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【グリーフケア】お守りパスモを落として、取り戻した話

亡くなった夫の持ち物を整理していたら、パスモがあった。まだ数千円分が残っている。毎日の通勤で、そして通院でも使ったパスモだ。

すぐに手放す気にもなれず、息子に持たせた。

息子はフリースクール通いで、毎日弁当持参だが、たまに私が弁当を作れない日は「買い弁」になる。ところがうっかり私が弁当代を置いてくるのを忘れる日がある。
行動範囲が広がっているから帰りの交通費が不足することもある。
そんな緊急時だけ使うためだ。

息子には”もしものときのお守り代わりだから。ジュースを買ったりして無駄遣いしないこと”と言って渡した。息子は「そんな(お父さんの遺品のパスモなんて)ものは使えないよ」と躊躇していたのだが、そこはケチな私が無理やり持たせていたのだった。

パスモは息子の財布に収められたまま、数か月間は使う場面がなかった。

ところが先日、フリースクールの行事でお出かけした時のこと。自分のパスモを忘れてきた息子は、夫のパスモで入構した。
さらに電車で移動中、改札を出る前に、パスモが入った財布を落としてしまったのだ。

改札を出られず、駅の遺失物係に申し出た際、財布の中に父親のパスモが入っていることを説明したところ、

「たとえ家族でも、他人名義の定期券を使用するのは犯罪だ」

「本来は返納すべきものである」

ときつく叱られたらしい。

駅員さんの説明はごもっともだ。

使う目的でなく、「お守り」だったのだけど。
そしてそれを子どもが勝手に持つわけはなくて、大人(私)が持たせたのだけど。
そんなに子どもにきつく言わなくても。

それは私の心の中の言い訳で。

せっかくお守り代わりに持たせたパスモのために、子どもに嫌な思いをさせてしまった。

駅で叱られたせいか、息子は私に対して八つ当たりしてきた。しかしそもそも自分のパスモを忘れて、さらに財布を落とした本人が悪い。しかも財布を失くすのは何回目なのか。そのたびにあちこちを探す羽目になる。

今回のように、フリースクールで出かけた先で財布を落とし、夫と息子が取りに行ったこともあったっけ。

幸い、財布はその日のうちに拾得され、鉄道会社の拾得物係から息子に連絡があった。

ところがパスモを受け取るためには、パスモの名義人本人が取りに来なければならないと言われてしまった。

うーん、パスモの名義人は、天国にいるんですけど。

はて、どうしたものか。

これは亡くなった事実と、名義人と息子の関係を説明せねばならない。

もしかしたら、チャージされた金額だけ返金されて、パスモ本体は回収されてしまうかな。

亡くなって9か月もたつと、夫の持ち物への執着が幾分うすれてきたので、「それも仕方なし」と思えた。できるだけ取り戻す努力をして、だめならそれまで。

翌日の仕事帰り、息子と待ち合わせをして駅の遺失物係窓口へ出向いた。
夫との関係の説明のため、相続手続き用に作成した「相続情報一覧図」と、死亡の事実が書かれた戸籍謄本を持参していた。あまり見たくない書類だけれど、この書類の威力もわかっている。

窓口で、私の身分証と、「相続情報一覧図」を見せて説明した。
奥の部屋から持ち出された息子の財布の中には、夫のパスモと夫の名刺。

名刺も財布に入れていたんだ。
そういえば、遺品を整理した時に息子にせがまれて名刺を1枚あげたのだっけ。

財布に入っていた現金も全額無事戻り、係員さんに「パスモは本人以外は使ってはいけませんからね」と優しく言われ、二人揃って頭を下げて帰ってきた。

翌日、仕事をしていたら、私のところに職場の郵便係の方が、ハガキを携えてきた。
送り主は駅の遺失物センター。
宛名は「○○長 ○○様」と、かつての夫の役職名。

私と夫は職場結婚である。

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私たちが財布を取りに行く前に、財布に入っていた名刺を見つけた遺失物センターの方が、名刺にあった夫宛にハガキを出してくれたのだ。
それを受け取った職場の郵便係の方が、私のところへ持ってきてくれたわけである。

鉄道会社の遺失物係が、そんなことまでしてくれるのですね。
お手間をかけて、申し訳ない。

改めてハガキを見返してみる。

宛名に書かれたみる夫の役職名は、かつて確かにその肩書で生き生きと働いていた姿を思い起こさせた。

そして、夫の名刺が息子を見守ってくれていたようで、ありがたかった。

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