【読む地獄】舞城王太郎『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』のあらすじを全力で紹介
舞城王太郎。
2001年、『煙か土か食い物 Smoke, Soil, or Sacrifices』でメフィスト賞を受賞し小説家デビューした、生まれ年と出身地を除いたすべての情報が謎に包まれている覆面作家です。
また、大暮維人氏の漫画『バイオーグ・トリニティ』の原作者でもあり、
アニメでは『龍の歯医者』『ID:INVATED』の脚本や『錆喰いビスコ』の絵コンテを担当、
昨年9月16日には処女詩集『Jason Fourthroom』が発売されるなど、小説以外の分野にも活動範囲を広げています。
彼の小説の最大の魅力。
舞城作品を舞城作品たらしめているもの。それは
主要登場人物の頭の回転の速さ/行動力の高さ
だと思います。
あくまで個人的な意見ですが、まず大前提としてこれがあり、そして、ごく一部の例外を除いた ほぼ全ての作品に当てはまると思うのが、以下の5つの要素です。
1.冒頭からずっと着いてくる、些細で強烈な違和感
2.有無を言わせぬ暴力的なまでの文圧
3.少年少女の運命的な出会い
4.日常の中に突如あらわれる非日常
5.すべてを背負い、爆走する終盤の展開
舞城作品で特に知名度が高いのは、
デビュー作である『煙か土か食い物』
三島賞を受賞した『阿修羅ガール』
芥川賞の候補になった『好き好き大好き超愛してる。』などですが、
実は、先の5つの要素がずば抜けて強烈な 超マイナー作品が存在するのです。
それが……
『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』。
*
ソマリア連邦共和国。通称ソマリア。
植民地からの独立や軍人によるクーデター、国境紛争などを経て1988年に発生した内戦が現在も続いている国です。
1993年に米軍が介入・撤退した「モガディシュの戦闘」は、『ブラックホーク・ダウン』として書籍化・映画化されています。
今回は、この国の名前をそのまま名付けられた少女「杣里亜」を中心に展開していく、舞城作品の中でも頭ひとつ飛び抜けた問題作の大筋を、先ほど挙げた5つの要素と、一部 本文からの引用を交えて紹介していきます。
【1.冒頭からずっと着いてくる、些細で強烈な違和感】
〜杣里亜の誕生〜
物語の発端は1977年。フリーのカメラマンである伊藤光司は、隣国エチオピアやケニアからソマリア入りを試みますが、先述した国境紛争や彼自身の都合によってこれを断念。翌年、妻・弓子との間に生まれた娘に「杣里亜」と名付け、その直後に交通事故で死亡します。
【2.有無を言わせぬ暴力的なまでの文圧】
〜杣里亜の幼少期〜
弓子に連れられ、2歳で日本に帰国した杣里亜でしたが、彼女を待っていたのは決してあたたかい家庭ではなく、逆恨みによる理不尽な暴力でした。
実の母には叩かれ、叔父には触られる。
とにかく杣里亜は、見聞きするに堪えない凄惨な家庭内暴力を受けながら育ちます。
特に酷いのはこの叔父・淳一で……。
以下、地の文からほんの一部だけ引用します。
おそらくここまでが起承転結の「起」、序破急の「序」。この時点で杣里亜は11歳です。
恐ろしいのは、読んでいるうちに「淳一のような人間が、ギリギリ現実にいてもおかしくない」と思わされることなのです。
【3.少年少女の運命的な出会い】
〜ガール・ミーツ・ボーイ・アンド・ガール〜
場面は変わり――といっても、次の行からそのまま地続きなのですが、15歳、高校生になった杣里亜は、2人の同級生と深く関わりを持つようになります。
語り手である「俺」「徳永英典」と、東京からの転校生で彼のガールフレンド「野崎智春」です。
この智春はある日突然、本当にあっけなく、杣里亜を殺してしまうのですが、とにかく役者は揃い、ここから物語は大きく動いていきます。
【4.日常の中に突如あらわれる非日常】
〜英典と杣里亜〜
智春が杣里亜を殺した日の夜。学校に自転車を取りに戻り、家に帰ろうとしていた英典は、死んだはずの杣里亜と出会います。
困惑し、質問攻めする英典に対して杣里亜は、
「自分は教室で智春に殺され、病院に運ばれたが、教室にある英典の机で生き返ったこと」
「死んでいる間はソマリアにいる夢をみていたこと、そしてそこに英典が迎えに来て、夢の中から連れ出してくれたこと」
そして「智春に殺された自分の死体はなぜか物理的になくなっていたこと」を告げるのでした。
【5.すべてを背負い、爆走する終盤の展開】
〜戦い〜
その後、色々……とても簡潔には説明できないいくつかの出来事があったあと、杣里亜・智春・英典の3人はついに叔父・淳一と対決することになります。
殺されるたびに生き返る杣里亜。
彼女を救いたい一心で動く英典。
2人の帰りを待ち続ける智春。
ここでも圧倒的な熱量と爆発的な速度で 3人それぞれの戦いが描かれます。
*
……非常に大雑把で曖昧になってしまいましたが、以上、僕が自分の言葉で説明できる精一杯の大筋でした。
まとめます。
・主要登場人物の頭の回転の速さ/行動力の高さ
・冒頭からずっと着いてくる、些細で強烈な違和感
・有無を言わせぬ暴力的なまでの文圧
・少年少女の運命的な出会い
・日常の中に突如あらわれる非日常
・すべてを背負い、爆走する終盤の展開
舞城節がこれでもかと凝縮された短編『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』。
好き嫌い・合う合わないが激しく分かれる作品なので、もう「とりあえず一度読んでみてほしい」としか言いようがありません。
ですが残念なことに、文庫書き下ろしであるこの作品が唯一収録されている新潮文庫『スクールアタック・シンドローム』は、この記事を投稿した2023年1月28日現在、絶版となっています。
もしいつか、どこかでこの本に出会った時は、ぜひ手に取って、読んでみてください。
この投稿が、皆さんの読書の幅を広げるひとつのきっかけになれば幸いです。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
(サムネイルは画像編集アプリ「Canva」で作成しました)
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