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第63話《アマデウスの章②》—素晴らしき講演『391』—

—私にとっての幸福、それは誰も支配しないこと、そして支配されないこと。
遠くをみよ、うしろを見るな、人はいつも理屈を知りたいのに、理屈に合わないことを言う。
羨望は、フランス人の幸福を一番妨げているもののように、私には思われる。
(フランシス・ピカビア『391』より)

アマデウスとポセイドンが『例の祠』へのGATEを開けたことにより、地球上の全ての法則や秩序、ルール、全ての統制がガラガラと崩れていく。この世の深淵に触れる恐怖と本能からの逃走そしてfight and awayの声たちがダイナミックに経度緯度で想像される領域を突き破り、生き物たちは混乱の中ひとつの群れをを成して集団化し、そして『向かう』。

洞窟の中は熱帯地域にもかかわらず、ひんやりしておりしかし湿度は高く石壁はぽたりぽたり汗をかいている。一筋の支流の中には光る鉱石が沢山空中という虚無に鋭利に突き刺し威嚇して内に入ろうとする存在を全て遮断し拒絶している。

「この世の生き物の叫び声が咆哮しておる。ふむ。では『391』の講演をなぞろうか。」
アマデウスは右手に透明のガラスの容器をそして左手には金の竪琴を魔術で出す。ガラスの容器には小さな美しい人魚が眠っていた。

ポセイドンはずっと無言であるが、たちどまり岩場にもたれかかり、アマデウスの琴の旋律と人魚の歌声の演奏に傾聴するようにじっと巨体を岩に預け、ゆっくり目を瞑る。

人魚はすぅっと覚醒すると、ガラスの容器の中でゆらゆら泳ぎながら、妖艶な唇を開き始め美しくも可愛らしいソプラノの声で海の音を唄いはじめ、アマデウスは金の竪琴の弦にするりと指を滑らかに移動させると、ごおっと竪琴からは炎が噴出する。

“Sa delicieuse causerie aux independents ayant ete interompue par un cas de force majeure, le brilllant conferencier se propose de la terminer a Sing-Sing le redezvous estival du -------- quis'amuse ”

クラヴァンという人魚は高らかにこの節のループだけで、荘厳な歌という講演を旋律とともに洞窟というホールに響き渡せる。

《どのページも、奥深く重厚なまじめさ、渦、眩暈、新しさ、永遠なるものや、途方もない悪ふざけや、行動原理への熱狂や、印刷術によって爆発しなければならない》

「人というものは真正面から見よという扇動に簡単に騙せられ、その椀を垂直に切って中から洞察することということを忘れすぐに集(たか)る」
アマデウスの旋律と人魚のクラヴァンの美麗な歌声をききながらポセイドンは呟く。

クラヴァンの人魚の旋律とともに、ひゅんひゅんひゅんひゅんとあちらこちらから体の一部を無残に切断された可哀そうな人形たちが人形島から集まってくる。
「ネクロファンタジアでの禍禍しきもの。それは人間の愚かな欲が源である。人間という生き物を排除するしかロキとの対抗はできぬと考えるが」

アマデウスは寄り集まる人形たちにいう。人形たちはざわめき合う。そして一人の処女の少女が前に出てアマデウスに言う。

「アマ【海人】デウス様。確かにわたくしどもは人間という愚かなものに壊され木に吊るされたり、非道な仕打ちをされました。しかし、わたくしは人間のなかにもその穢れのないものがいるのに助けてもらいました。だから今人形の島から解放され、彼女が創造したエデンの園で楽しく生きることができております。ノアの方舟を創造した彼女は聖母マリアの血をひくものであり、わたくしにとってはアマデウス様のような神のような存在です。どうか、どうか、全員を抹消されるというご行為おやめください‼」

人魚のクラヴァンの歌声と金の竪琴の旋律がピタリと止まる。アマデウスはうっすら目を開けてその処女の人形の懇願をきく。

「…ほう…あなたは今ノアの方舟の創設者の元に居ると」

「ええ、そうです。ぼろぼろに壊されたわたくしを一人の女性が救ってくださったのです。その方は今悪のものものと闘いにあらゆる戦略とその優しさと穢れなき心でネクロファンタジアを爆破しようとしております。どうか、人間という存在を全て一色体にしてこの世から消してしまうのはどうかどうかおやめください」
処女の人形は懇願する。命の恩人である人間…ハルは生物も言語何もかも超えて平和に暮らせるそのような世界を創っていた。独り、懸命に。

アマデウスはポセイドンに向かって言う。

「ツキ【蝶TEU】の後身のようだな。まぁ、わたしもその女には興味がある。だから、この人形の嘆願を聞き入れるか。」

「まぁ…もうわたくしも怒りが頂点に達しましたら、海の神ですし、モーゼの十戒のように海に『道』を開けましょう…」

処女の人形はほっとした安堵した顔で「有難う御座います!!」と涙をうるわせながら、深々と神々に礼をする。

それからアマデウスは「ユグラドシス」と唱えると妖精の泉がぶくぶくと湧きだし、中から三つの斧をもった水女が現れる。

水女は人形たちに問う。
「あなたの落とした斧は金の斧ですか、銀の斧ですか、銅の斧ですか」

人形たちは声をそろえて答える。
「どれでもございません。わたくしたちは皆協力しあって工具を貸し、大地を耕し、草花の営みを育み、そしてこの地球と共生していきます」

水女は「よろしい。この中には嘘つきというペテン師、詐欺師はおらぬ。お礼にこの3つの斧を全て差し上げましょう」と人形たちに金、銀、銅の斧の『三種の神器』(三つの光矢)を残してざぶんとまた泉の中に消えてしまった。

人形たちはまぁなんて素敵なの…!これでまた主人さまに美味しい野菜をもっていけるわ!と嬉しそうに語り合う。
その様子を見ていたアマデウスとポセイドンはひとまず第一の人類抹消計画は見送ることにした。


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