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交代しても同じこと

<監督補佐>

ノコギリやチェーンソーが切り倒そうとしている樹木の切り口に挟まってしまうことは度々あった。木の上の方に結わえてあるロープを遠くから引っ張って、隙間を大きくすれば挟まったノコギリは抜けるのだが、ノコギリが深く食い込んでいる場合は正に抜き差しならないことになる。

懸命に引っ張っても中々抜けない場合、監督は「抜けんやないか!引っ張ってんのかぁー」と叫ぶ。イラチの監督は、監督補佐のロープを引く力が弱くて樹木が傾かないと思うらしく、「代わるワッ」と鼻息荒く、ロープを引っ張る側になり、監督補佐は挟まったノコギリを抜く側に回る。

その後、聞こえて来るのは大抵、監督の「抜いてんのかぁー」という怒鳴り声である。誰が引っ張っても、誰が抜こうとしても、挟まったノコギリは中々抜けないのであるが、監督はそうは思わないらしい。

<現場監督>

樹木の上部にロープを結わえ付けて、そのロープを40mくらい遠くに引っ張っているので、そのロープを力一杯引っ張ると大抵の樹木は大きく揺れる。ところがノコギリを入れている途中で反対側に倒れ初めて、ノコギリをはさんでしまった場合には、このロープによる引っ張り力がほとんど効果を表さない。

今から考えるに、切られつつある樹木にすれば、もう勝手にしてくれと捨てバチの気分になっているのだろうから、引っ張っている方向に体を曲げて協力してやろうという気などサラサラ無いのだ。そこで気付いたのだが、伐採されるとは思っていない時の樹木は、あんたがそんなに引っ張るのならそっちに傾いてやろうかと優しく考えるのではなかろうか。植物のほとんどがそんなふうな優しさを持っているような気がしてならない。

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