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フライフィッシングと投げる距離

 先日「フライではどのくらいの距離、投げられればいいんですか?」と質問されました。あ、確かにそのへん書いてないなぁ……と思いましたので、追加しましょう。

 よく勘違いされるのですが「フライフィッシングは海外の大きな川や湖の釣りで日本の渓流には不向き」という話があります。しかし実際は、藪に閉ざされていない限り、短いフライロッド(6フィートくらい)でサイドキャストや上流からの流し込みを駆使すれば、トンネル状の川でも釣りはできます。また、岩陰に身を隠し、竿先の直下に毛鈎を垂らして、いっさい投げることなく釣る、なんて場所もあります(後述します)。
 以前、多摩川で会ったおじさんは「フライなぁ、テンカラ(日本式毛鈎釣り)と違って、その場でいくらでも短くできるもんなぁ」なんて言ってましたが、まさにその通りです。

 で、ちょっとこの動画をみてください。アメリカの老舗フライタックル・メーカー、オービス社のプロモーション・ビデオですが、まるで日本の小渓流……アメリカにもこんな川はあるのです。ブルックトラウトがイワナに見えますね(テンカラも紹介されています)。「フライフィッシングは海外の大きな川や湖の釣り」なんて、寝言以外の何物でもないですね。

 もちろん大きな川や湖、海では、遠投能力の有無は大きな課題ですし、遠投できる=竿を振るストロークが理想的にしっかり完成しているということですから、遠投できることを否定するものではありません。

 ということで今回は、よくある日本の渓流に絞って、どのくらいの距離を釣るのがスタンダードなのか? という話をしていこうと思います。

渓流ではどのくらい投げるのか?

 ぶっちゃけた話、本流筋の大きな川ならともかくも、渓流の釣りなんてみんな魚に気づかれないように、できるだけ近づいて、正確に狙ったところに仕掛けを落とすのがいいわけです。フライフィッシングも同じです。あえて遠くから狙う必要はありません。一時流行った14フィート以上の「ロングリーダー」なんて、小さな川ではトラブルを多発させるだけです(あれは撮影用にフライラインの色が派手だったため、リーダーを長くしないと魚に気取られる……ではないか?と私は推測しています)。

 この図はめちゃくちゃに大雑把ですが、一般的な渓流ではこんな感じです。1フィートが約30cmですので、糸のたるみや竿が斜めになることなどを考慮すれば最短20フィート=6mくらいから29フィート=9m弱

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 道具の解説でリーダーの基本の長さは9フィートとしましたが、小さい川なら7フィート半のリーダーで良いですし、何ならその根元を切り詰めて(先を切り詰めるとテーパーの都合上、太くなってしまうので)、もっと短くしてもいいくらいです。

 魚のいる場所と自分のポジションの間に小さな滝があったり、岩があったり、川があちこちに分流したり……のような日本の小渓流では、無理に遠くから投げるより、魚に気づかれないように接近する方が、位置付けとしてはるかに上です。ここまで距離を詰めてしまうと、14フィート以上のロングリーダーなんてリーダーだけで投げているようなもので、投げにくい以外の何物でもありません。
 上に木がかぶさってくるような渓流ですと、3.5〜4mもある竿を使うテンカラ釣りよりも、1m以上竿が短いフライフィッシングの方が、有利になったりもします。

 もっとブッシュがかぶったような場所に入り込むならば、さらに短い竿を選ぶだけでなく、リーダーの全長を短くするのが効果的です。市販のリーダー、7.5フィート製品の元を1フィート半(約45cm)〜2フィート切り詰めて、6〜5.5フィートにして使います(先端もやはり1フィートほど切って、同じくらいの長さのティペット=ハリスを結びます)。
 そしてしゃがんだ状態から竿を横に構え、水面すれすれのサイドキャスト。水面の上に1mほどの空間があれば釣りができてしまいます。竿が長すぎるようなら、グリップの上の竿そのものを握って、薬指と小指が軽くコルク部分にかかるように持っても良いです。これだけで15cm(=半フィート)くらい短くした効果があります。

ほとんど投げないのもアリ

 また、バックキャストのスペースもなく、バックキャストなしで振り込む「ロールキャスト」もできないという場所では、先ほどの動画の途中(20分26秒くらい)にも出てきますが、藪の下に潜む魚を狙うため、毛鈎をつまんで竿を弓のように引き絞って放つ「ボウ&アロー(弓と矢)キャスト」という方法で毛鈎を飛ばすのさえ、ありです。これだとポイントまでの距離は、竿の長さの2倍弱程度ですね。

 さらに、もっと小さい川ですと投げません。竿の直下を釣るのです。このときは、フライラインが手元にあるとその重さでリーダーが引き込まれてしまうので、ティペットを竿の長さくらいまで長くします。これで重さのあるドライフライ(エルクヘア・カディスなど)を結び、小滝、落ち込みのサイドや白泡の切れ目をチョンチョンと虫が水面をかすめるように流すのです。
 エサ釣りの方でいうところの「ちょうちん釣り」というやつです。英語でいうと「ダッピング」ということになりますか。ちゃんと用語がある=昔から行われているという証拠でもあります。

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 ただし、釣り座までのアプローチは慎重に。3m以下まで近づくのですから、魚から見られないように接近することはもちろん、岩を伝わって音が響かないように、歩き方にも注意しましょう。

海外で最近流行りのニンフフィッシングとは?

 カゲロウやトビケラ、カワゲラなどの水生昆虫の幼虫を模した毛鈎「ニンフ」を使った釣りですと、もっとバリエーションが出ます。
 流れが比較的緩やかで川幅の広いところでは、ウキのような、あるいは毛羽の立った浮力のある目印(マーカー/インジケーター)を使った、エサ釣りでの「ウキ釣り」のような形がメインになります(ルースニングとか言うスカした言い方も)。これだとドライフライの釣りとほぼ同距離ですね。
 一方、水深の浅い中小渓流では、せいぜい竿の長さの2倍くらいまでの距離を、日本式の毛鈎釣り「テンカラ」のように水面直下をアクションをつけながら流したり、ピンスポットを叩くように釣っていくのが多いパターンです(完全に水面の上に浮くドライフライだと、叩くような釣り方ではあまりに一瞬で魚が食いつきにくいようです)。他にも上記の「ちょうちん釣り」ほか、いろいろな釣り方があるのですが……。

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 最近、欧米では「ユーロ・ニンフィング」とか「タイトライン・ニンフィング」とか呼ばれる釣り方が流行っているようです。
 これは、10フィート(約3m)以上の長い竿を使って、金属ビーズを使ったり、タングステンワイヤーを巻き込んで重めに作った毛鈎を水底に沈め(ときには糸にオモリを追加し)、ほとんど竿先の直下を糸を張りながら流す、日本のエサ釣りで言うところの「脈釣り」そのものです。当然投げる距離は短く、4〜5mくらい。竿先から毛鈎までの長さは、竿の長さとほぼ同じか、水深により多少長い/短いくらいで固定されると考えてください。

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 この釣りが最近注目されてきたのは、おそらく細くて強い糸が一般化した(水の抵抗が少なく水底に沈めやすい)ことや、小さくても鉛より重いタングステン素材のビーズやワイヤーが一般化した(オモリがなくても沈めやすくなった)こと、ダブルハンド(両手投げ)やスイッチロッド(両手/片手兼用)の竿の流行で10フィート以上の竿を使うことに心理的抵抗がなくなった(そしてメーカーも作るようになったこと)ことなどが要因でしょう。これらが揃って、進化を促したものと思われます。

 エサ釣りの1形態と同じですから、当然この釣りも、古くからありました。その頃の竿はもっと短い、普通の8フィート、せいぜい9フィートでしたが、エサ釣りでも使われる、ガン玉(スプリット・ショット)やカミツブシといった糸を挟んで固定するオモリだけでなく、激流の底に潜む大物を狙うためには3gくらいの鉛板のウエイトをリーダー先端に巻きつけてみたりもしました(ここまで重いとラインがオモリを飛ばす力がないため、まともなキャスティングはできません)。
 さらにフライラインは完全にリールに巻き込んでしまって、十数mも元の部分をナイロン糸で延長したリーダーだけで釣る、といった方法も行われてきました。またフライラインも竿の番号を無視して、手元の糸のさばきだけを考え、シューティングラインなどの極細のものを使ったりする人もいましたねぇ……。

アタリは目印ではわからない!その打開策

 ただこの釣り、魚が食いついたサイン「アタリ」をキャッチするのにコツがあります。毛糸などで作った簡易な目印をつけて、透明なナイロン糸の位置を確認できるようにするのは当然なのですが、この目印を見ていても、アタリは分かりにくいのです。もちろん、大きなニジマスやブラウントラウトがガツンと食うように、手元まで魚の感触が来ればいいのですが、イワナやヤマメといった日本の中小型魚の場合、それではアワセ(竿を立てて魚に鈎を掛けること)のタイミングが遅れやすく……。

 ということで私自身、これで苦手な釣りではありました。しかし、ある超名人から一言「糸が水面に入っているところを見ていればいい」と言われ、まさに「開眼」しました。流れや風に翻弄される目印を見ていたときは、全くわからなかったアタリが、こんなにはっきり出るのか?というくらいわかるのです。おそらく、本当にその糸と水面の交点「ただ一点」に集中できた効果だと思われます。

 なお、魚が見えているときは、むしろ「アワセ」のタイミングが早くなりがちで、ビックリアワセによるすっぽ抜けが多発します。あえて少し遅らせるくらいでちょうどいいものです。

日本でのメリットはあまりない、けど……

 現在、欧米では10〜12フィートもの専用の竿のほか、専用設計のライン、リーダーが売られているようですが、日本ではそこまでやらなくともいいんじゃないかな?と思います。こういう釣りを知っておき、場所に応じて、普段使っている道具のまま、リーダー/ティペットを延長するだけで十分と考えます。

 なぜかというと、日本式のエサ釣りの竿はもっと長く6〜7m、本流用の長いものでは9〜10mもあったりしますので、本当のところ、このタイプのニンフ・フイッシングはかなり不利=わざわざやる価値はあまりないです。さらにちょっとでも木の枝が被っていると、12フィートもの竿はキャスティングが思うようにいかず、往生してしまいます。別の竿を持っていないと、状況の変化に対応できません(海外には手元セクションを抜いて省くことで30cm以上短くできる、なんて便利な竿もあるようですが)。
 まぁ、フライ専用エリアとか、フライ用の管理釣り場では、エサ釣りのようなライバルはいないので、存分に楽しめますけどね。

 考え方の問題ですけれども、毛鈎の重さや追加するオモリの重さによっては、深い水底にいる大物に、ダイレクトにアプローチできる釣りでもあります。私としては、日本流のさらなる進化にも期待しているところです。日本なら5m超えのスイッチロッド・スタイルの竿と、フライラインを使わないリールの組み合わせがあってもいいかもしれません(しかし、これはもう磯釣りとかクロダイの堤防釣りの道具のような気もしないでもない)。

 ただ、あんまり長い竿で日本のアベレージ=20cm前後の魚を釣るのは、残念ながら面白くないんですよね……。私自身も、オービス社の古いものですが10.5フィート6番の竿を持っているほか、ヘラブナ釣りの竿をベースに3.6m(12フィート)3〜4番くらい?のフライロッドを作ったりもしましたけど、その釣りだけをするような条件以外では、面白くないだけでなく、やはり特殊過ぎて使いにくいという印象を持ちました。ノーマルのフライフィッシングの楽しさの再確認をした、感じですかね。

(了)

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フライフィッシング入門:目次
https://note.mu/sakuma_130390/n/n85152b3ea6f3

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