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私の夏になってください



梅雨の水無月なんて過ぎ去って早く夏になればいいのに。


夏が好き。


夏って、幻みたいだ。
毎年必ず夏を生きているはずなのに夏が終わってしまうとその日々が夢だったみたいに思える。風に押されて身体を覆う花火の煙の匂いも、履きなれない下駄から鳴るカランコロンという音も、汗で肌にひっつくシャツの感触も、夏を終えてしまうとはっきりと思い出せない。蜃気楼に攫われて消えていく記憶の欠片をどうにか守ろうとするけれど、暑さが秋に溶けていくのと一緒に記憶もどこか遠くへ溶けていく。記憶が溶けて残るのは、切なさの欠片。まるで幻みたいに、心の隅っこにひっそりとそいつは居て、夏を思い出そうとする度にぼんやりと切なさを感じさせる。

夏って、儚い。
これって多分「線香花火」とか「ひと夏の恋」とかにひっぱられているんだと思うけれど。それでも夏は儚い。夏の思い出はとびきりきらきらと輝いて見えるのは、きっとそのせい。線香花火の先から落っこちてしまった光を今も掬うことができないまま、夢のように儚い夏は終わる。浴衣の袖から伸びるあの子の手を握ることのできないまま、夏っていうのは終わっていく。

夏って、強烈。
その短さが、夏をどこまでも鮮明に心に映し続ける。ぼんやりしている癖に鮮明だなんて、矛盾しているけど私にとって夏はそういうヤツなのだ。例えるならそう、打ち上げ花火みたいな感じ。打ち上がったときの空に抜けるような空気音、花がひらく瞬間の破裂音、光が降ってくるときの切ない音。あの一瞬が、あの音が、光が、強烈に胸に刻まれるあの感覚。花火に照らされて光るあのコの横顔とか。そんな感覚。



私の夏を彩る登場人物たちはいつも
キラキラでドキドキでシャララーンって感じ。

何が言いたいかっていうと、忘れられないやってこと。
夏のマジック。サマーマジック。

夏の生ぬるい夜風は私の頭の中に心地よいけだるさを運んできてそのまま気が向くまで佇んでる。

蝉も花火も夏休みも
夏ってどうして儚いんだろう。
キミとワタシの夏だけは
永遠にけだるい暑さの中で揺蕩っていられたらいいのにね。


ねえ、キミ。私の夏になってください。



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