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微笑みの国での食中毒体験

こう見えて(見えないでしょうが)消化器官は丈夫な方だ。
しかしそれはあくまでも日本という国での話。こと東南アジアの国となると話は別。

初めてタイに仕事で訪れた時は食あたりするのが怖くてコンビニの菓子パンばかりを食べていた。

ラヨーン県にある工場はシラチャから車で約1時間の距離に位置していたが、当時は道路も整備されていないため渋滞により約2時間の通勤時間だった。ひどい時には2時間半。

タイは日本のようにトイレ事情が良くない。コンビニに客が入れるトイレなどなく、唯一ガソリンスタンドにあるくらい。
そのガソリンスタンドも通勤ルートには1箇所くらいしかない。

下痢している状態で2時間トイレ無し。想像しただけで恐ろしい。

当時の工場は建設途中だったので食堂などなく、昼食は注文表に名前とほしい料理に丸をつけて注文していた。
私以外の駐在員の人たちは皆それで注文していた。

2度目の出張。コンビニの菓子パンもさすがに飽きてきて、皆と同じく昼食を頼むことにした。
炒飯を注文した。冷めていたのもあるがあまり美味しく感じられなかった。料理の中に羽虫とかも入っていて、聞くと社員が近くの屋台で買ってくるそうな。
幸いなことに私はそういうのは気にならないが、だめな人は食べられないで捨てていた。

帰国2日前。注文表を前に迷っていると建設班の人に声をかけられた。
「なんだ迷ってるのか。」
「はい、いつも炒飯ばかりなのでたまには違うのをと思って。」
「バミーでも頼んでみたらどうだ。バミーであたるやつはいないぞ。」

そういや麺類は頼んでいなかった。確かに麺だったら食あたりはしないだろう。注文した。

ところが15:00くらいから悪寒がし、ひどい倦怠感が襲う。
腹痛もしてきた。気持ち悪い。
嘘つき!あたるやつはいるわ。俺だ。
バミー以外食べていないのだから間違いない。絶対食あたりだろうこれは。

そこから1時間トイレから出てこれなくなった。
とにかく腹が痛い。今まで経験したことがないくらいの腹痛が間断なく襲ってくる。

腹は痛いが脱水症状になるのを避けるために水を飲む。トイレに行く。
そんなことを続けているうちに座っていることもできない状態になり、仕事をしていたサーバー室に寝転がった。

「*※@&#...どうしましょう?」
「だめだなコレは。すぐに病院に連れて行かないと。」

痛みが引いた僅かな時間に寝たらしく、気がつくと背後で話す声がして、シラチャの病院へ連れて行かれた。
「◯◯さん、急患です!急いでください!」
「あいよ!任せときなってんだ!」
といったやり取りがあったかどうかは定かではないが、ドライバーはとにかく飛ばした。

整備されていない道路はところどころ穴があるがお構いなしに飛ばす。
ドン!と突き上げるような衝撃。そのたびに腹痛が増し思わずうめき声をあげた。制服は脂汗でビショビショ。

キリキリと痛みが起こると体中に力が入り息を止める。治まるとハアハアと息を吐く。経験したことも無い腹痛だった。なんでこんなに痛いんだ。
途中で何度も意識を失いかけた。家族の姿が浮かんできたりして、これが走馬灯じゃないんだろうなと思っていたことが記憶にある。

病院に到着。処置室に運ばれて何やら問診。さっぱりわからんが付き添ってくれた駐在員の人が英語で答えていた。
点滴をされ、その頃には痛みも治まってきていて、問診をしてくれた女性がとてもきれいだったのはよく覚えている。

入院を勧められたが明後日帰国するし、治療費がものすごく高いと聞かされていたので無理。

それにしても、いったい何にあたったんだ?
一緒にバミーを食べたのは3人。私一人だけがあたった。
麺ではないだろうから考えられるのはひき肉で作られた団子のようなもの。

翌日はほとんど何も食べられず。
帰国日は帰りの機内で事情を話して通路側に席替えしてもらった。

これに懲りて、その後の出張では食生活に気を遣ったかと言えばそんなことはない。喉元すぎれば痛さ忘れるってやつである。
そもそも気をつけようがない。街で一番高いというタイ料理のレストランに行ったがあたった人が数人いた。

日本だと飲食店で食中毒なんぞを出そうもんなら閉店の危機くらいの騒ぎになるが、タイではありふれた出来事なのか騒ぎにもならない。たぶん補償なんて無い。
まあ、あたったときには運が悪いくらいに考えていたほうが良いのかもしれない。

この時の食あたりが人生最大のものだった。腹痛が日本のものとは次元が違う。
そこから数年、定期的にタイのシラチャに通ってるが、その後に食あたりしたのは一度だけ。
疲れていて食事に出かける気にならず、近くの屋台で買ってきたマンゴーソムタムとビールを夕食にした時。

買うときには気づかなかったがソムタムには生のカニが入っていた。海で捕れたブルークラブはあたらないと聞いていたので、そのまま食べたが草木も眠る丑三つ時からトイレに籠城。生カニは気をつけましょう。

ちなみに日本食で食あたりした話はいまだに聞いたことがない。知らないだけかもしれないが。
でも、タイに行ったらタイ料理。私はタイ料理が大好きだと行くたびに気付かされる。
次に訪れた時もアロイアロイと舌鼓を打つんだろうな、きっと。