BFC4落選展感想 6 - 10

はじめに

 くりかえしとなります。
「#BFC4落選展」のタグがつけられた作品にのみ感想をつけていきます。それ以外の作品はどのような存在であれ無視します。読まれたいと願うブンゲイファイターの心にのみ正対していきたいからです。
 本稿はその性質上、ふんだんにネタバレを含みます。ですので、まずは落選展作品の内容をよく読んでから目を通していただけるとうれしいです。それが作者の方々のためにもなると思いますので。




文月伶架「ワクチンのすすめ」

 一言で説明してしまうと、ワクチンの副反応で気をうしなっている間に神秘体験をするという話。マジでそれだけのために死後の世界について書き込んでいるので、ちょっとしたショートショートみたいになっているわけだ。題名を見ずに読んでオチを見るときれいにずっこけることができる。
 ただ、題名にある通りこれはワクチンのお話なので、全部予定調和で終わってしまう。それだけかい! と思わずツッコミを入れた。ユーモアがあってにっこりな作品。何気に現実と幻想の間を繋げようとしている部分があるので、一周目の時点で気づかなくても二周目の時点では気づけるという親切設計でもある。
 この作品の潔さは上記のアイディア一本で殴ってそのまま去っていくという点にある。非常に爽やかな読後感。ときどきツッコミを入れたくなるような描写も出てくるけれど、全体として読みやすく平明な文章で書かれているので好感を持って接することができる。ばかばかしい話にはみえるけど、構成のされかたがいいと気分がよくなります。

夏川 大空「ロマンゲームブック もう赤い実からは果汁は流れなくても」

 ゲームブックにわかりやすい比喩を足した作品。という読み方をしても楽しいのだが、この作品がすごいなと思ったのは分岐を作ったあとの文章の部分。これがかなりサウンドノベルに寄せて作られている。それも「かまいたちの夜」(2も)くらいの香りがしてくるから、いい仕事をしている。また比喩的に読まない場合は果実が非常に不気味な存在として現実を侵食してくる。ホラーノベルとして読めるわけだ。そうした多面性があるのは構成としてもおもしろい。むしろ、そっちに逃げられるというのがこの作品の持つ遊びの強さなのかもしれない。
 他方、ゲームブックのように何度も周回して読もうと思うには文章の雑さが目につく。周回すればするほど表記ブレを目にする回数が増えるのだから、そういう初歩的なバグ潰しが甘いのはゲームとしてマイナスだ。これがIPものだったらと思うと怖気が走るな……。
 また、一周目から不気味な印象だったので二周目は慣れてしまって普通の小説になってしまった。だからこの作品はサウンドノベル的に全エンドを回収して満足するに留めておくのが正解だったかもしれないな、と二周して思った。でもやっぱ何度読んでもエンド部分の再現度めっちゃ高いぜ。

吉田棒一「ぴっころさん」

 ワロタ。明らかに間違ってるスタートから、絶対に外さない展開が続く。そして指が離れた瞬間から読者がお求めしている展開が始まってしまう。その言葉遣いで笑っちゃった。あらゆるものがどこかで見たことのあるもので構成されているのに、最後のオチまでしっかり笑わせてくれるから実に腹の立つ作品だった。この作品は一度火が点いちゃうと二度目も笑えるから、二度読むのは身体に悪いね。
 この作品は二度読もうが揺るがない文章力で構成されているから、疲れたときに戻って読むのもありだと思った。あの表現を際立たせるためにあえて月並みな文章を並べ続けるというのは技術。同じようなアイディアを使うときは参考にさせていただきます。

サクラクロニクル「ガードレールとおともだち」

 こういう独りよがりの作品を書くのはやめましょう。大負けに負けて5/100点。

はんぺんた「魔法の言葉を紡げたら」

 不思議な読み味の作品。語り口もあるが、構成自体もどこかふわふわしていてやわらかい印象を受ける。言葉が魔法なのだという結論になるのかと思ったが、実は語り手も語られる側も本当に魔法使いという筋立てになっていたのは意外だった。そしてそれをオチとして使うのではなく、さらにその先にある心の支えに向けさせるために使っている。つまり見上げてごらん、って感じだな。
 と、このようなフレーズがすっと出てくるように、視点はやさしいが着想の面ではかなり古めかしいところもある。だから評価しようとすると「いいひとなんだけど……」という形で消極的にマイナスを示す形になるな。
 語りがやや過剰な面もあり、物語の展開が非常にゆっくりとしているのも欠点のひとつだ。掌編だから余計にな……。語りたいことを伝えるのに言葉を尽くしてしまったがために発生した瑕疵というものだろう。

※余計なお世話だけど、2000字前後の範疇でファイトするのに慣れてないだけではという気がする。他のブンゲイファイターに対して不公平ですけど、10000字の勝負でレベルの違いをみせられたことをいまだに覚えてるんでそんなことを書いてます。あの縦読みにはやられたぜ。


 本稿は以上です。
 お読みいただきましてありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?