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アイルランドでの最後の日々とコロナでボツになった旅のプランの数々 【Play back Shamrock #17】

※ご注意※ 本連載は2020年に経験した出来事を1年後に振り返る趣旨で公開しており、掲載の情報等は2020年当時のものです。また、第10回以降は当初の公開予定よりも大幅に遅れて公開に至りました。

(見出し画像:UCDとの「別れ際」、最後に撮影した一枚)

 アイルランドでの最後の日々は壮絶だった。それまで当たり前に享受していた日常は儚くも消え去った。一方、情報収集と対応の検討に追われながらも、ホストファミリー宅で時の流れをゆっくりと感じ取る日々でもあった(もちろん、内心穏やかではなかったが)。

 3月9日、私は新型コロナウイルスの感染拡大を懸念して早めに土産物などをダブリンの中心部に買い出しに行くことにした。結果的にこの判断は正しく、それが最後の中心部訪問になった。そして同日、17日に予定されていたアイルランドの一大イベントSt Patrick's day paradeの中止が発表された。
 12日には突如として大学が閉鎖されることになった。最後の1週間はオンラインで、内容を大幅に変更してプログラムが継続されることになったが、この日が最後の通学になった。仲間やキャンパスとの突然の別れを十分に惜しむ余裕もないまま、互いの無事を祈ってキャンパスを後にした。

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写真:UCDで過ごす最後の日、噴水はいつも通り勢いよく水を吐いていた

 それ以降はホームステイ先から基本的に外出することなく、帰国に向けて孤独に対応を検討する日々が続いた。様々なリスクや負担を勘案し、結局は予定通り21日に帰国することになった。
 帰国までの間、全く外出しなかったわけではない。スーパーには2回ほど買い出しに出た。12日の時点でPanic buying(人々がパニックに陥って買い占めに走ること)が起きているとの情報にも接した通り、スーパーの棚は普段よりも商品の並びが明らかに少なかった。これから何が起きるのか、誰もが強烈な不安感に襲われていたのだろう。私も半ば絶望感しか感じていなかった。
 最後の日々、私がかなりの時間を使うようになったのは情報収集だった。万が一にも帰国できない状況に置かれる可能性もあったことから、アイルランドや経由地のイギリスなどの最新情報をこまめにチェックして状況の変化に備えた。皮肉なことに、英語でニュースに触れるトレーニングにはなった。究極的には生き延びるために語学が必要なのだと身をもって学んだ。

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写真:クレーンが林立し、アイルランド経済を象徴するような背景の前でも写真を撮影してもらった

 帰国の前日、最後の買い出しと記念撮影のためホストファーザーに依頼して車を出してもらった。車でしばらく行ったところにある大きな公園で記念撮影をしてもらうことにした。先にダブリン中心部で購入したマフラーを首に巻いて、アイルランドらしく緑を基調にした背景の中で撮影した。

 こうしてついに帰国の日を迎えるのであったが、最後の場面を迎える前に、新型コロナウイルス感染拡大の影響でボツになった旅のプランの数々をここで紹介しておく。

2月29日 日帰りローマ
 ヨーロッパで一度は訪れておきたい定番の行き先として、イタリア・ローマを訪れようとしていた(一風変わったところを攻める傾向にある私だが、定番をめぐることもある)。ただ、タイミングは非常に運が悪かった。ローマ行きの直前になってイタリア国内での感染拡大が取り沙汰され、泣く泣くキャンセルに追い込まれた。今度ヨーロッパを訪れる際には最優先でリベンジしたい目的地の1つだ(そして次回は泊まりで訪れたい)。

3月14〜15日 ロンドン
 論文の提出など学修面での区切りがつくであろうタイミングに、10週間乗り切った自分へのご褒美的な位置付けで、最後の週末はロンドンで過ごそうとかなり前から決めていた(アイルランド入りする前にロンドンで数日間過ごしたことからも、こだわりは強かったことが窺えると思う)。シェイクスピアのグローブ座などまだ訪れたことのない場所を中心に、優雅な週末を過ごしたいと考えていた。2年前の訪問時に英語についていけずに悔しい思いをしたリベンジとして、ミュージカルを観劇することも計画していた。しかしながらヨーロッパ各地での感染拡大を受け、渡航は見送らざるを得なくなった。

3月17日 グラスゴー
 この日はもともと、先にも触れたSt Patrick's day paradeが行われる予定で、当初の計画ではダブリンでパレードを見るつもりだった。しかしパレードは中止になり、その代替案としてスコットランドのグラスゴーを訪れることを計画した。大都市の近場ながら自然が堪能できるトロサックスなどを訪れようとしていた。だが周知の通り、旅行に行けるような状況ではなくなったため、こちらの計画もボツになってしまった。

 以上の3つが新型コロナウイルス感染拡大の影響で断念せざるを得なくなった旅の数々だ。「人生何が起こるか分からないから行きたい場所には行ける時に行っておくべきだ」とこの時ほど強く思ったことはなかったかもしれない。
 さて、本連載もいよいよ最終局面を迎えようとしている。まとめも含め、残すは2回分となった。次回はいよいよ、アイルランドからの帰国の旅路を振り返る。

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