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第52話≪魔界猫達による革命裁判の章②≫-「一人で壊すのが怖いのなら二人で一緒に壊そう」ー

「壊すなら、一人ではなくて二人で一緒に壊そう」

「明日日が昇ればまた曜日をちぎって時を刻む」

「溶けてしまうのなら、一人ではなくて二人で一緒に溶けよう」

「神の前ではLGBTQも異民族もそのような差別などない。みな平等」

「一人で壊すのが怖いのなら、二人で一緒に壊してしまえばいい」

「私たちは《その時》皆自由になる」

教会の中の男女たちは懐から銃をだし、「アーメン」というと皆二人一組向かい合って、パートナーのこめかみに銃を向ける。

パンっ パンっ パンっ

銃声の音が飽和すると教会の中は集団自殺を図った使徒たちが地面に倒れ覆いかぶさる。

ザザザザザザザザ…

魔界の裁判の中心ではこの第二層の人間界のある国で起きた信仰心からのマインドコントロールなのか集団自殺を図った事件のおぞましい映像が流れていた。

思わずえずくような光景に三毛猫ミケは反射的におえっとなる。

「さて、皆の集、お集まりいただいたかな」
裁判長の黒猫ダダは長崎のユウカが乗船していた客船からこの忌々しい事件を聴いて黒服のピシッとしたスーツのデキる男に変身し魔界に舞い戻り、最高裁判長の席から魔界裁判官達を見渡す。
「ララに関しては《例の女性》の謎に関する調査に行ってもらっているので本件は欠席だ」
なるほど天然茶白猫ララの席は空席だ。

「密室で起こる追い詰められた時起こる異常心理からの集団自殺ですかねぇ。このような事件は結構あります。バスジャック、飛行機を乗っ取られたときのハイジャック、などなど。密室という閉ざされたときに強盗犯や殺人犯が人質をとって警察と張り合うあのような異常な状況…。が、今回の事件の例に関しては信仰というマインドコントロールのようなもので自ら望むようにして自殺を図っている…ここの教会の神父はだれかね…」
男前の美女シャムネコのピカビアは気品ありながらも鋭い眼で映像を睨み、高速でアナライズ処理している。

「同性同士、黒人と白人など人種差別などの被害にあったものが抱き合いそのあとお互いのこめかみに銃をあて発砲…こめかみに発砲では即死できないけどね。喉から生きるための司令塔の中枢が集まる延髄にむけて発砲ではなくなぜか側頭部に銃を向けているのも謎…前者の組み合わせに関しては同性愛者とみられるわね…第二次世界大戦中、お腹にいたこどもたちは同性愛者である統計が高いらしいけどね…米国のとある医学ペーパ―によると…」

自分の主のハルがドクターであるため、ミケは医学的観点から司法を見渡す役である。
「異常なストレスを抱えながら子を授かった女性から生を授かった子…わたしが思うにはそういうストレス抱えた状況下で産まれては子孫を残したらそんな絶望的な状況をまた新しい命が宿命として辿る道を神が意図的に遮っている様にもみえる。女と男のマジワリから新たな命を授かるわけにはいかないという遺伝制御がかかったようにみえるんだよね…なんの罪もないこどもに罪を負わせるわけにはいかないものね…まぁこの事件の真意の論点からはそれるけど」

お色気満載だが男にそっぽも関心の欠片の微塵もない三毛猫ミケをなんとか振り向かせようと、プライドの高い雄の白猫ツァラは全身白スーツでマタタビパイプぼ煙をくゆらせながら、えへんっと咳払いすると滑らかに言の葉を紡ぐ。

「また…ですか。昔はこのような宗教がらみの集団自殺はよくありましたな。一人で死ぬのではなく愛するものと同時に死ぬことがこの世からの解放だと。日本の者が神父と自称し、米国のとある教会で集団マインドコントロールを図った事件はまだ記憶に新しい。日本ではオウム真理教というものがあった。神経伝達物質アセチルコリン系に即時に作用する毒ガスサリンを密閉された電車の中に飛散させて多くの人間を殺した。それが正義だとマインドコントロールさせたのだ。ISと変わらぬ。テロも、独裁国家もそうだが、人間という生き物の男の血液と遺伝子には支配欲、独占欲というものが隠れている。これが厄介な方向に向かうといわゆる虐め、DV、職場でのハラスメント、ブラック企業、そして独裁国家、そして地球を滅ぼす兵器へと拡大する」

「要するにあんたみたいなモラハラ男ってやつね」
ミケはふんっとツァラを汚物を見るような眼で睨む。

うっとツァラは引っ込む。
裁判長ダダは「裁判官同士の叩き合いなどは控えるように」と声を響かせる。

「また悲しき事件が…これを事前にとめることは我々にはできなかったのか…」

雄の茶トラ猫アラゴンは心優しきモノなので、毎回毎回事件の惨状をみては涙をみせぬまいと目頭を押さえる。

「ふむ。今回の論点はそこだ。アラゴンよ。我々は予防策、リスク回避という目的でこの革命裁判を開いているわけだ。何故このような事態が起こり、このような事態をもう二度と繰り返さないためにはどうすればいいだろうか」
ダダは指揮者の如くリードする。
「人間の心の中に潜む『波』。それはいいものもあるし悪いものもある。人間は愚かな生き物というより過去に犯した過ちや歴史を繰り返し悲惨化させる傾向がある。では逆の発想で悲惨な歴史を繰り返さなければならないように地球の西暦にして1945年、ドイツのポツダムで行われたようなポツダム宣言があってもまたまた物騒な予感の『波』の嵐を皆の衆は感じているだろう。一人の声の清い声は漆黒の闇にもみ消され捏造され隠蔽工作というもので亡/無くなる」

アラゴンは涙を流しながら言う。
「ダダ様。『波』の制御をどうにかできないのでしょうか」

ピカビアが言う。
「この件に関してはマインドコントロールを行った神父は大体わたくし解析できましたね。この神父の思考回路も自分は正義と平和の下で集団自殺を導いたと自分が恐ろしいことを導いているのを自覚していない上に、それを自覚させても変われない類の人間です。今回の件の予防策はこやつを第三層に追放するしかないでしょう…」

ミケは考え込む。
「第三層に追放しても追放しても第三層がパンクしたらダクトを通って下手したら第1層まで被害拡大するかもしれなのよね…」

「『波』を司るものはツキ様とアマデウス様以外にもいるだろうか?彼女らはもうなにかストラテジーを構築しているようなんだが」
ツァラが会場に声を響かせる。

「他力本願…?何のための革命裁判よ」

ミケは怒ってツァラに犬歯をかっとむく。

「他力本願ではなく専門家へのコンサルってやつじゃないかな」
ピカビアがまぁまぁ落ち着いてとミケをなだめる。

「では今回の件に関してはピカビアが解析した神父をヘルヘイムへ追放する」
ダダはアンジェラスの鐘を鳴らす。

最後に一同は1493年にドイツニュルンベルクで出版されたドイツ医師ハルトマン・シェーデルが執筆した『Nuremberg世界年代記』を改訂した詩を詠唱する。


天地創造から最後の審判の7つの世界史
錬金術の材料の薬草
引き抜くと叫び声をあげる
巨大な一本足のスキアポデス
日差しを避けて 避けて 避けて
世界を7つに裂いて 割いて 斉て
最果ての源泉
大地の果てに流れ込む海の底に潜む怪物
夢舞う啓示 
愚神礼賛
また眠りについたら ここで逢いましょう
聖人に倣え Tapa tapa tapa…

詩を詠唱し、一同解散すると裁判長ダダは黒猫の姿に戻り謎の女、ユウカの調査に行っているララの元へ風の如く向かうのだった…

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