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アプローチ=毛鈎の流し方・その2

 フライフィッシングの基本、というと、上流へ向かって投げる「アップ・ストリーム・キャスト」なんですが、意外に斜め下流を攻める「ダウン・クロス」が実用的だったりします。そこでこのふたつに加え、現実的には多く直面する「アップ・クロス」について解説します。

●真っすぐ上流へ=アップ・ストリーム・キャスト

 文字通り上流へ投げること。ただこれだと、魚の頭の上にリーダーやらティペットやらが落ちてしまうので、ちょっと技を使ったりします。
 カーブ・キャストというのがそれですが、サイドキャスト気味に横から竿を振り、ターンを強くして反対側に余計に曲げたり、逆に失速させてターンさせ切らないことで曲がったまま着水させることです。ただ、これら……失敗すると水面をブッ叩いたり、グチャッと着水して悲惨です。

 ならば次の手。魚のいるところから真下の下流ではなくて、ほんの少し、左右に立ち位置をズラしましょう。これで魚の頭の上にリーダーを落とさずに済みます。
 で、ここからがキモなのですが、リーチ・キャストという技を使います。毛鈎が着水し、まだ糸の部分が空中にあるうちに手元のラインを解放して(ここ重要!)、竿を横に倒すことで、流れてくるラインを魚の泳いでいる筋の流れに近いところ(=毛鈎と同じスピードで流れているところ)に落とそうというわけです。手元の糸(=フライライン)に余裕がないと、毛鈎を引っ張ってしまうので注意。

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●斜め上流へ=アップ・クロス・キャスト

 実際の釣り場では、もっと角度のついた状態、斜め30度とか45度とかになり、魚のいるところと手前の流れに速度差が生じてしまうような状況が多発します。前回書いたように、できることなら1.2〜1.5mは流れのままに流したいので、手前の流れが速すぎたり、遅すぎたりすると、毛鈎が糸(ラインやリーダー)に引っ張られて、流れのままに流れる、というわけにいかなくなります。

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 このとき使われるのが、スラックライン・キャストですね。着水前に竿を横に振って、引っ張られないための余計な「たるみ」を作り出すわけです。さらにメンディング。手前の速い流れに巻かれる部分を、上流へ打ち返してやるわけです(メンディングは最近、ルアーの人も、風対策/流れ対策などでやっているのを口にするようになりましたね)。あとはリーチ・キャスト。今度は流れに乗せるのではなく、糸に「流される余裕」を作って時間稼ぎをするという使い方をします。
 で、前項で述べたように、手元に用意した余分な糸を解放して、その分をたるみ作りや打ち返しに当てること。そうでないと糸全体の長さが不足して、毛鈎を引っ張ってしまいます。

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 さらに、竿を上に掲げて手前の流れを回避したり、流れの中の岩などに糸を引っ掛けて手前の流れの干渉を避けるなどの方法があります。階段渓流など短距離なら、なるべく糸の部分(フライライン、リーダーとも)を着水させないことで、余計な流れの影響を受けないようにするのが良いですね。

 ただ、釣り場ではどれも難しいのです。だから本当は、こんな面倒なことをしなくとも良い立ち位置/ポジションを見つけるのが、最優先事項だったりします。無駄な「たるみ」はアワセ遅れにもなりますし。

 周囲の障害物(岩や木など)やポイントの形状、性質により、どうしても狙いきれないときも当然あります。そういう時は、あえて流れを無視して、トビケラ成虫や水に落ちたバッタのように、毛鈎を引っ張ってしまうのも一案。このときも、魚が追える以上の速度にならないように、スラックライン・キャストなどは必要ですが、流れのままに毛鈎を流すのに比べれば、多少の細かいことは気にせずに済みます。
 さらに、あまりに流れが複雑な場合(例えば、激流の向こう岸にできた反転流の中)は、最終的には小魚のような演出=ルアーに似た釣りをするのもアリでしょう。ウエットフライ(沈めて泳がせる毛鈎)やストリーマー(小魚を模した毛鈎)、条件によっては重いオモリもプラスします。

●斜め下流へ=ダウン・クロス・キャスト

 魚の前に出てしまうので感づかれやすいという欠点はあるものの、一番毛鈎を自然に流しやすい、さらには操作しやすいポジションですね。リーダーどころかハリス=ティペットも毛鈎より先に流れることはなく、手前の流れが早ければ、リーチ・キャストも、メンディングも楽。逆引きや前回ご紹介した「魚の眼の前で沈めた毛鈎を浮上させる」ような方法も取れる。さらには沈めてルアーのように扇型に引くこともできるのです。

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 ダウン・クロスについて、具体的なお話をしましょうか。
 北関東の温泉地にある川での釣りでしたが、大岩の間から水際に降りると、斜め45度ほどの下流にニジマスが数匹泳いでいるのが見えました。ソフトハックル・フライを結んで、リーチキャスト気味に群れのやや上流へ投入……。計算では、手元のラインを軽く1回、メンディングで送り込むと、群れの直後あたりで糸がピンと張るはずです。
 そのまま流し込んでいくと、毛鈎は見えませんでしたが魚の方が見つけたらしく、1匹、定位置からズレたのが見えました。ここで手元の糸を15cmほどスッと引くと、毛鈎はふわっと上昇(したはず)、魚が白い口を開けたのが見えたのです。しかし、ここで慌てると、糸がほぼまっすぐになっているので早アワセになりすぎます。「ウン」と小声に出して一呼吸おき、滑らかに竿を立てると、竿に魚の重みが伝わってきました……。
 同じやり方で、そこでは3匹の35cmクラスのニジマスを連続でキャッチ。旅館街下のダムとダムに挟まれた、釣り堀的なエリアでしたが、夕刻の短時間に3匹はまぁまぁの出来だったと思います。

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 釣り上るのが基本の渓流釣りですが、実際の釣り場ではポイントや立ち位置に合わせて、要所要所でこのダウン・クロスのような下流に向かっての釣り方を使う感じでしょうか。先行者の追い越し/回り込みや、小河川での釣り下りは、多くの場所でマナー違反です。
 もちろん、大きくフラットな川を扇型に探っていく場合は釣り下りが有利でしょう(伝統的なウエットフライ、サーモンフライの釣り方でもありますし)けれども、ひとつのポイントならばともかく、これで長距離を釣られると、下流から釣り上ってくる釣り人はたまりません。まして魚が泳ぐピンスポット狙いと、扇型に広域を面として狙うのでは相性が悪すぎます。
 このあたりはバッティングしないように、事前の情報収集が必須と言えますね。(了)

フライフィッシング入門:目次
https://note.mu/sakuma_130390/n/n85152b3ea6f3

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