52.舅の暴言

出産後、安堵と疲労で出産したことを彼にも両親にも知らせずに爆睡してしまい、目が覚めると面会時間になっていました。

「破水して病院へ行った」
と彼から連絡を受けていた両親は
「初産だしまだ産まれていないだろう」
そう思いながらも仕事へ行く前に病院へ寄り、看護師さんから産まれたことを教えられ驚きながら病室へ入ってきました。

すやすや眠る孫を目にすると滅多に笑わない父の顔がみるみる綻びました。そのとても優しい眼差しで孫を見つめる姿を
「私の誕生もお父さんはこんな風に喜んでくれたのかな」
と思いながら眺めていました。
母は既にボロボロと涙を流しており、それでもさりげなく手足の指の本数を確認してとりあえず見た目には異常がないことに安堵しているのが分かりました。
二人は交互に孫を胸に抱き、時間になると名残り惜しそうに病室を後にしました。

慌ただしく仕事へ向かった両親と入れ違いに、彼が入ってきました。
穏やかに眠る我が子を、実親の顔も名前も知らない彼がどんな気持ちで見ているのか私には分かりませんが、彼は声もなく涙を流すと恐る恐るそっと子どもの手に触れました。
「抱いてみたら?」
本当は彼にもあまりこの子に触れて欲しくないと思っていましたが、自分でも思いがけずそんな言葉をかけていました。

多分、彼の人生に同情したのだと思います。

実親を知らず、養父には躾と称された暴言暴力で支配され、養母には性的搾取をされ、逆らうと「育ててやったのに」「今までお前にかかった金を返せ」と責められ、なにかに理由をつけては金銭を要求され、従うしかないと思い込まされている彼の人生

私の言葉に促された彼は、両手を我が子に伸ばしましたが途中で引っ込めてしまい
「また来る」
と言うと病室を出ていきました。

それから数分後、ノックもせずに舅と姑がいきなり病室に入ってきました。
舅は挨拶もなしにヅカヅカとベビーベッドに近づいて来ました。
子どもの身の危険を感じた私はまだだるい体を無理矢理動かして、舅がベッド脇に来る一瞬前にさっと子どもを抱き上げ、また自分のベッドに戻りました。

赤ちゃんのいないベッド脇に立って舅は、私の胸に抱かれた子どもの顔を指差し

「生まれてから何時間も経つのにま~だ目もあかねーのか、こりゃ、かたわだな、めくらだな。
めくらのかたわで怠け者で不細工でろくでなしでバガっこだな。
嫁にきた先の言うことも聞けねーバガっこが産んだそれもバガっこだな。
すぐに死んでまればいいんだ」

と言いました。








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