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U.S. Tort Law入門

今回は、Tort Law(不法行為法)について色々と調べたメモです。ペンシルベニア大学Coursera上で提供しているAn Introduction to American Lawの第1講座をもとに書かれています。
完全に自分用メモです。


1.Tort Lawとは

不法行為(tort)とは、他人に危害を加えたり、損害を与えたりする行為や不作為であり、裁判所が責任を負わせる民事上の過失に該当します。具体的には、訴訟において損害賠償としての金銭的補償を求めることになります。不法行為との関係においては、"injury"は法的権利の侵害、"harm"とは個人が被る損害を指します。

Tort - Definition
A tort is an act or omission that gives rise to injury or harm to another and amounts to a civil wrong for which courts impose liability. In the context of torts, "injury" describes the invasion of any legal right, whereas "harm" describes a loss or detriment in fact that an individual suffers.

不法行為法はいわゆるコモン・ローであり、判例の積み上げによって成熟してきた歴史があります。有名な判例として、1850年のBrown v. Kendallの判例があります。

原告と被告の飼い犬が喧嘩をしていたので、被告は棒で犬を引き離そうとしたところ、誤って飼い主の目を殴り重傷を負わせた。原告は、犬の飼い主が犬を引き離すために棒を使用した方法に過失があったと主張し、傷害事件(assault and battery)として損害賠償を求める訴訟を提起した。

Tort actionとは、金銭的補償だけでなく、不法行為が継続中である場合はその行為をやめさせるための訴えも含まれる。Tort lawは対審主義であり、原告と被告はそれぞれ弁護士を雇って自らの主張が正しいと裁判官や陪審員を説得することになります。

Tort lawの主な目的は、矯正的正義(corrective justice)と呼ぶものを達成するために、被害者を補償することであると言います。矯正的正義とは、被害者を、被害を受ける前の状態に戻すこと(status quo ante)によって過ちを正そうとする正義のことを指します。
Tort lawはそれだけではなく、不注意で攻撃的な行動を抑止すること、無謀さや悪意を罰すること、保険を奨励すること、企業にコストを内部化させることなどが含まれていると言えます。

不法行為責任には、3つのカテゴリがあります。

1. 意図的な行為によるinjury
2. 過失(negligent)によるinjury
3. 危険な行為や製品の欠陥に起因するinjury


2.Kendall氏の行為は不法行為か?

Brown氏は裁判において裁判官や陪審員を説得し、Kendall氏の行為は不法行為であるとして損害賠償を認める判決を下しました。確かに、Kendall氏は棒を振り回したことは事実であり、またその結果Brown氏を傷つけたのは事実です。しかしながら、そこにはBrown氏を傷つける意図はなく、単に喧嘩をしている犬を引き離すことが目的であったのです。
Kendall氏の弁護士はマサチューセッツ州高等裁判所に控訴し、その結果勝訴しました。Brown氏は不注意でKendall氏のそばにいたため、結果として棒がBrown氏の目に当たったと裁判所は判断しました。このように、相手側にも過失がある場合、寄与過失(contributory negligence)という考えのもとで原告側の損害を一部または全部軽減することがあります。

Negligence - Definition
A tort is an act or omission that gives rise to injury or harm to another and amounts to a civil wrong for which courts impose liability. In the context of torts, "injury" describes the invasion of any legal right, whereas "harm" describes a loss or detriment in fact that an individual suffers.
Contributory Negligence - Definition
A plaintiff was totally barred from recovery if they were in any way negligent in causing the accident, even if the negligence of the defendant was much more serious.

Brown氏とその弁護士は、これまでコモンローが規定してきたのが厳格責任(strict liability)であるということを証明することができませんでした。つまり、従来のコモンローによればBrown氏の過失の有無に関わらずKendall氏は責任を負うことになるものの、裁判はKendall氏の勝訴となりました。

Strict Liability - Definition
Rule providing that if you cause an injury by a deliberate act, even if you did not mean to cause injury and were careful, you are liable to compensate the injured party. 

英国におけるコモンローでは、Case of Thorns(1466年)の判例のように、過失の有無に関わらず責任を問われると規定されてきました。かくしてKendall氏はnegligently or intentionallyに損害を与えなかったのであれば、損害賠償責任を免れる、ということになりました。

Brown v. Kendallの判例により、米国のTout lawはfault based systemと言うことができます。行為が意図的であるとき責任を負うという意味ですが、今日ではknowingly or purposefully、またはnegligentlyといいます。偶発的な事故による負傷の責任を問うには、行為者のnegligentを立証する必要が生じたということになります。行為がnegligentであることを訴えるには、合理的な人間が通常とるべき慎重さというdutyがなかったということを示す必要があります。


3.暴行罪にあたる行為

例えば人を故意に傷つけた場合、それはTort lawにおけるbattery(暴行罪)にあたり、Tort law上の損害賠償の責任を負います。それだけでなく、batteryは刑法における犯罪ですので、刑事上の追及を受け、罰金または懲役などの刑罰を受けます。

Battery - Definition
1. In criminal law, this is a physical act that results in harmful or offensive contact with another person without that person's consent.
2. In tort law, the intentional causation of harmful or offensive contact with another's person without that person's consent.

ある夫婦が所有する空き家状態の家に、盗難防止のためにトラップを仕掛けた際、窃盗犯がトラップにかかり負傷したケースでは、一審では家を守るための正当な理由があって窃盗犯を傷つけたことが重視されましたが、二審では空き家状態である家の防衛と人の身体を比較した場合、後者が重視されるべきだと結論づけられました。


4.過失の立証が緩和されるケース

危険な動物を飼育し、他人を傷つけるおそれがあるとき、また生産者が製造した製品に欠陥があり他人を傷つける可能性がある場合など、法律によってfaultの立証責任が緩和され、より厳格責任(strict liability)に近い形になることがあります。これは、原告側の損害を回復しやすくするための措置と言えます。

Products Liability - Definition
Products liability refers to the liability of any or all parties along the chain of manufacture of any product for damage caused by that product. This includes the manufacturer of component parts (at the top of the chain), an assembling manufacturer, the wholesaler, and the retail store owner (at the bottom of the chain). Products containing inherent defects that cause harm to a consumer (or someone to whom the product was loaned, given, etc.) of the product would be the subjects of products liability suits. While products are generally thought of as tangible personal property, products liability has stretched that definition to include intangibles (i.e. gas), naturals (i.e. pets), real estate (i.e. house), and writings (i.e. navigational charts). Products liability is derived mainly from torts law.

事故が起こったという事実から被告の過失が推測されるという証拠の法則という意味を示すres ipsa loquiturという言葉があります。2階の窓から落ちてきた小麦粉の樽が歩行者の頭に当たったとしたら、それはその小麦粉の樽を管理していた人に過失があったということでしょう。ウエイターが運ぶコーラの瓶が突然爆発したら、そのコーラの瓶に欠陥があったということでしょう。

res ipsa loquitur - Definition
Latin for "the thing speaks for itself."
In tort law, a principle that allows plaintiffs to meet their burden of proof with what is, in effect, circumstantial evidence. The plaintiff can create a rebuttable presumption of negligence by the defendant by proving that the harm would not ordinarily have occurred without negligence, that the object that caused the harm was under the defendant’s control, and that there are no other plausible explanations.


5.他人の責任を負うケース

ある人が別の人の不正行為の責任を負うこともあります。例えば、雇用者自身には過失はないものの、労働者の過失に対して責任を負うようなケースです。Joe's Pizzaに雇われたピザ配達人が、配達のために無謀にスピードを出して事故を起こしました。この場合、雇用者のdutyの範囲内として、雇用者の責任が問われることになります。これを、代位責任(vicariously liable)と言います。
米国のTort lawは、こうした重要な例外を除いて、fault-based liabilityにもとづいています。Tort lawは、injuryを補償する唯一の方法ではなく、別の法律で補償が義務付けられているケースがあります。例えば、ほとんどの州では、自動車運転者は過失の有無にかかわらず個人の傷害に対して支払われる無過失保険に加入することが義務付けられています。


6.人の危険を救うのは義務か?

米国のTort lawのもとでは、特別な関係を持っていない限り、伝統的に危険を救うのは義務ではないとされています。したがって、池で人が溺れているのを発見したとしても、例え自分が水泳を得意としており人を救うことができたとしても、救う責任はありません。
しかしながら、Tort lawは進化していっています。精神科医は精神の病を持つ患者が害を及ぼしそうな対象に対し警戒を促す義務を持ち、学校は生徒を障害から守る義務を持ちます。このような動きは、米国のTort lawのトレンドと言えるでしょう。


<付録> 調べた単語一覧

やはり、テクニカルターム?が多いため調べるのが大変でした・・・。

redress … vt. (格差などを)是正する、(損害を)補償する
adversary system … n. 対審主義
procedural justice … n. 手続き的公正 
corrective justice … n. 矯正的正義
calamity … n. 災難、厄災

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