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骨伝導の恐るべきパワー

おじいちゃん1の介護をしてくださっているミウラさんから、
耳は最後まで聞こえるというので、音楽を聴かせたらと思うんですけど
という連絡が来た。
本人も、モーツァルトが聴きたいといったらしい。

しかし。
おじいちゃんは耳が聞こえない。
低い男性の声で大声で話せばかすかには聞こえるようだけど、
女性の高い声は全くダメ。
普段は筆談だ(それでスペル間違えて直されたりする@潔癖なイギリス人)
なので、
聞こえないのでは? CD流しても。
といったら、ミウラさんも、そうでした、と苦笑い。

以前、一度骨伝導のイヤフォンを彼に使ってもらったことがあった。
けれど、しばらく使って、やっぱりうるさいからいらない、と
返されたのだ。
それから、彼はずっと、音のない静かな世界に住んでいる。
けれど、まぁ、骨伝導なら多少聞こえることも、わかっていた。

なので、再度骨伝導に挑戦してみることに。
ただ、今回は、ずっとベッドにいるので、
頭の後ろにコードが回るのはいやかもしれないなぁと思い、
耳にかけるだけのものを探した。

CDはとりあえず、おじいちゃんのプライドを配慮して、
ロイヤルフィルにしてみた。
最初の曲はサンサーンスの白鳥という、
いわゆるポピュラーなクラシック音楽が入ったCDで、モーツァルトも数曲
入っているもの。

今日、夕食後、イヤフォンをBluetoothでおじいちゃんのパソコンにつなげ、
曲を転送してみた。
音がするのを確認しておじいちゃんの耳にセット。
いやがるかな……耳になにかつけると……。
と思ったけれど、すぐに音が聞こえたからだろうか、
イヤフォンをとることもなくじっとしている。

と、突然、おじいちゃんが大きな声で歌い出した。
とても、サンサーンスの白鳥には聞こえなかったけれど
でも、明らかにメロディーをたどって。
しかも、もと聖歌隊のおじいちゃん、朗々たる独唱だった。
一緒にいたキョーコさんは、おじいちゃんの歌声をビデオに撮っていた。
今週の始めには、もうそろそろお別れかもなんて
密かに心配していたおじいちゃんが
まさか、こんな大きな声で歌えるなんて。
音楽の、そして骨伝導という技術が起こした小さな奇跡。

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佐光紀子
得意技は家事の手抜きと手抜きのためのへりくつ。重曹や酢を使った掃除やエコな生活術のブログやコラムを書いたり、翻訳をしたりの日々です。近刊は長年愛用している椿油の本「椿油のすごい力」(PHP)、「家事のしすぎが日本を滅ぼす」(光文社新書)