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ありがとう番吉

「寒い中、ありがとうございましたー!!!」

お客さんが1組帰るたびに深々とお辞儀をし、戸を締めて数秒しても硬直したままである。

彼は大井町にある焼き鳥屋「番吉」の大将。

つるっとした頭にねじりはちまき、笑顔が印象的で年齢は70近いのではなかろうか。それでも焼き鳥を焼く仕草は小躍りするかのようにキビキビとリズミカルに焼いていく。

私が25.6の頃、立会川に住んでた際に見つけ、笹塚、幡ヶ谷、永福町と移り住んだ今もたまに足を運んでいる。

かれこれ10年にもなる。

大体行きつけになるお店の条件っていうのは人それぞれだが個人的には下記のうち2つ以上当てはまれば行きつけになる、だろうと自己分析している。

1.味が特別美味しい
2.値段が相応
3.人が良い

番吉に関しては、肉が高級新鮮でめちゃくちゃ美味いかといえばそうでもない。しかし、大将の丹精込めた焼き具合をすぐさま口に入れると、肉の最大のポテンシャルを引き出してるとしか思えない。一本一本に魂が込められてるのだ。

値段も安く、なんと言っても圧倒的に人柄が良い。

2020.12/19、私は再び訪れた。17時のオープン直後に予約をしてたから入れたものの、すぐさま常連さんで満席になる。

大将は新しいお客さんが戸を開ける度に申し訳なさそうにお辞儀をして満席なのでとお断りをしていた。

少しだけお気に入りのメニューを紹介してみたい。

やきとり(み)。小ぶりな一口サイズの焼き鳥は、口の中が焼き鳥で一杯になり過ぎず、まさにツマミとしての焼き鳥として完成されている。お腹いっぱいにならず、酒が進む

馬力。にんにくの紫蘇漬け?のようなもの。専門学校時代、同じ系列の蒲田のやきとり大吉に行った際に、友達に「これマジぶっとぶから」と勧められてそれ以来、スーパーでみかけても買ったりしているが、比較的甘酸っぱいだけで、どうもしっくりこない。やはりこのお店のは味が違う。あっさりしている中に、しっかりニンニクが効いている。いくら食べても飽きない。

梅干しサワー。ここの梅干しサワーを飲んで梅干しサワーが好きになったと言っても過言ではない。自家製の梅を潰すとお酒が真っ赤に染まる。ほんのり甘い炭酸と酸っぱさのバランスが絶妙。他では飲めない一杯。


焼きおにぎり。大将が丹精こめて握った焼きおにぎりは味がしっかり目。シメるつもりがお酒をおかわりしたくなる。これまたうまい。


そんな愛してやまないお店、番吉。今年いっぱいで区画整理のため、閉店するという。非常に残念である。

35年生きてきて、こんなに焼き鳥に対して真摯に向き合い、お客さんに対して感謝を怠らない。飲食店の鏡のような大将に出会えた番吉には感謝しかない。

これからどうするのか?と尋ねたらシルバーセンターで聞いてみますとケラケラと甲高い声で笑いながら答えていた。

焼き鳥は立ち仕事だし、そう簡単に続けるというわけにもいかないのだろう。

飲食店というのは、ただ腹を満たせれば、コンビニだってファミレスだっていいのだ。そこにしかない料理や人、そこでしか味わえない体験があるから人に愛される。おそらく番吉も味だけならわざわざ3.40分かけて通わない。

3.40分かけても苦にならないというのはそのお店の強みでしかない。わざわざ足を運んでも通いたくなる店。そんな店にこれからどのくらい出会えるだろうか。

ただ、この番吉、この大将と過ごした時間は私の記憶から消え去ることはないだろう。

ありがとう番吉。

おつかれさまでした!

また来週!

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