BFC4落選展感想 51 - 55

はじめに

 ここからテンプレ。
「#BFC4落選展」のタグがつけられた作品にのみ感想をつけていきます。それ以外の作品はどのような存在であれ無視します。読まれたいと願うブンゲイファイターの心にのみ正対していきたいからです。
 本稿はその性質上、ふんだんにネタバレを含みます。ですので、まずは落選展作品の内容をよく読んでから目を通していただけるとうれしいです。それが作者の方々のためにもなると思いますので。




大恵和実「船を抉る」

 おもしろい読み物だった。確かに「船を抉る」なんて表現があったら気になっちゃうかも。あと宇宙大将軍ってワードがいいよな。そしてこいつ、その方面でめっちゃネタにされてて草。
 このエッセイ自体も(いろいろな文献についての記述を紹介しまくってるし丁寧に書いてあるから退屈な部分もあったことは告白するけど)どの情報をお出しすればいいかわかってるから、飽きそうなタイミングで「こういうおもしろ情報があるんですよ」って適宜気を使ってくれるから最後まで読むことができた。タイムマシン云々は、個人的には余計なデザートだった。
 宇宙★大将軍マジウケる。あとで情報眺めよう。

伊島糸雨「ただ独り夜を歩め(アルレルケ・カヌニアレ)」

 なんとここまで一作も被っていないジャンル、純粋ファンタジー小説がご登場。私の中では「幻想小説」と「ファンタジー小説」は別ジャンル扱いなので、これはうれしいね。ビジョンがかき立てられるし、個々の単語からは眩さを感じる。光の文芸だ。
 ただ、物語自体は長いあらすじを読んでいるようで没入できなかった。漢字が多すぎて読解負荷が死ぬほど高いのはただの序ノ口で、大量のルビと初出の専門用語で頭を最速でぶっ壊しにくる。割と早い段階で「これはだめかもしれん」と諦めかけていたほどだ。文章を丁寧にかつ綺麗にという意識のうえで圧縮しているため、単純な視覚的圧以上に流し込まれる情報量自体が多い。だから脳の処理能力が追い付いてればもっと楽しめたはず。あくまでも理論上はね。リアルの方は理想通りにできなかった。悔しい。
 また、ただただ美しいばかりの情景が描かれていくので(たとえそこに闇があったとしても)常に同じような印象の状況が続く。カメラもなにかに固執してぐっとズームしてくれるわけではないので、こちらの想像力を試してくる場面ばかりだ。
 かっこいいあらすじとかっこいい台詞、そしてかっこいいラスト。ファンタジーに必要なものは揃っている。なのに要素と要素が分断されていて、水が足りないと苦しみながら読了した。
 なんでこんなにネガティブな部分ばかり浮き彫りになるんだろう。その理由を考えてみたところ、簡単な答えを見つけた。この作品は魅力的な要素を大量に取り揃えて紹介している予告(あるいは一時期流行ったファスト映画)的な動きをしており、だから「本編を見たい」と思わせてしまうのだ。これだったら「魅力がある」のに「ネガティブな印象」なのかに対して説明がつく。
 ファンタジー的な要素を並べるところがうまく出来すぎてありもしない(あるいは、本当はあった)ものを読者が勝手に求めてしまう。こういうわけのわからん現象が発生するからファンタジーを読むのがおもしろい。

 余談。久しぶりにファンタジーを軽く読みたくなったので、近く「不死鳥の剣」を読み直そうと思う。あのアンソロジーはファンタジーの歴史を順々に追っていけるのが素敵だ。この作品から逆走することで改めてジャンル自体に酔えるだろう。だからありがとうね。

淡中☆圏「水底より現れるもの」

 どっかで見たようなSF小説。謎現象に対して人間の意識が影響していると語り、その行く先をやがて宇宙にまで波及させていく。人間の意識そのものが未踏の地を作り出していくのだ、という人間主義的な思想の強い作品。そういうところがスぺキュレイティヴかもしれんね。
 文章にところどころ引っかかるところがあって、それが速攻で書いたがゆえのミスなのか意図的なものなのかよくわからない。最後まで読んでから改めて思いかえすと意味がわかるが、そこに至るまではただただ読みづらい小説だなという感想を抱いていた。
 最後の一文がなー。〆るのを投げ飛ばしたような印象で、読み終えたときの気分はあまりよくなかった。純粋に相性が悪かったのかもしれんな。

kammultica「無敵」

 レムか? 違う。破滅系恋愛小説。私こういうの好きよ。
 文章……まあこの作品も文章に気になるところがいくつもあったけど、話が途中で性愛と暴力に傾いた瞬間から「いけーっ!」と思わせるところがあった。悪いことしてるのを見るのが好きなのかもな。
 この作品は真ん中のあたりが好きで、その周辺にあるのはあんまり……というくらい極端に作品内の印象が変わっていった。最初の道徳関連のお話はいまさらフーンという感じに読めたし、彼が実は不死というくだりは「なんぞそれ」というくらいの肩透かしを受けた。彼が死んでいく(と思ってた)さまは小説的な飛躍として受け入れようと思っていたのに、そこに余計な設定が添加されたせいで取ってつけたような整合性が付与されてしまった。だから読み終えたときの私は「えー」って顔をしていたと思う。

域外故事「ブラックホール」

 SF大渋滞だな。そしてこの読み味、どこかで……。そう、私はかつて世界を滅ぼしまくったコンテストで感想を書いていた。どこかで読んだことがある雰囲気を検知。アンタだったか。(どんな距離感よ)
 こういう作風なのな。SFというのは従で、主は人間の意識のありようだ。それがSFなんじゃないの? チッ、うっせーな!
 文体というか言葉遣いが難しい。いろんなものをぐっちゃり混ぜて作り上げるっていうのは誰かがやってた気がするな。まあ日本なんて他の国の言語そのまんま横文字でGET REWARDSしていくような文体だからそれを複数言語混ぜてやり遂げたとしてもなんら不思議ではないな。その分だけ読むのが難しくなっていくけどね。
 この作品はラストがいいよ。ここまでに散りばめられたあらゆるぐちゃぐちゃのすべてを吸い込んでいくんだ! という強い答えを打ち出して作品を〆ている。読む人によっては打ち切りエンドにも見えるかもしれないが、この作品は長くなれば長くなるほどひたすら難しくなっていくだろうから、これできっちり叩き切って終わらせる方がすっきりする。

※でも註があるから実はそんなにがっつり締まってないかもしれない……。


 本稿は以上です。
 お読みいただきましてありがとうございました。


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