裁判傍聴①~薬物犯編~

 最も多い裁判の一つに薬物犯の裁判がある。実際、ネット上の統計データを確認しても窃盗と並んで日本で最も多い犯罪だそうだ。平成27年とやや古いが受刑者の男性26.6%女性39.0%を薬物犯が占めている。芸能人が逮捕されるとよく話題になる再犯率も高く平成28年には64.9%となっている。

 実に3人に2人近く再犯している計算だ。「若い時に危険な遊びとして薬に手を出す」というイメージとは対照的に実際、傍聴していてもほとんどの場合、初犯ではなく再犯の被告で必然的に30代以上が多く年齢も高い。

 ケース1

 被告:50代暴力団員 罪状:覚せい剤取締法違反

 高校中退後、職を転々とした暴力団員。暴力団加入後、裁判の2年程前から組長の運転手になったが過度のストレスを飲酒で紛らわす日々。ただ早朝からの運転もあり、飲酒するわけにもいかず、覚せい剤を使用した。組は薬物の使用を禁じており、現在は暴力団を破門された状態。26年前に連続して2度覚醒剤違反で逮捕され受刑した前科がある。離婚歴があり、前妻との間に2人の娘あり。左手の小指はない。

 

 ケース2

 被告:40代電気工 罪状:覚せい剤取締法違反

 生活保護を受けながら、父親の会社で働いている。会社の経営は苦しく借金もあり、そのことから逃れるために覚せい剤を使った。覚せい剤取締法違反の前科があり、1年6ヵ月服役していた。薬はネット購入。入手経路なども正直に話している。妻と家族がおり、判決後の更生に尽力してくれる。見た目は、会社役員のような身なりの清潔な壮年。


 ケース3

 被告:50代無職 罪状: 大麻取締法違反

 暴行・傷害・公務執行妨害・大麻取締法違反など前科が多い。大麻は、以前逮捕されしばらく使っていなかったが、就職活動が上手くいかないストレスから再び購入し、使用した。暴行と障害は当時付き合っていた女性に対するもので、粗暴な性格。家族は母親がいるが、「保釈せず罪を償わせてほしい」と異例の嘆願を手紙にしたためて弁護士を通じて裁判官に提出するなど、息子に対する処罰感情が強い。しかし、本人は至って明るくノリの軽い人物で裁判官から今後の身の振り方を問われると「自分は顔が恐いから就職できなかった。こんどは顔が恐くてもなれる土建業の面接を受ける」などと悪びれない様子。

 

 薬物犯は、薬物を自分の意志で自分に使用している限りにおいては、被害者のない犯罪者である。その点、知能犯や粗暴犯の裁判のように被害者との示談が成立しているかを問われたりはしない。ただ、周囲に与える負の影響は甚大でかつ再犯率の高さも見過ごせない。

 日本の麻薬取り締まりは「逮捕はするが治療はしない」ことが問題とされる。実際、学校では予防的な対策として薬物乱用防止教室を毎年警察が来て行っている。ただ、薬物を使用した後の刑罰や体への影響には言及があるものの治療については言及がほとんどない。もしかしたら、明確な治療法など存在しないのかと感じるほどだ。

 月並みだが被告たちは、一見すると電車の中や街で見かける市民と全く変わりはない。ただ、その経歴を聞くと普通ではない人生が垣間見える。でも本来、人の人生は千差万別なはずなので、一見普通という先入観の方が間違いで、どんな悩みや失敗を抱えているかと考えるのが正しいのかもしれない。薬物も見えないようにそこここで取引されている。裁判を傍聴すると自分のアンテナの歪みが補正される感じがする。



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