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第6章 間伐材による倉庫建築を決心する

櫻淵の由来

<現場監督>

瓢箪にはくびれがあるが、我々の山林地も南側から見ると、1000坪、500坪の2つの平地と、それを取り巻く細長い傾斜地で構成されているので、北側から見ると500坪と1000坪の2つの丸みを持った瓢箪を縦に切って南北に横たえたような形状になっている。その真ん中の1000坪の所にいずれはオフィス兼住居を新築したいと思っている。その資金がないので、資金が出来るまでの間は間伐材で瓢箪のくびれ部分に倉庫を建築することにした。

くびれ部分は眼下間近に川が迫っていて、そこが櫻淵と呼ばれていること、そこから北側の山腹を見ればツツジやサツキ、桜やモミジがよく見えること、南側の下流方向を見れば最初に購入しようと見当を付けた2000坪のこんもりとした森と、その遠方に2つの標高600m級の小高い山が見えて、眺望がとても良かったからである。

眼下の櫻淵は大水によって変化し、浅くなったり淵になったり、姿を簡単に変えてしまう。この淵の上には山桜の老木が覆い被さるように繁っていて、それが櫻淵という名の由来だったのだが、大水の度に根を洗われて枯れて行きつつある。その上の狭い水平地に土台を作り始めた為、何を建築するのか知らない村人は「都会の奴らの考えることは違う。あんな所に建築するらしい。立って見ると確かに見晴らしがいい」と噂している、と大台町の元法務局長が話してくれた。居住用のログハウスを建築するらしい、と既に噂が流れていたのである。

村には区長という役職がある。持ち回りの役職らしいのだが、法に基づくものではなく慣習に従っておかれている世話役のごときものらしい。ある日、その区長がやって来て、いきなり「ここに何建てるんや」と極めて横柄な態度で詰問した。「書庫と倉庫にしようと考えています」と正直に答えたのだが「書庫」の意味がわからなかったらしい。「何やて!!何やて!!ショコ??それ何や」と大声で詰問を続けた。「あの~、本とか書類を入れる倉庫です」と説明しても「ホン!?それ何や?!」と叫ぶ。「本!!ブックです」と言ってもキョトンとしている。「要するに本を保管する倉庫です」といろいろ説明すると、やっと理解出来たらしく「何でそんなもん建てるんや」と言う。「あの~、大阪のオフィスが書類と本で一杯になって来たので古い書類は段ボール箱に詰めてここでしばらく保管しておきたいと思うので」と説明したのだが、中々納得がゆかないらしく、何かブツブツ言いながら行ったり来たりしていた。田舎にはこうしたややこしいトラブルがたまに発生する。

後で村の人が教えてくれたのだが、この区長はあの曲者の仲介業者の義兄で、仲介業者から「あの2人を何とか村から、いびり出してくれ」と頼まれていたというのだ。「そうはいかない。日本国民は日本のどこにでも住めることになっている。理不尽な喧嘩を売るつもりなら買ってもいいぞ」と一時はかなり腹を立てたのだが、そのうちに区長もおとなしくなった。田舎に住んでいる人の中には了見がとても狭い人もたまに居る、ということだ。


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