万葉の恋 第8夜
2014.9.8
・・・・。
テーブルの上に置かれたのは
その中身が安物ではない事を
証明するハイブランドのリングケース。
私に向かって蓋が開いている。
中にはもちろん、指輪が入っていた。
1度目は、なかった“婚約指輪”
「嫁さんになってください」
そう言って、頭を下げる三上に
一瞬起こした錯覚が心拍を上げた。
話があると言われた。
担当を回った後、待ち合わせた
いつもの喫茶店。
「・・嫌だ。」
「そこをなんとか、もう、
俺だけじゃ限界なんだ」
まだ頭を下げ続ける三上に
少しずつ心臓が落ち着いてきた。
・・バカか、私。
「嫌だ」
何が悲しくて、片思い相手の
“偽装結婚”につきあわないといけないのか
・・そんなの、自分から
斬られに行くようなもんじゃない。
「レン・・」
・・・。
「何?」
ようやく顔を上げた彼は、
蓋が開いたリングケースを手に取り、
まるで通販番組みたいに話始めた。
「これね、見てわかるとおり、
安物ではないんですよ。
滑らかなプラチナ素材のライン。
中央に、花開くように
美しく輝く唯一無二のダイヤモンドは
レンの指を、エレガントに飾り、」
「いくらしたの?」
「50万」
・・バカだ。
「バカだって思ったろ」
「よくわかったわね」
「それだけ、切羽詰まってんだよ。
頼む。このとおり。お前しか・・
レンしかいないんだ。頼むっっ」
・・・殺し文句。
また頭を下げた三上に声をかけた。
「目的を果たしたら、売っていい?」
上げた顔、んっと1度、口を結んだが
「・・・引き受けていただけるので
あれば、やむなし」
「・・わかった」
「ありがとうございますっっ」
両手をテーブルにつけて頭を下げた。
これ、周りから見たら
プロポーズに見えるのかな・・
男の方が必死すぎるけど。
少し、夢を見たかった。
彼に向かって、左手を出す。
三上は、あぁと言いながら
私の手を取り、薬指へリングを滑らせた。
「サイズ・・なんでわかったの?」
第1の難関を突破した彼は
気の抜けた返事を返す。
「レンの手、ずっと触ってきたしな」
・・早く、嫌いになりたい。