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釣り鈎に関する一考察

釣り鈎を、ただただ「何が何でも魚を掛ける」ということに特化していくと何が起こるのか? 行き着いた先で知ったいくつかの新事実を紹介します。

●釣り鈎に要求されるもの

 さまざまな形を持つ、釣り鈎。もちろんそれぞれに理由があって、魚が吸い込みやすいように工夫されていたり、イシダイのような硬いくちばし状になった歯の奥に掛かるようにしたもの、口の横の「カンヌキ」と呼ばれる部分にしっかりと掛かるように設計されたもの…釣り人の知恵と経験で作り上げられた、まさに蓄積であったりするわけです。

 で、ある意味究極と言える釣り鈎が、鮎の友釣りに使われる掛け鈎でしょう。魚が口にくわえるのではなく、オトリアユに体当たりをしているうちに、引っ掛かってしまう。少しでも鈎先に触れれば、鈎が立ち上がり、貫通する。中でも、何が何でも掛けることに集中した「競技用・超早掛け」系統は、曲がった部分から鈎先までが短く、かつ大きく弧を描くような形状をしているため、掛かりやすく、それと引き換えに外れてしまいやすい、かなり極端なコンセプトの鈎です。

 では、これを普通の釣り鈎として使ったらどうなるのでしょうか。実は筆者はだいぶ以前から、この鈎に毛鈎を巻いて、ヤマメやイワナ、ニジマス用として使っています。今回はその毛鈎から得られた知見のお話です。

●毛鉤に仕立て上げるには

 まず、問題は鈎の大きさです。大きいです。とは言っても昨今は鮎が小型化してしまったせいで、競技用でも6.5号くらいからあります。このタイプの鈎の先駆けであり、私自身のお気に入りである、下図の「アステア・ギブ」も、復活と同時に小型サイズが登場し、極小サイズを作ろうとしなければ十分いけるようになりました。

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 続いて、糸を結ぶ部分の問題。毛鈎用のハリと違って、何もありません。ここは毛鉤を巻き始める前に、3〜4号のナイロン糸を二つ折りにして、糸を結ぶループを取り付けましょう。
 ちなみにこのハリは、鮎掛け鈎の例に漏れず、鈎軸がものすごく細いです。沈めたい毛鈎の場合は、鉛線などのウエイトを入れることを忘れずに。

 なお、あらかじめ糸を結ぶ輪(タイイング・アイ)の付いた、鮎掛け鈎に似た形状の毛鈎作り用のハリもありますが、この競技用鮎掛け鈎ほど極端な設計にはなっていません。またクラシックな鮎掛け鈎にも「カン付き」という輪の付いたタイプがあります。

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 これらは確かに掛かりは良いものの、何が何でも掛けるというアグレッシブな形状ではありません。ここは是非、競技用を使って異次元の体験をしていただきたい(パッケージの量が多く、少々お高かったりしますが)。

 毛鈎のパターンとしては日本式のテンカラ毛鈎に類するような形や、カディスピューパ(トビケラのサナギ)風が相性が良いですが、アイデア次第で他のものにも応用は可能です。毛鈎を作る際の注意としては、どこまでボディを作るのか?という問題があります。あまり曲がっている部分の鈎先側まで巻くと、そこまでしか刺さらなくなります。基本的に、鈎先から半円を描く形で鈎のむき出しの部分が欲しいところです。

●釣り場で使ってわかったこと

 さて、これを実際に使った場合、どういうことが起きたのか。まず驚くのはそのヒット率でしょう。当たりがあれば、確実に掛かります。他の人にも試してもらいましたが、インジケーター(ウキ)の釣りであろうと、投げて引いて釣る釣り方であろうと、流れに乗せて自然に流し込むような釣り方であろうと、それは変わりません。
 そして、予測できたことではありますが、魚がローリングするような動きをすれば、あっさり外れてしまうことが多く、やりとりに慎重さが求められます。いわゆる「モドリ」「カエシ」と呼ばれる、ハズレ止めの部分がないうえに、鈎先が短く、曲がりの部分も滑らかで大きいのですから、当然です。なるべく竿を上に突き上げるようにすることである程度は回避できますが、それでも外れてしまうことはあります。
 逆に外すときは簡単に外れますし、鈎による傷も小さく、魚へのダメージは極めて小さいだろうということも実感できました。

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 一方で、その掛かりのよさゆえに、常識が覆るようなこともありました。水中を引いて釣っているときに、鈎掛かりの衝撃がないのです。グウッと重くなったり、糸が横に走っていくだけ。ガツンとかドスンという手応えはありません。また細軸の鈎なのに、伸びたり曲がったりもありません。

 これはどういうことでしょうか。どうやら、今まで魚がかかったときに感じていた「ガツン」という手応えは、鈎先が上手く刺さらず、あるいは刺さっても「モドリ」「カエシ」の部分で一度止まってしまい、一瞬ではあるものの強い力が掛かって鈎がようやく貫通し、曲がりの部分でその過剰な力を受け止めたときに感じる衝撃をそのように感じているらしいのです。
 また、鈎が伸びるような事故はカエシが貫通していないために鈎先に大きな力が掛かって起きることが多いのですが、ここまで鋭い鈎先と貫通力を持った鈎では、先だけ掛かっているというような状態はありえないので、伸びる、曲がるといったことも起きにくいと解釈できます。

 これがわかれば、釣りに大きなメリットが生まれます。確実に鈎に掛かり、かつそれに強い力が必要ない、テンションを掛ける程度でいいとなると、より細い糸が使えるようになるのです。何しろ、触れ掛かりですから、魚が口にくわえた後(このときにはもう鈎先は掛かっている)、スッと糸を張ればいいだけです…。
 が、かなりのベテランの方であっても、細い糸を使ったとき、最初はこの所作ができません。いつものもっと太い糸のつもりで、素早く、ビシッと竿を立ててしまいますが、間違いなく9Xや8X(0.2〜0.3号。1.2〜1.9ポンドテストくらい)という極細の糸はアッサリと切れます。人によって、慣れるまでは時間がかかるかもしれません。

●終わりに

 極細糸の問題を除くといいことばかりのようですが、何しろ外れやすく、鈎の形状が特殊過ぎます。また中サイズまでの魚ならばなんとかなるでしょうが、50cmを超えるような大物とのやりとりはまだ経験がありません。次の春にでも、芦ノ湖あたりで挑戦できればいいなと思っています。

 ただこの細く鋭い、そしてカエシのない鈎を使った釣りは、魚へのダメージを最小限に止めるのではないか? と考えています。リリースするかしないかは魚種や釣り場の規定、そして釣り人の気持ちの中にあるもので一概には言えませんが、少なくともリリースが選択肢にあるのなら、魚へのダメージを最小限に止める方法のひとつとしてこういった鈎の選択もある、と考えます。そして万が一、糸が切られたときも、魚の側からも外しやすい/外れやすい鈎であることは間違いありません。

 今回は完全にフライフィッシングの話として進めてきましたが、餌釣りやルアーフィッシングにも、さまざまな形での応用は可能と思われます。参考にしていただければ幸いです。(了)

フライフィッシング入門:目次
https://note.mu/sakuma_130390/n/n85152b3ea6f3

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