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フライキャスティングを解体する(3)

●最後に投げる「シュート」について

 さて、前後に振る方法については前回解説した方法でよいのですが、実際に釣りをするときは「最後に飛ばすときはどうしたらいいのか?」が問題になってきます。
 目標までの距離とか、いろいろ調整が必要なことは重々承知のうえで、練習の場合は「竿先を糸(フライライン)の先端が通過したとき、左手に持った糸を放しなさい」でよいでしょう。要するに、竿先から出ている糸が二つ折りになった、その瞬間!というイメージです。

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 というか、あまりこのタイミングについて書いてある本がないんですよね……不思議なことに。
 前方に糸(フライライン)が出て行こうとするタイミング、とか言っても最初はわからないのが当たり前なので、もう本当にカンでやるしかなく、さらに「できた人」しかファンとして残っていかないわけで。こういうのが教本のダメだったところなんだよなぁ……と思います。

 その前の時点、何度も前後に振りながら少しずつ糸を出して、飛ばすのに十分な負荷を竿に掛けられる長さ=重さまで伸ばしていくタイミングも似たようなものです。こちらについては、何人もの人に教えつつ、学ばせてもらった経験から言えば、最初は糸を8〜9m伸ばした状態からシュートを練習して、何度もやった後に、その「糸が飛んで行こうとするフィール」を元に、伸ばしていった方がわかりやすいと思います。4〜5m以内なら結構雑なタイミングなのですが、この雑さが身につくと、シュートの練習に不利なので……。
 そしてこの「少しずつ伸ばしていく」練習は、最初は30〜50cmくらいずつ伸ばすつもりで、糸を持った手の力を一瞬緩める→再度握るを繰り返すのがよいでしょう。まだフォムが固まっていないうちに、一気に1mとか長く伸ばそうとすると、やはりキャスティングが乱れます。

●ダブルホールは小さく練習する

 フライキャスティングに「ダブルホール」という技があります。(1)でも紹介した『釣りキチ三平』にも出てくるのですが、竿と逆の手に持った糸(フライライン)を、竿を振っている最中に鋭く引くことによって、糸の速度を上げ、さらに竿の曲がりを深くして反発力を高め、遠くに投げたり、短いストロークで至近距離に正確に投げようという応用範囲の広いものです。前後で行うのがダブルホール、前か後ろ、片方だけで行うのをシングルホールと言いますが、普通は前後で行います。
 このテクニック、必須ではないのですが、片手投げならできる方がいい(両手投げの竿だと当然不可能です)ので、覚えていただければ幸いです。

 が、これもまた、感覚的な話ばかりで、どのタイミングでどう引くのか、わかりません。さらに、もうひとつの問題点が……。それは引いた分を戻すタイミングも書いていない、教えないので、引きっぱなしになってしまうのです。
 そう……このダブルホール、思いのほか習得が難しいようです。だいぶ前のフライフィッシング・ブームのとき、湖で見ていると、10人中9人が、後ろに投げるときは引いているのに、戻さない……いやむしろ、後ろへの投げ方の練習が不十分で伸びていくパワーもないため、戻せない。このため、前に投げるときにもう一度引くことができず、むしろ引いた糸を戻してしまうという酷いことになっていました。
 明らかに大きなパワーロスです。「こんなことばかりしてたら、ブームも終わるよなぁ……」と思っていたら、ダブルホールの必要がない、長い(そして高価な)両手投げの竿の流行が仕掛けられたものの、結局、大ブームは沈静化しました。「両手投げの方が覚えるのが早くて実践的」のようなことを言う人もいましたが、中小型の魚にオーバーパワー&小さい川に長い竿では、面白さ半減以下なんですよね。

 私としては、これの問題点はタイミングが的確に指示できなかったことのほかに、大きな動作で覚えさせようとしたことにある、と思っています。私のやり方では、むしろ逆です。「動作は小さくやった方がわかりやすい」というのが、私の考え方です。

 ストロークの最後、竿を持った手が停止する寸前の速度が乗ったときに、腰の前あたりに保持した、糸(フライライン)を持った手をスナップをきかせて短く(25〜30cm)、鋭く引くのです。「竿を持つ手に一番力の入るタイミングで糸を持つ手を引く」わけで、左右が別の動きとはいえ、これはわかりやすいでしょう。この位置/この程度の長さなら、糸が前に伸びるタイミングで戻せますよね。ついでに糸を持つ手の力を少々緩めることで糸を滑らせ、ズルっズルっと竿先から出ている糸の長さを伸ばしていくこともできます。最後のシュートもその延長線上の動作=手の力を完全に緩める or 手を放すことで可能になります。
 そして、実際に中小渓流などで行われるダブルホールの動きは、この程度です。大きくなんか引きません。小さく、コンパクトに、そして鋭く、正確に。そういうテクニックでもあるのです。

 この状態をマスターしたら、遠投へのトライに移りましょう。徐々に引く/戻す長さを伸ばし、タイミングをストローク全体の加速に合わせていくのです。ただし、最後に竿の反発する瞬間に合わせてスナップをきかせて糸を引くところは同じです。左右の手がシンクロしていけば、かなりのパワーが発揮できるはずです。

 最終的には、右手と左手の力関係が逆になり、竿のストロークが「従」でダブルホールが「主」、というようなキャスティングもできるようになる、といいのですが……。初めて芦沢さんに見せられたとき、その場ですぐに真似してみたなぁ、なんて懐かしい思い出です。
 そしてこうなると、まるでルアーを投げているような「手首のスナップだけ」「一閃」に見えるキャスティングもできるようになります。
 だいぶ前にフィッシングショーで、某メーカーの人に「試し振りどうぞ」と言われ、当時足の手術をした後だったので何度か断ったのですが、まぁそこまで勧めるなら……とお立ち台になってるところに腰をかけた状態で、2、3度前後に振ってロッドアクションを確認した後にこれをやってしまったら(歩くにも杖が必要な状態だったので仕方なかったのですが)、「何者だ?こいつ」という目で見られ、竿を返却して以降はその某社を含むメーカーの人が声を掛けてくれなくなりました(大汗

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 いろいろ書いてきましたけれども、キャスティングのフォームが固まり、それによって応用も効くようになれば、例え足場が一斗缶、いや平均台くらいのスペースしかなくとも投げられますし、小さな手こぎボートに座ったままでも軽く25mくらいまでは射程距離になります(シューティングヘッドという遠投用フライラインならもっと飛ばせます)。
 練習あるのみと言えばそれまでですが、時間や回数ではなく、きちんとした理論に乗った基礎固めこそが最も大切です……ということでこの項を〆たいと思います。(了)

 なお順番が前後してしまいましたが、竿の握り方や反対側の糸の持ち方についてはこちらで解説しています。

フライフィッシング入門:目次
https://note.mu/sakuma_130390/n/n85152b3ea6f3

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