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「作品を作る」=「最適化問題を解く」

作品を作る過程は、最適化問題を解く過程に似ている。

最適化問題とは

最適化問題とは、ある評価指標を最小化(または最大化)するようなパラメータの組み合わせを求める問題である。

例えば、お菓子の詰め放題でどのお菓子をどんな順番でいくつ詰めていけば、一番自分が満足できるお菓子の詰め合わせになるか、といった問題である。

この場合、お菓子の選び方、入れる順番などが「パラメータ」であり、好きなお菓子がたくさん入っている方が良い、高いお菓子がたくさん入っている方が良い、といった満足度の度合いが「評価指標」となる。もちろん、人によってこの評価指標は異なり、評価指標が異なればそれを満たす最適なパラメータも異なる。

これを「作品を作る」という過程に置き換えてみよう。

作品(ここでは一旦、視覚表現を例に考える)を作るという問題は、

・色
・形状
・配置
・モチーフ
・表現技法
など

といった無限のパラメータを、その作品が最も「良くなる」組み合わせを選ぶ最適化問題であると言える。

色をちょっと変えて、位置を変えて、向きを変えて、またちょっと色を変えて、そうしながら自分の中にある「評価指標」が良い方向に動くパラメータの値を試行錯誤しながら求めていく。

どの方向にパラメータを動かせばより良くなるかを知っていることは「技術やテクニック」に相当し、自分の中にどんな評価指標を持っているかが「感性や個性」に相当する。

局所最適に陥る

最適化問題を解く最もオードソックスな手法の一つとして、勾配降下法というものがある。

勾配降下法の手順は、まず適当に選んだパラメータを出発点として、そこから「少しだけ」パラメータを変化させる。変化後のパラメータにおける評価指標が、変更前より良くなった場合、そのパラメータを採用し、再びそこを出発点とする。これを繰り返していき、どの方向に「少しだけ」変化させてもこれ以上改善しない状態になった時、そのパラメータを最適解とする。

この勾配降下法は評価指標がシンプルな場合に非常に有用である。しかし、評価指標が複雑な場合、「局所最適」という状態に陥る。

局所最適とは、今のパラメータからどの方向に「少しだけ」変化させても評価指標は改善しないが、実は今の場所から全く違った遠い場所に、今よりもさらに良い組み合わせが存在している状態である。

この「局所最適」とは、クリエイターなら誰しも感じたことのある、いわゆる「しっくりこない」「何かが違う」という状態なのではないだろうか。

私もCDジャケットのデザインをしているとき、どうしても行き詰ることが多々ある。デザインの方向性、ロゴの位置、フォントなどある程度決まった段階で、そこから先どうやってディティールを詰めていってもどうにもしっくりこない。何かが違う。ダサい。目を引かない。カッコよくない。

そんな時は、一番最初の前提を変えてみる。デザインの方向性をクール系からダイナミック系に。ロゴを今よりも大きく、ど真ん中に。フォントをゴシックから明朝に。

これは、最適化問題において、初期値をリセットして、局所最適から脱出する試みに他ならない(いろいろ試した結果、やっぱり元のものが一番良かった、ということも多い)。

局所最適に陥っていると思ったら、今まで積み上げてきたコンセプトやロジックの根元の方を見直してみる。そうすると、今よりも良い解を導くことができるかもしれない。

最適解を複数持つこと

先ほどの局所最適を脱する試みを行っても、結局元のデザインに戻ってしまうことはよくある。どこを出発点にしても、同じようなデザインにたどり着いてしまう。

これは、いわゆる「表現の幅」が狭いがゆえに、パラメータの動かし方に制限がかかり、またその先に最適解があることを見抜けず、近くの局所最適に落ちてしまうのである。

この「表現の幅」を広げることは、自分の中の評価指標に最適解を増やすことに相当する。

つまり、「A」という解と「B」という解が最適解として存在し、どちらも評価指標は十分であるが、解としては全く異なるパラメータの組み合わせになっている状態である。

数学の世界では、このような(局所)最適解が複数あることは問題を解くうえで非常に厄介であるが、作品作りにおいては最適解がたくさんあるに越したことはない。

どんな初期値からでも、素早く完成度の高い状態に持っていくことができるのは、限られた時間の中で制作を進めるクリエイターにとって非常に重要な要素である。

評価指標は主観である

評価指標は「感性や個性」に相当すると述べたが、作品を作っていく中で、良し悪しの判断は基本的に主観に基づくものである。したがって、自分が「良い」と思うものと、他人が「良い」と思うものは、もちろんズレがある。

クライアントワークをしていくと、自分は良いと思ったものが、クライアントには刺さらなかった、ということがある。作業も終盤になった段階で「これじゃない」と言われることを避けるために、一番最初に2~3のラフ案を提出するのはよくある光景かと思う。

これはつまり、

「多分この辺りに最適解がありそうな初期値A・B・Cを選んだんだけど、Hey, you. 君はどれに一番可能性を感じるんだい?」

という、クライアントの評価指標を探るためのテクニックなのである。

まとめ

・作品を作ることは、最適化問題を解くこと
・局所最適解に陥ったら、初期値を変えよう
・評価指標は人それぞれ

おわり

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