消え去りながら訪れつづけ 21 saku381 2022年1月3日 22:57 あのときのあの水面はもうどこにもない あのときのあの空気はもうどこにもない あの椅子の感触も湿り気も光沢ももうどこにもない 今はもう別の光を跳ね返しているだろう あの屋根の上の月はもう別の月の光に 地平の夜明けの色は別の夜明けに それでも人影に自らの影を重ねて あの頃の川に漕ぎ出していこう けれどももう自分は もういない この中にはもう行けない 遠くの時から寂しく眺めている 行けない場所を 場所を 沢山の人と沢山の船と沢山の水が流れて行ったこの景色 新しい時と新しい人が揺れる水面を賑わしているだろうこのときに 行けない場所は心の中に 心の中に留め置くばかり もうないものはとわにあるのかもしれない 永遠にあるというものはすでにないものであればこそ永遠にあるものなのだ 光るのは建物であり 日であり 神であり あるいは気の迷いであり それぞれの思いのまま景色の中を行く アフリカで生まれた者たちの末裔なら この景色を経てきたのだろうねと自らに問えば 血のうちで戸惑う幽かな気配 そんな昔のことを覚えていてたまるかと 血の声に逆らって目から滲む水は誰 もう行けない場所を眺めているこの場所ももう行けない場所になっていくはず 振り向き後ろ髪引かれひかれながらも絡みつく今の空気が今の呼吸を促す 安らぎを懐かしみながら肺は容赦なく新しい空気を取り込む 佇む優しさに涙ぐみながら いくつものいくつもの数え切れないほどの景色を越えて行くともよ 越え続けていくともよ 疲れ果てた時かたわらに来てくれる景色はきっとある やすらかにゆるやかにたしかに 力を取り戻させてくれる景色が だからこそ立ち止まらない 変わり続ける景色を行き続ける越え続ける かつて本当に自分はここに居たのだと思えることだけがここに居た証 あのときのあの空気は感覚の中にしかない 気が付けばどの景色もどの景色も今の目の前に どのときのどの場所も今の空気に溶けて #写真 #詩 #景色 #西湖 21 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート