上手く生きようとせず、完璧でなくったってわたしはわたし。

鏡をみてにっこり笑う。
人間はマイナスな感情のときでもにっこり口角を上げるだけでも幸せホルモンが分泌されるから。
両目を閉じて
鼻からゆっくり1,2,3で吸い込んで

5,6,7,8,9、10

ふぅ―――――

お腹の底からゆっくり息を吐く。
首を軽く時計回り、反時計回りに動かす。

右手の親指と人差し指、左手の親指と人差し指で空中にわたしだけのフレームワークを創造して切り撮る。
ピクチャーウィンドウ。わたしの両手の中の長方形のセカイに何かに気づいたキミはこっちを振り返る。

幻のようなキラキラした名前も知らない『道』を歩いてきた筈のわたし。でも私はモノラルな記憶の糸を手繰り寄せて曖昧なステンドグラスにカラフルな記憶と云う彩を添える。

スキだった。わたし。今は?もっと大好き。

白いワンピースをゆらゆらさせて、蝶の舞う庭園に私は一人、仰向けに寝そべって、土や草の香りを、土の柔らかさを背中に感じて、お腹と顔でお天道様の温もりを感じてそして壮大な空をみる。

ああ。私たち人間の悩みってこんな何処までも蒼(あお)い青(あお)い碧(あお)い透き通った広大な空に比べたらなんてことないって。
海や空を忘却して争いあう人間たち。
その映像で私は涙をながすと、涙の粒は重力に逆らって空にぽた、ぽた、雨になり、みずたまりになりそして海になっていた。

ザザン ザザン ザザン

海。うみ。産み。うみ。生み。
そう、すべては海からはじまった。

わたしは白いワンピースをゆらゆらさせながら、寄せてはかえす冷たい波に裸足で進んでいく。

夕日と朝日が東と西に半分だけ顔をだしてわたしを境界線から優しく見つめて微笑んでいる。

わたしはその間を渡っていく。どこまでもどこまでも。

空っぽな時。からんころん。わたしの記憶という箱を揺らしてみる。

いっそ、時間を巻き戻せたならあなたは戻りたいときってある?

月【ツキ】が問う。

わたしは、ううん、過去には戻りたくない、だって常に頑張り続けてきたし、後悔なんてしたことないし、それに

今更何を想えばいいの?

あえていうならば初めての経験の相手はこの海で
いっそ、このまま海と一体になってわたしはゆらゆら溶けて地球と一体になりたかったかもしれない。

時間を逆戻りさせる技術をしっていても、もっていても、人間の歴史は繰り返してしまう。
止めても、必死に声を響かせても
わたし一人じゃ難しいのなら、
手を繋いでみせるわ。
国境も時も時空も概念もなにもかも超えてわたしは手を繋ぎあう。
壮大な輪はわたしの首飾りの指輪と反響しあって、わたしは幸せで笑顔になる。

わたしの辞書には不可能という言葉はないの。
だって悲しいじゃない?
自分に制約も限界も創るのはわたし自身。

愛を覚える日。優しさを知る日。温もりを感じる日。

全ての毎日というルーティンワークは途切れることなくずっと一途にわたしの未来へ一筋の航路を紡ぐ。
心臓に手をあてて、それから海にわたしは潜る。

全身に水圧がかかり、無音になる。

はぁ

ざばんと顔を水面にだす。
それから両手に海水をすくう。
わたしの両手の隙間からこぼれ落ちていく水はわたしの一部。

わたしは常に流動的。海の波の様に、だけどわたしというポリシーは変わらぬまま。

まっさらなわたしのままのわたしはこのまま進む。
わたしを信じ続けて。

穢れなきものはわたしは全て愛し、守り、受け継いで生きていきたい。

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