小説×詩『藝術創造旋律の洪水』[chapter:≪カナデの章【piero/mascot/crown】②≫ーキミはいじめについてどう考える?【前編】―第16話]

「はい!はじめ!」
デザイン科の講師がストップウォッチで15分で制限時間を測る。学生たちは一斉に右手の鉛筆を白紙に滑らせ、自分の左手を模写する。カナデは専門学校でゲームクリエイター科と一緒にとある学園の服飾デザイン科も並行して受講している。
静かな教室に鉛筆と紙の摩擦音だけが響く。
「はい!終わり!後ろから回収してください」
生徒たちは隣や後ろの子たちとアイコンタクトしたり雑談したり、その中でぽつんとカナデは独り黙々と講師から出された宿題の課題を進めている。

となりの学園には将来ヘアメイクや服飾デザイナーのプロフェッショナルを目指し、フランスのパリとコラボレーションした優秀作品はモデルにデザインした衣装を着用してもらい、メイク師も素早く人に化粧というアートを造形し、前衛的な音楽とともにモデルがステージをリズミカルに練り歩くというファッションショーが大阪梅田の百貨店などで実際開催されたりしている。
デザイン科もまた何をデザインするかで科がわかれ、服飾デザイン科に入るとパターンと呼ばれる服を作るための素材となる生地の型の寸法をデジタルで作ったり、実際にその型を生地や布に合わせ、裁断しミシンで裁縫していく。このようなパターナと呼ばれる専門職は今日本の中小企業では40代以上の女性が多く働いている。殆どは外注で、フィリピンや中国などの東南アジア諸国で低賃金で大量生産できる下請け工場を多く設立し、薄利多売のビジネスを世界規模的に展開し、経営の資本率を黒字にしているのがユニクロだ。現在はそのようなビジネスを展開する企業は、音楽や書籍と一緒で如何にして服を売るかが肝になっているため、若手の新入社員はデザイン性というものを発揮したくても上層部の幹部がデザインよりマーケティングに力を入れるあまり、才能が伸びない、育たないという裏背景がある。


創ったものが売れるには、ファッション雑誌やティーンズに人気のあるモデルやブロガーにバッグや衣装を持たせてSNSで拡散させて広告にするのが一番売れるとなっていたりで、芸術の理想と現実のギャップに悩むアートクリエイタ―、アーティストの数は多い。
カナデは自分が密かに管理人を務める巨大仮想ゲームSSSに出てくる人物の衣装であったり、舞台背景であったり、武器であったり、なんでもかんでも3次元的にもっと魅力的なものを創造したいと夜間制のデザイン科にも勉強しに来ている。昼の部の授業料は高額なため、昼の部ではお嬢様、お坊っちゃまが多く、昼の部と夜の部で入れ替わるときカナデは生活に不自由のないような顔して好きな服やアクセサリー、メイクで華やかな恰好で梅田のキラキラ繁華街に遊びにゆく女子たちからヒソヒソ陰口を言われ嘲笑の的にされ放題だ。
「ね、みてみて。あの子だよー。どこがかわいいんやろねっ。ブスやんかッ!変やんねー。オタクなんてきもーい」
カナデは両手をぎゅっと握りしめ、知らないふりを必死に装う。
気にしない気にしない
一生懸命おまじないの言葉を心の中で唱える。
集中集中ほっとけばいい
ほんとは胸がチクチク痛い。気を緩めたら目じりが赤くなりそうだ。
授業中や宿題での課題での優秀作品は廊下の壁に掲示され、講師が光るセンスなどを感じた作品には金賞、銀賞、銅賞が与えられる。
カナデはいつも金賞か銀賞を行ったり来たりしている。
廊下や教室で男子が
「あの子かわいいし凄いよな」
とでれでれカナデのことを言うと益々陰湿な女子たちの嫉妬の嵐の攻撃は凄まじい速さでエスカレートする。
「何あの女!むっかつく!死ねばいいのに!」
空気が凍る。誰も助けてくれない。
もう限界。堪えていた涙が一気に堰を切ってぼろぼろ溢れそうだ。
何も悪いことしてないのに、なんでそこまで酷いこと言われなきゃなんないの…
ほんと理不尽すぎる…
早く帰ってシマリスのココと遊びながらSSSで♭と会話したい。

「カナデちゃんッ」
涙目の顔をゆっくりあげると、目の前にニコニコしてるユウヤ先輩が立っていた。ユウヤ先輩はハンサムだがとても個性的な人で、ズボンから洒落たキーホルダーに就職先の任天堂のポケモンのピカチュウの可愛らしいマスコットをぶらさげていつも飄々と一人でいる。ユウヤ先輩は明るくて剽軽もので面白いので、どこの輪にでも溶け込める不思議な人である。
「今日暇?この後ご飯いかない?」
突然の誘いにカナデは混乱する。
「あ…ユウヤ先輩…こんにちは…あれ?HALじゃなくてなんでこちらにいらっしゃるんですか?」
ユウヤ先輩は少し間を置くとこういう。
「そんな気分だから」
つくづく面白い人だなぁとカナデは思うと次の瞬間左手を掴まれてグイッと引っ張られていた。
「!?え、え、え、ええええええ!?」
突然の誘導にカナデはびっくりしてどひゃぁあああと心臓が口から飛び出そうだ。
「先輩、、あ、あの!!?ちょ、ま、まって!!」
廊下を走り、強く手を引かれるままに、ユウヤ先輩の背中とぶらんぶらんと跳ねるピカチュウのマスコットを見ながらとりあえずついていくしかないと諦めの境地のカナデだ。後ろの方から、女子や男子のざわめき声が聴こえる。


ぎゃーーー!!なんでこんな目立つこと先輩するのよー、、!!!
だけど先輩はそんなカナデの気持ちもお構いなしに楽しそうに梅田の地下通路を走り、どこか目指してぐんぐんカナデを引っ張っていく。
地下街から階段を上りエスカレーターを上がり外に出て階段を登るとそこは大阪梅田の空中庭園だった。
カナデはぜーはーぜーはー息を切らしてよろっとなる。
よろけたカナデをユウヤ先輩はおっととと背中に腕を回して抱きかかえようとするので、またまたカナデはぎゃーーー!!とびっくりする。
先輩の行動はなかなかというよりかなり積極的でアグレッシブだ。
「ふぅ―――。いい汗かいたなー」
ユウヤ先輩はめちゃくちゃ爽やかな笑顔で空中庭園から見える学園と専門学校の建物を見ながら、ゆっくりカナデに視線を回す。
「カナデちゃんも運動したら少しはすっきりしたかい?」
へへっと照れたようなオレンジのように明るい顔で声をかけてくれる。
「…先輩」
ユウヤ先輩の優しさでカナデの涙腺は崩壊、決壊状態になる。カナデは両手を顔を覆い、先輩に泣き顔を見られないように後ろを向く。すると後ろから優しく抱き寄せられてカナデの頭の上にぽんと先輩は顎を乗せる。
ぎゃーーーー!!!!恥ずかしい…!!
何度目のびっくりだろうか。でも先ほどまで辛くて悲しくて張りつめていた神経が一気に緩んで、ぐすんぐすんヒックヒックと涙と鼻水が止まらなくてカナデは自分の身体に回された腕どころではない。
「よしよし」
カナデはもうユウヤ先輩にとったらピカチュウのような存在になっている。ユウヤ先輩の腕は見かけによらずなかなか逞しい。抱き締める腕がもう少し上に上がるとまだ成熟しきっていないカナデの二つの青い果物に触れそうだ。カナデの嗚咽がましになってくると、二人はベンチに腰掛ける。傍から見たら完全に一つのカップルの構図だが、空中庭園には幸か不幸か二人以外には誰もいない。ユウヤ先輩はカナデにティッシュを、はいこれ使ってと渡すと、カナデはありがとうございますと鼻をかむ。
少し間があってからカナデの顔をしっかり見据えて先輩は大きく深呼吸するとすごい真剣な顔で一字一句に魂を込めて言葉を発する。

「カナデちゃん、僕と、お付き合いしてもらえませんか」

突然の告白にまたしてもカナデはびっくりを超えて失神の勢いでひっくり返りそうだ。
「ん…え…えええ」
あわわわわわと狼狽えるカナデを優しくまっすぐに見つめる。
普通の女子ならハンサムな青年に窮地のところを助けてもらってのここのタイミングで告白なんぞされたら、はいと即答の成り行きだろう。しかし、カナデの脳裏に♭の存在がよぎる。
♭はまだ一度も出逢ったことがないが、自分の素の姿を取り繕うこともなく自由に会話できる存在だ。
こんなに直球すぎるストレートな告白に、しかも人生で初めての告白にどう返答したらよいのかカナデの頭の中は真っ白だ。
「僕、ずっとカナデちゃんのことが好きだったんだ。けど、春から任天堂に就職するから上京しなきゃいけない。だから、もうあと数か月でカナデちゃんと会えなくなると思うと今告白しなきゃ一生後悔するだろなって。僕の思いは真剣そのものなんだ。だから、お願いします!こんなのでよければ僕と付き合ってください!」
カナデの右肩にこつんと額をのせてお辞儀する先輩。
今まで先輩、後輩の関係で繋がっていたはずなのに、先輩は私のことをそういう風に思っていたなんて…
「せ、先輩は素敵な人だから私には勿体無いです!」
カナデは一生懸命本音を伝える。
「カナデちゃんはもっと素敵だよ。僕はカナデちゃんしかみえない」
えぇぇぇ…
こういうときはどうしたらいいのかさっぱりわからない。だけど混乱気味なカナデにとっては今すぐに返答できるような事態ではない。
「せ、先輩は上京したら、きっと東京で素敵な新生活が待ってます!だから」
「カナデちゃん、僕じゃだめ?」
カナデの言葉を遮る先輩。超本気である。こんな先輩の姿みたことない。
「え、えっと…あ、あの、え、ええと、う、うーーーーん」
「カナデちゃんもしかして好きな人いるの?」
その解答にハッとする。
♭はただの現実逃避の仲間だと思ってた。なのに今別の異性からこんなに突き詰められるとどこか影を帯びた♭の存在が過ぎる。これは恋なのか?ううん。違う。寂しさを埋め合わせるだけの…
一生懸命考えてるカナデの姿が愛くるしいのだろうか、ユウヤ先輩はじりじり顔を寄せていてた。唇が…ふれちゃ…

「きゃーーーーーーー!!!!!!!!」

カナデは目を見開き顔を真っ赤にして立ちあがる。
カナデが逃げないようにカナデの両手をまたぐっと強く握りしめるユウヤ先輩。ポケモンのように狙ったターゲットは絶対に手放さないぞいう強引さだ。
「…カナデちゃん」
先輩はポツリ呟くと立ち上がりまた顔を寄せて顎をカナデの頭に乗せる。
「突然のことだから、びっくりするのは当たり前か…へへっ。でも僕は本気なんだよね…。カナデちゃん逃げちゃいそうだから、違う話題の会話をしよう」

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