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【私はスターになりたい】

1『彼女たちの歌は、消費財の装いをしていたが、感情に訴える音楽と思考に訴える詞を通して、確実に、日本社会の何かを変えようとした。』
2『松田聖子の無意味なまでの華やかさに酔う一方で、人々は中森明菜の必要以上の諦めの感情に自分を重ねた。』
3『その間に二百万人が応募し、八十七組(九十一人)が歌手としてデビューし、その約三分の一が「スター」として成功したという。そのなかでも、最も成功したのが、森晶子、桜田淳子、山口百恵、片平なぎさ、岩崎宏美、ピンク・レディー、石野真子、柏原よしえ、甲斐智枝美、岡田有希子、中森明菜、小泉今日子あたりとなる。』
4『決戦大会で、「合格」を決めるのは審査員ではなく、レコード会社や芸能プロダクションのスカウトたちだった。この子を歌手として育ててみたいと思ったスカウトは自社の名前を書いたプラカードを上げる。一社でも上げれば、合格となる。複数の会社が上げれば、そのなかから本人の意思でどこに行くかを決める。一部のマスコミはこれを見て、「奴隷市場の人身売買」のようだと批判した。』
5『・・・桜田淳子が合格した。番組が始まる前から、ゲストのタレントたちのあいだでも、「あの子はすごい。絶対にスターになる」と噂されていたほど、彼女は輝いていた。この二十五社という記録は、以後、誰も破ることができなかった。』
6『〈スター誕生!〉プロデューサーの池田は、桜田淳子には宝石の輝きを見、山口百恵には原石の輝きを感じたと、彼女を最初に見たときのことを・・』
7『ジーパンにシャツスタイルというごくありふれた服装なのに、なぜか彼女(百恵)がいるそこだけ静まり返っているように思えたから不思議だ。確か四百人以上の応募者が来ていたが、そのなかで光っているというのか、ありふれた言葉で言えば存在感があった。騒々しい会場の雰囲気のなかで、そこだけが水を打ったように静かなのだ』
8『というのも、彼に言わせると山口百恵の「登場のインパクトは、とても桜田淳子の比ではなく、後の百恵神話を予測させるものはほとんどなかった」・・』
9『池田と阿久が冷静に振り返るのに対し、山口百恵は神がかっている。「自信があったわけではないのに、合格するだろうということは信じていた。思った通り、十何社かのプラカードが音もなく上がった」音もなく上がったと彼女は回想する。だが彼女には聴こえなかったのだ。「それまで見ていたテレビでは、この瞬間、ほとんどの人が両手で顔をおおって泣く。私も、そうなるかもしれないと、半ば期待感を抱いていたが、意に反して涙は一滴も流れなかった」「何故、あの時、合格できると思えたのか、今もって不思議でならない。目に見えない天啓だったのか、単純な自己暗示だったのか、とにかく発表を聞く前に、私は歌手になれることをはっきり確信していたのである」。』
10『山口百恵のように、最初の応募ですんなり合格したわけではなかったが、中森明菜も自分が歌手になることを確信していた。』
11『松田聖子は・・・の九州地区大会で優勝したのがデビューのきっかけということになっている』
12『・・そして所属プロダクションも大手のホリプロだった。売れないのがおかしい状況だったのだ。事実、そんなにヒットしていないにもかかわらず、彼女は多くのテレビ番組に出演し、いくつもの雑誌に登場していた「話題の新人歌手」だった。レコード売り上げという、実際の数字だけが、作られた「話題」についていかなかった。』
13『テレビに登場し歌う山口百恵の着ている服は、やぼったかった。パッとしなかった。輝きが感じられなかった。それだけではなかった。何よりも山口百恵は楽しそうではなかった。歌手になりたくて何百倍もの競争をくぐり抜け、ようやく慣れたはずなのに、その他の歌手が、たとえ本心はどうであれ表面上は楽しく歌っているのに、なぜか彼女はいつも無表情だった。その瞳が「死んだ眼」だと評されるほどだった』
14『普通ならばそれで消えてしまうだろう。ともかく売れなかったのだ。代わりはいくらでもいる。そもそも、なぜ彼女は選ばれたのだろう。スタッフとしては、とりあえずは自分たちの感性を信じるしかなかった。山口百恵を選んだ自分たちの感性は正しい。問題はその売り出し方だ。戦略に誤りがあったのだ。もう一度やってみよう。阿久が言うように桜田淳子の代わりだったのか。そんなはずはない。別のやり方があるはずだ。』
15『・・彼女のレコードの政策責任者である・・は・・極めて単純な結論に達した・・・シンボルにしよう・・のイメージを思いつき・・・作詞家の・・に伝えた』
16『それは、こんな歌を歌うことへの「罪悪感」にも似たものであり、当時の他のアイドル歌手たちとまったく異なったイメージにイメージに見られることへの恐怖感だった。』
17『「そうはいっても、私の躊躇など、ビジネスのシステムの中では何の意味も持たず、結局スタジオに連れていかれ、ひとりきりの世界へ閉じ込められてしまった」。』
18『・・の読みは当たり、今度は文句なしのヒットだった。・・という山口百恵のイメージが確立された・・山口百恵十四歳、中学三年生である。』
19『人々は山口百恵を・・というイメージで見た。彼女が恐れていた通りだった。ただでさえ、芸能界にはそういうイメージがあるのだ。やがて彼女が・・だということが、興味本位に報じられるに至っては、もはや彼女は完全に・・だった。一般的にも・・が話題になっていた背景もあり・・・』

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