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親切で、鳩の恋路の邪魔をする

朝の道路沿いのアーケードには馴染みの景色があって、以前別のところで書いたのだけど、薬局の前では丁寧に開店前の掃除をしている女性がいる。

朝、屋根のある歩道を歩いていると、大抵その時間、薬局の前では店の女性がサトウのサトちゃんを磨いている。店頭に置かれたあのオレンジ色の象のマスコット人形だ。雨風にもさらされず、毎日拭いてもらってサトちゃんはいつもピカピカだ。でも、右手に絆創膏代わりのガムテープを貼られている。可愛い顔をして、誰かと遣り合ったのかもしれない。

昔はこういうマスコットをもっと見かけた。ペコちゃんやケロちゃん、ぴょんちゃん…。子供の頃は、目の高さにあったからだろう。いちいち手で触れていたような気もする。

目線の高さが変わると見えるものも変わる……んだろうか。

拙ブログcocode noteより

先日、その道を歩いていたら、前方から誰かをきつく叱るような声が聞こえてきた。

まだどの店も準備中で、聞こえているのは道路を走る車の音くらいの中、その声はとても目立った。子供を叱っているにしても声が大きい。パン! と手を叩くような破裂音もして緊張感が漂う。

さらに歩いて行くと、「サトウのサトちゃんのおばさん」が、鳩を追っている様子が見えてきた。3羽の鳩が薬局の前を歩き回っていて、それを、おばさんが手を叩いて道路の方に追い払っているのだ。「なーんだ」と思うと同時に、「なんで?」となった。おばさん、あまりにも執拗だ。

薬局の隣は居酒屋で、店はまだきっちりと閉まっていたけれど、薬局との間に米粒のようなものが置かれていた。

鳩はそれを食べに来たのかな、おばさんはそれが気に入らないのかな、もしかして餌を置いているお隣と確執でもあるのかな…? などと思っていたら、おばさんの言葉が聞き取れた。

「どーうして仲良くできないの?! こら!! 追いかけないの!!
 どうしてそうやって追いかけるの?!(そしてパンパン!と手を叩く)
 やめなさいっ!! こら!!
 もっと仲良くしなさい!!(パンパンパン!!)」

いやいやいやいや、奥さま、これは見るからにオスがメスを追っているという図。まさに今、仲良ーくしようとしているところではないかしら。
恋の季節ですもの、どうにも仕様がありませわ、ほほほ。

とも言えず、あらあらと思いながら通り過ぎたんだけど……

どうしてあんなに大きな声で鳩を追い払っていたのかなーと考えると、なんとなーく「鳩の諍いも見逃せない優しいあたくしアピール」にも思えてしまって、でも、そうすると毎朝サトウのサトちゃんを磨くのもそういうアピールに見えてきてしまうから、

あの人はとにかく優しくて、ちょっとお節介な人なんだ。
…と、思う。