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見えないせかい


 今回はmonogatary様にて、「見えないせかい」というお話を執筆致しました。


お恥ずかしながらこの話、実体験をベースにしています。しかも、私が女性側。


 ある仕事帰りの日、交差点で明後日の方向へ行く白杖のご老人がいました。
 彼のことは、実はよく見かけていました。家が近くだったのです。

 いつもはその裏の道を通っていて、割と慣れた様子でスタスタ歩いていらっしゃるので、彼が明後日の方向へ行ってしまうことに最初は戸惑いましたが
 とりあえずこのままではいけないと思い、歩道まで誘導しました。

 そして放置するのも間が悪いので、このままご老人の目的地まで案内することにしました。

 違うのは、ご老人の行き先が駅だったこと。

 その駅前で、ご老人に
「この鳥の声はなんですか?」
と聞かれたのです。私は
「この鳥の声はムクドリですよ」
と答えたのです。そしたらそのご老人、ため息を漏らすように
「ムクドリか……」
と呟いたのです。感嘆するようでもあったので、今まで気になっていたんだろうなあと思いました。

 駅についてみたら、彼を見るなり駅員さんが
「あら、○○さん!今日も✕✕線?今準備しますね」
と仰るので、あ、日常的に駅を使ってるんだな。駅員さんにとってはこの盲目のご老人を案内することは日常なんだな。じゃあ、あとは駅員さんに任せた方がいいなと思ったので、「じゃあ、私は失礼しますね」と言ってこのエピソードは終わりました。

 まあ、なんというか……こんなことあまり経験なく、私には印象深かったのでこれをベースに物語にした、ということです。

 正直、私も「白杖の方を駅まで誘導した」なんて話を聞いたらその方を称賛したくなります。ですので、恐らく私のことを「いい人」と思った方もいるでしょう。

 ただ、私は完全には褒められたものではありません。正直単純に障害を持ってる方の支援の仕方がわからなかったこと、他人と関わること、今駅から家に向かっていたところだったこと、たくさんの荷物を持っていたことなどの要因があって面倒くさいなと思ったし、だからこそこんな経験が少ないのだし、他の誰かが助けるだろう、むしろ他の人が助けてあげてとも思いました。
でも、様子を見てたら誰も助けないので「仕方なく」彼の肩を叩きました。正直こんな心持ちで人助けしていいのかとセルフツッコミでした。


 そういえば、
「今どこに向かっていますか?」
と聞かれたので、
「駅に向かっていますよ。△△銀行側の歩道を歩いています」
みたいな会話もしましたね。確か「□□スーパーはどっち?」みたいなことを聞かれて、固有名詞も出てきたしある程度こちら側の表の道も通ったことがあると読み取れたので、「△△銀行側の歩道」でも通じるかなと思ったような気がします。
それで自分の位置を把握したのか、「そこにいるのか。全然わからん」みたいなことも言っていたのが「ムクドリか……」の次に印象的な言葉ですかね。
 全然わからんというのは、恐らくその時の脈絡的に「何度通っても覚えられない」とか、「さっきので方向がわからなくなっていたので、そこにいることが全然わからなかった」という意味だと思います。


 もうそれから数年が経っていますが……。まあ、それ以来見かけても話さないし会話する必要もないので、見かけたら「あの時の人だ」くらいに思ってますね。白杖なので、ご老人の方はすれ違っても私だと気づかないでしょうね。


 少々美化しすぎですね。勝手に障害者側の気持ちを想像して著し、傲慢とも取れる作品ですが、どちらかというと「ご老人の様子を参考にした」と考えて頂けると嬉しいです。

 この作品に目を通してくださった方々、monogatary.com様及びモノコン2021関係者の皆様、小関裕太様、ありがとうございました。

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