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もっとみじかいお話

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生活

今朝君が出し忘れた段ボール まだ間に合ったから捨てといたよ ゴミ箱に半分かかったビニール袋に 君の慌て具合が透けて見えてにやける いつの間にか足についてたシール 剥がしながら膨れる君の頬を撫でる シンクの片隅に散らばった卵の殻に 窺える努力の跡に感謝をしながら 家の中のあらゆる場所に君の残骸 拾い集めておくよ 忘れないように いつか手作り感満載のアルバムを届けるから 一緒に笑い転げながら暮らそう 生活とはつまり君と生きること 隙間から無理やり挟まれた新聞紙 引っこ抜いて

春十五番

だいぶ遅れてやってきた 一番みたいな顔をして ああ、いいないいな、なんかいいな あんな風に堂々と生きてみたいな 考えてみれば他の誰もいつも 私を見続けてはくれない 考えたって答えなんて出ないなら ただただ気持ちのいい方向へ 向かってみてもいいかな 強めの圧で吹いてきた あれもこれも吹き飛ばして ああ、いいないいな、なんかいいな きっと怖さより勝るものがあるんだろうな 言われてみれば他の誰も何も 私には関係がない 言われた通りやってみてこけたって 誰も責任をとっちゃくれな

風吹く街の裏通りを 傘も持たず長靴で歩く女の子がいて びしょ濡れの猫を撫でようとした 猫はおびえて ぴょんと飛び降りた 女の子は立ち尽くしたままでいた 小さくて温かい きっとそんな手なのにね、と 君が寂しそうに言った 僕らの世界は この傘の中だけでいい 外の世界には 痛みが多すぎるから 相合い傘になった 君の笑顔がいつもより近くて 少し照れくさかった 空から涙が落ちてくる 世界にはこれだけの 悲しみが溜まっているんだなぁ 傘の外は悲しみの