12.ストーカーの予兆
その人に最初に声をかけられたのは学校帰りに勉強する為に行っていた図書館でした。
「ごめん、良かったらここ教えてくれない?」
いきなり声を掛けられて顔をあげると参考書を持ったその人がいました。
手にした参考書と私服姿に、これが例のナンパ男かと最近耳にする噂を思い出しました。
その頃、図書館で私の通っている高校の制服の女子高生ばかりに声を掛けてくる若い男がいると校内で話題になっていました。
「ごめんなさい、電車の時間があって今急いで帰るとこなんです。別な人に聞いてください」
私はそう言うと大急ぎで、広げていた教科書やノートを片付けて席を立ちました。その間もその人は私の近くを去る気配がなく、図書館を出るまでその人の視線に追われている感じが強くありましたが、図書館から大通りに出ると視線の気配は消えたので、ホッとして駅に向かいました。
その事があってから私は図書館はしばらく行かず、電車の時間まで友達と学校で勉強してから帰ることにしました。あの日から何事もなく何週間か過ぎて私はその人のことも忘れかけていたある日
「すみません」
帰りの駅の改札口付近で声を掛けられ振り向くとあの人がいました。そして手に持ったペンケースのようなものを差し出してきて
「これ、君のでしょ?この前落ちてたから図書館で会ったら渡そうと思って待ってたんだけど、なかなか来ないから。もう図書館には来ないの?」
みたいなことを言いながらぐいっと私の方に身を寄せ、手にしたものを私の手に握らせようとしてきました。
「私のじゃありません」
突然のことに心臓が全力疾走したかのように早くなり、身体が少し震えるのが自分でも分かりながらやっとそれだけ言うと私は足早に改札をくぐり、ホームにあがりましたが、電車がくる前にその人が追いかけてきたらと思うと
足が震えて立っていられず、ベンチに座り込み発車ギリギリまで待って追って来ないのを確認してから電車に乗り帰りました。
翌日から、その人は帰りの駅に必ずいるようになりました。
電車の時間を変えてもいることから、多分その人は下校時刻から私が現れるまで駅にいるのだと推測できました。
そして電車通学の友達に事情を話して一緒に帰ってもらうようにしました。
友達が一緒に帰れない時は、なるべく通りかかった男子高校生の近くに寄ってあたかも連れを装って改札を通りぬけました。
人と一緒にいるとその人は寄ってこないと分かり、とにかく駅には一人で行かないように気を付けて下校していると、姿が見えない日が続くようになりました。
これは、やっと諦めたのかもしれない
最初は警戒していた私も、姿が見えない日は何週間も続いたことでそう思うようになり、警戒を解いて友達と一緒に帰れない日はまたひとりで帰るようになりました。
そしてその日、用事があった私はいつものバスが通り交通量も多い大通りではなく神社と公園が隣接する近道を通って駅に向かっていました。今思えばあの人は私が警戒を解いて人気のない場所でひとりになるタイミングを、つけ狙っていたのだと思います。
神社を過ぎ公園も過ぎて、所々木の根が地面に隆起している林の道でいきなり後ろから羽交い絞めされ、近くの建物の影に引きずり込まれました。
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