作家がガチで自分の小説の入試問題を解いてみた(答え合わせ編)
ダラダラ系前置き
前回、自分の小説が入試問題に出たので、答えを見ずに、制限時間も決めて解いてみた。
全体的には中略も多く(大事なところも飛ばされた…)、内容把握がそもそも難しいだろうなというのが所感であった。受験生には申し訳ない気持ちになる。
ということで、今回は各予備校の解答例を見ていく。今のところ、阪大の解答速報を出している予備校は3つ(リンクはPDFファイルです)。
河合塾
https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/24/ha1-31a.pdf
代々木ゼミナール
https://sokuho.yozemi.ac.jp/sokuho/k_mondaitokaitou/12/kaitou/img/osaka_zenki_kokugo_bun_kai.pdf
駿台予備校
https://www2.sundai.ac.jp/sokuhou/2024/han1_kkg1_1.pdf
そちらを参考にしながら、独断で採点していきます。さすがに各校の解答を全て写すのは引用のしすぎだと思うので、みなさんはそれぞれリンクから見てくださいね。
解答例を作者と一緒に見よう
問1.「その職員は瞳を揺らしながら母の言葉を繰り返した」のはなぜか、その理由をわかりやすく説明しなさい。
私の解答は以下の通り。
各予備校とも「定番」「いつも通り」「型通り」というように職員の説明方法に注目している。これは私も押さえている。職員の反応については「呆気にとられる」「驚きと戸惑い」などとあるので、私の「動揺」と同じだろう。
ということで、これは点数もらえるんじゃないんですか? 幸先のよい出だしだ。
問2 「「そうなんだ」の「そ」の形で佐知子の唇は止まった」のはなぜか。その原因である母の言動もあわせて説明しなさい。
私の解答例は以下の通り。
やや予備校により表現が違うが、佐知子の反応について「衝撃を受けた」「ただならぬものを抱えていると感じ」などとあるので、そこら辺が書いてあると加点だろうか。私の解答は、ちょっとそこら辺の感情について明記しなかったので、これだと満点はもらえないかもしれない。悔しい。
でも、「現実と架空」の話は、この時に入れたほうがいいと個人的には思うんだが…
問3 「佐知子は空っぽだった段ボールから臙脂色のネクタイをとりだすと、箪笥の上にのる母の白い骨壺に巻きつけた」のはなぜか、説明しなさい。
この試験の中でも最難関の問いだった。私の解答は以下とした。
まあ、そもそもこれは、中略されている部分がないとたどり着けない答えなので、正解ではないだろうと思うが、予備校はどうかな、どれどれ……
うーん、
うーん?????
うーん………。
各予備校の解答例としては、「母を慰める供養」「母を慰めようとした」「遺骨に捧げる」とあるが、これはまったく作品の本質ではない。坂崎はそういう優しい小説は書か(け)んのですよ…。
恐らく、墓前に供えるような感じでネクタイを捉えたと思うのだが、そうすると、なぜ供えるものを「ネクタイ」にしたかの答えにならない。そういう意図にするなら、私はネクタイを選ぶことはしない。母親がもっていたもう少しわかりやすいゆかりあるものにするだろう。
また、「首を絞める」という母の言葉が「慰め」では宙に浮く。母親は犬の首を絞めた。そして、佐知子は骨壺にネクタイを巻いて「締めた」のだ。それがただの「慰め」や「供養」であるはずがない。もう少し薄暗い感情がそこにはあるはずだ。これは、たとえ中略部分がなくても推測できる個所ではないか。ゼロ点! ゼロ点の解答です! この問題を落としてがっかりしている受験生諸君、気にすることはないぞ!
問4 「臙脂のしっぽ」という表現にはどのような効果があるか、本文全体の内容をふまえて説明しなさい。
坂崎は以下のように答えた。
これはけっこう、各予備校の解答が割れている感じがした。すべて、ネクタイと首輪を連想させる、という表現に注目しながら、駿台は「母の寂しさに思いをはせる心理」、代々木は「首」に着目してすべてのイメージを連結させる「暗喩の効果」、河合塾は「佐知子の姿が亡き母の異様な習慣に重なるのを暗示」し「母の哀しみに寄り添おうとする佐知子の姿」としている。河合塾と駿台はどうしても、佐知子を母親に寄り添わせたいんだな。
劇中の小道具を「連結」させる役割をもたせるのが私は好きなので、よく使う。ただ、代々木の解答だと、それがどんな「効果」を生み出しているか書いていないので、解答としては微妙じゃないか?という気はする。だからといって、河合塾や駿台の母の「寂しさ」「哀しみ」というのもどうかと思うが…。私の解答は、あれだな、たぶんダメかな…。
総括
問3を除けば、なるほどなあという感じがして楽しかった。問3はまあ、この小説を問題にしようと思った時点で、そして中略をどこにするか決めた時点で、たぶん各予備校の解答例にしようという意図はあったんだろうなとは思う。だが、それは自分の小説ではないなという感じがしてちょっと残念だった。
とはいえ、全体的には面白い体験だった。所詮は試験の問題であり、読書とは違う位置にある行為なので、「自分はそうは思わんかったけど」という受験生も安心してほしい。私もそうは思わなかった。し、逆に、各校の解答例どおりに考えた人がいても別にいい。私が書いたのは作者が感じたことであり、作者もまたいち読者に過ぎないのだから。
というわけで、各大学におかれましては、また懲りずに坂崎作品を入試にだしてくれたまへ。