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U.S. Contract Law入門

前回のTort Law(不法行為法)に引き続き、Contract Lawについて色々と調べたメモです。ペンシルベニア大学Coursera上で提供しているAn Introduction to American Lawの第2講座をもとに書かれています。
完全に自分用メモです。


1.米国契約法のあらまし

契約とは、法律によって強制可能な相互の義務を生み出す当事者間の合意であり、相互の同意、有効な申し出と受諾の表明、適切な約因(consideration)、キャパシティ、合法性にもとづきます。

Contract - Definition
An agreement between private parties creating mutual obligations enforceable by law. The basic elements required for the agreement to be a legally enforceable contract are: mutual assent, expressed by a valid offer and acceptance; adequate consideration; capacity; and legality. In some states, element of consideration can be satisfied by a valid substitute. Possible remedies for breach of contract include general damages, consequential damages, reliance damages, and specific performance.
(引用元)http://www.law.cornell.edu/wex/contract

Consideration - Definition
Something bargained for and received by a promisor from a promisee. Common types of consideration include real or personal property, a return promise, some act, or a forbearance. Consideration or a valid substitute is required to have a contract.
(引用元)http://www.law.cornell.edu/wex/consideration

契約の基本的な原理は、相互の利益(mutual benefit)と時間(time)です。相互の利益は、隣人が小麦を持ち、自分がオーブンを持っている時のように、取引(契約)によって価値が生まれることを意味します。時間については、隣人がオーブンを今使いたい、しかし交換する小麦は来年持ってくる、といった場合です。隣人が来年本当に小麦を持ってくるか確証がないため、契約という形を取ることで法的に約束を履行させることができます。

契約のメリットである相互の利益と時間は万国共通のものです。米国契約法では、自律した行為者(autonomous agents)の権利を規定し、将来の自身を拘束します。具体的には、人々はコモンローにもとづいて自由に契約を選ぶことができ、裁判所は契約の中で明示的に規定されていない責任から守っています。
また、米国契約法においては、契約は経済的な道具であるという考え方があります。そのため、自律性と契約の自由の原則がある一方で、法的な履行の強制力は商取引の領域に限定しています。


2.契約意思の合致

双務契約では、当事者それぞれがお互いに何かを求めることになります。

事例1
Aのキッチンで水漏れがあったので、Aは配管工Bを呼びました。配管工Bが来て100ドルと引き換えに配管を直すと言い、Aは承諾しました。

しかし、契約において意思の合致がない場合も存在します。

事例2
Zehmer氏(夫)は自分の農場をLucy氏に売るための契約書を書き、署名し、契約書は冗談だと言ってZehmer氏の妻に署名するように説得をしました。Lucy氏が売買を成立させようとした際、Zehmer氏は契約時に酒に酔っていたことや冗談で契約書を書いたとの理由で、契約の履行を拒絶しました。
(参考)Lucy v. Zehmer - 196 Va. 493, 84 S.E.2d 516 (1954)

この場合、当事者のZehmer氏が酒に酔っていただけで、誰もZehmer氏に対し農場を売る契約をするよう(違法な)強制をしていません。自由な意思にもとづいて同意し、契約書に署名していると言えます。言動や書面から、合理的に同意しているという点で契約が成立していると解釈できます。
多くの国では、民事訴訟において契約締結上の過失を認め、その損害賠償を認めることがあります。つまり契約前の段階であっても当事者は一定の義務を負うとされています。これに対し米国では、約束的禁反言(promissory estoppel)の原則に基づき損害賠償を認めた稀な例を除き、合理的な契約の期待であっても保護されません。米国の契約法では、賠償の可能性は意思の合致によります。

Acceptance - Definition
Assent to the terms of an offer. Acceptance must be judged objectively, but can either be expressly stated or implied by the offeree's conduct. To form a binding contract, acceptance should be relayed in a manner authorized, requested, or at least reasonably expected by the offeror.
(引用元)http://www.law.cornell.edu/wex/acceptance

Promissory estoppel - Definition
The doctrine allowing recovery on a promise made without consideration when the reliance on the promise was reasonable, and the promisee relied to his or her detriment.
(引用元)http://www.law.cornell.edu/wex/promissory_estoppel

契約は双方の同意だけでなく、何に同意したかという点も重要に扱われます。より具体的に言えば、①当事者が法的拘束を受ける同意をしたか、そうならば②同意の内容は何であったか、の順に検討されます。
例えば、ある人が金銭貸借の契約をしたとき、契約の背景から議論するのではなく、当事者が契約を成立させたのか、債務不履行の事実があったか、その債務不履行の責任がどうあるべきか、という順になります。裁判所も、当事者の意思にもとづいた履行をさせることになります。
当事者同士が合意した契約においても、解釈において判断がつかない場合、契約は成立しないことがあります。例えば同じ名前の船が2つあり、どちらも同じ商品が積まれていた場合、契約対象が特定できません。この時、契約は成立しなかったということになります。裁判所は同意していない契約を履行させることなく、その履行を強制しませんでした。
別の判例としては、契約の文言が一般的な単語であった場合です。売り手は契約書に書かれたchickenのままに大人の鶏肉を納入し、一方で買い手は想定とは違う品物が届いた!とクレームを入れました。契約書において生後何週間の鶏であったかを特定しなかった場合、それはどのような種類の鶏肉でもよいと同意しただろうと解釈されるのです。


3.契約法の対象

次に、どのような約束が契約法の対象となるのかを考えてみましょう。
自発的義務の領域は巨大で、ほとんどの人は自発的に引き受けた義務をたくさん持っています。しかし、それらのほとんどは法廷に持ち出されることはありません。
コモンローの裁判所は数百年もの間、不正行為を懸念してある種の取引の執行を拒否してきました。その結果できた法理は詐欺防止法と呼ばれています。一定の種類の契約を締結するためには、契約当事者が署名した書面を作成しなければならないというものです(wikipedia)。

Statute of frauds - Definition
A statute requiring certain contracts to be in writing and signed by the parties bound by the contract. The purpose is to prevent fraud and other injury. The most common types of contracts to which the statute applies are contracts that involve the sale or transfer of land, and contracts that cannot be completed within one year.
(引用元)http://www.law.cornell.edu/wex/statute_of_frauds

詐欺防止法によれば、当事者が実際に口頭で契約を結んだという大きな証拠がある場合でも、書面での履行がないことで裁判所が履行を強制しないケースがあります。

次に、社会的な約束(social promise)を見ていきましょう。
例えば、自分がメモを残して家族に「早く帰る」という約束をしました。そのメモが例え書面であっても、契約法はこうした約束にはまったく無関心であると言えます。約束を破ったことで当事者から何かしらの私的な制裁を課されることはあるかもしれませんが、裁判所に連れていかれることはないでしょう。このような行為は、法的に拘束されることを予定していません。

次に、約因理論(doctrine of consideration)を見ていきましょう。米国の契約法では、その法域を明確に対価的交換取引(bargained-for exchange)に限定しています。契約の当事者は、契約によってより便益を得るという考え方を元にするとわかりやすいと思います。贈与元は何も得しない場合、贈与の約束は強制力がありません。


4.契約違反による損害

当事者に責任を負わせるには、当事者が同意したことと、同意した内容を知る必要があります。米国契約法には、期待利益の賠償(expectation damages)というルールがあります。

事例3
Hawkins氏は子供の頃に右手に火傷を負っており、かかりつけの医師であったMcGee氏はHawkins氏の肺炎の診察をしている時に火傷の傷を見つけ、皮膚移植で完治すると約束し、手術をしたものの失敗してしまい、回復不能な手となってしまいました。
(参考)Hawkins v. McGee, 84 N.H. 114, 146 A. 641 (N.H. 1929)

ここで、反事実(counterfactual)という概念が登場します。反事実とは、ざっくり言うと事実と反対のことが起こったと仮定することを言います。手術が失敗した、の反対は手術が成功し手の火傷の傷が治った状態を指します。したがって、McGee氏が賠償すべき金額は現在の回復不能な状態から「元の」火傷の傷がある状態の差ではなく、回復不能な状態から「完治した」状態までの差となります。期待利益の賠償は、契約の不履行を行っていない当事者の救済です。損害の測定よりも、契約を履行によって得られていた利益に重きが置かれています。

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